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イチャつく2人に世界樹の福音を  作者: 筆々
1章 こうして彼女は出会った。
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6話 太陽は星の輝きを見るのか

「ヘイ相棒、良い感じの依頼は見つかったかい?」



「……いいや、どれもこれも極端な依頼ばかりだな。そっちはどうだ?」



「こっちんも似たようなもんだ。というか、竜の卵とか誰がどうやって取りに行くんだよ」



「本気で言ってるのか、何も考えてないのか、出来れば常識的に考えてほしいものだな」



 商業科の生徒たちが出す依頼を戦闘科の俺たちが達成(・・)するという課題が出ており、学生課の掲示板に張り出されている依頼書を、同じクラスの隣の席という理由から話すようになった、シャルル=アーデルハイドと一緒に眺めていた。



「シャル、やっぱりまだ早いんじゃないか? もう少し時間を置いてからでも十分時間に余裕はある」



「いやいやソルさんや、こういうのはパパッとやっちゃってあとは悠遊と過ごすべきでしょう。それに噂だと早いほど評価も良いらしいですぜ」



 特に評価など気にしていないが、もらえる時にもらっておけば後々楽にはなるか。と、肩を竦めてみる。

 とはいえ、この段階では大した依頼もなく……と、いうより、明らかに無理な依頼やそんな依頼一人で行ってろ。と言う依頼しかなく、本当にその中間が存在していない。



 俺はシャルと顔を見合わせてため息をつくと、丁度商業科の生徒らしきバッチと一期生の青いリボンを付けた生徒2人が依頼書らしき書類を持って掲示板にやってきた。



「ステちゃん早く早く」



「アンナ、そんなに急がなくても今の時期なら大丈夫ですよ」



「なんでよ~」



 片方はどうにも落ち着きのない小さな女の子……騒がしウサギの子ともう1人――と、その片方に目を向けた時、俺は目を奪われた。



 金色の髪が眩しい整った顔つきの女性で、同い年とは思えないほど落ち着いた空気感、どうにも浮世離れした、何とも……そう、美しいという言葉の似合う女生徒がいた。



「アンナ、課題が出たのは2日前です。だからこのタイミングの依頼はどれも極端なものばかりなんですよ」



「どしてよぅ?」



「早めに課題を終わらせたいせっかちさんが誰でも出来る依頼を出しているのと……アンナは僕たちの課題の本質はわかりますか?」



「え? え~っと、グーで殴る!」



「何の本質ですか。そうではなく、学園が僕たちに求めているのは適性を見極めることです。価格や受ける人たちの実力、さらには僕たちがどれだけの協力できるか。です。そしてこの時期はそれを見極めようと無茶な依頼を張りだす人がいるのですよ」



「どうして~?」



「不満は市場に影響されやすいですから」



「……あ~」



「この竜の卵を持ってくる依頼なんて、本来なら騎士団総出でやる依頼ですよ」



「ひっどい依頼があるもんだねぇ。あ、それならウチたちも待った方がいいのかなぁ?」



「いえ、今だからこそその中間に位置する難易度の依頼を出しておけば、それなりに目立つのですぐに受けてくれる人が出てくるはずですよ」



「う~ん、でもステちゃんが言った適性の見極めは良いのぅ?」



「アンナ、そんなこと普通は依頼書を出す前にやっておくべきことですよ」



 至極真っ当な女性の会話に、俺とシャルは顔を見合わせて互いに頷いた。

 同じ結論に至った。凄くまともな依頼主だ。



 騒がしウサギが依頼書を掲示板に張ろうとしているタイミングで、シャルが彼女たちに声をかけた。



「もし、お嬢さん方――」



「うわぁぁっ! ナンパだぁ」



「え、ちがっ!」



 騒がしウサギのまさかの反応にシャルが戸惑っていると、もう片方の女性がウサギっ子の口を手で塞ぎ、俺たちに微笑みを向けた。



「うちのウサギが失礼しました。もしかしなくても戦闘科の方ですか?」



 女性が喋っている最中、騒がしウサギがクルクルと体を回転させて女性に抱き着いていたのを横目に、俺とシャルは頷く。



「丁度よさげな依頼はないかと探していた時に、随分とまともで優秀なお嬢さん方が来たものだったからつい声をかけてしまったんだ。びっくりさせてしまったのならすまない」



「いいえ、実はここに来た時から目には映っていたのであわよくば。とは考えて話していましたし」



「あんた見た目と違って意外と強かだな」



「こっちのウサギさんが少し抜けているので。それでどうでしょう? 僕たちは今この依頼を張りだそうとしていたのですが」



 そう言って女性がウサギから依頼書を引き抜き、それを俺たちに渡してきた。



「お~、これはまた随分と細かいね」



「ああ、ここにあるどの依頼書よりわかりやすいな」



 丁寧に書かれた依頼書に俺とシャルが感嘆の声を上げると、そのシャルが耳打ちをしてきた。



「こりゃ当たりだぜ相棒、今乗っとかないとすぐになくなっちまう」



「そうだな。これくらいなら俺たちでも出来そうだし、ここは受けておこうか」



 俺とシャルは女性とウサギに向き直り、彼女たちに手を差し出す。



「ソルディオ=クレイスだ。ソルと呼ばれることが多い」



「シャルル=アーデルハイド、俺のことはシャルと呼んでくれよな」



 女性が腰に引っ付いているウサギを正面に向かせて、彼女に自己紹介を促した。



「えっと、アンナ=クリフテンド。見ての通り獣人だよぅ。耳と尻尾はステちゃん以外触っちゃ駄目だよぅ」



 ウサギ……アンナを苦笑いで撫でた女性がフッと佇まいを正し、俺たちを真正面に見据えて制服のスカートを軽く上げて頭を下げた。



「――」



 風が吹いた気がした。

 それは世界樹から吹いた祝福のようにあまりにも衝撃的で、目が離せない。

 さっきから自分の感情があまり制御できていない。名前を聞くだけでどうにも心がざわめく。

 彼女の言葉を聞き逃さないように、俺はただ、その耳を立てる。



「ステラ=アリアハートと申します。どうぞよしなに」

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