3話 世界樹の申し子、学校で和む
「ステちゃ~ん、こっちこっち」
「はいはい、アンナ足早いよ~」
「ステちゃんがほのぼのしてるんだよぅ」
僕は先を駆けていく赤毛の彼女――アンナ=クリフテンドの背をゆっくりと追いかけていた。
彼女はいつも元気いっぱいで、僕たちの通うメルリース学園をいつも走り回っている。
性格はまったくの正反対といっても良い彼女だけれど、どうにも僕のことが放っておけないらしくて度々世話を焼いてもらっている内に、ほとんどの授業を一緒に受けるほどには仲がいい。
「も~ステちゃん遅いよぅ」
「ごめんごめん」
急停止してこちらに駆けてきたアンナを抱きとめ、僕は謝罪した。
「も~、どうしたの?」
「ん~、アンナは可愛いなって」
「え~そう? でもステちゃんも可愛いよぅ」
満面な笑顔を向けてくれるアンナの頬をこね、僕は彼女の頭から地面に向かって垂れている耳をくすぐるように撫でた。
「あ~~~」
気持ちよさそうに身をよじるアンナは所謂獣人で、ウサギのような赤い目とロップイヤー、つまり垂れ耳を持っている種族で、この種族は代々から好奇心旺盛で、忙しなく動き回っていることから世間一般では騒がしウサギと呼ばれており、場面によって評価は様々。
そんな種族の生まれのアンナだけれど、わりと大人しい部類ではある。
炎のように赤い髪をポニーテールにし、目立つ赤い目、身長は所謂小学生サイズで130ちょっとだったはず。
くりくりした瞳と何もしていない時、ついつい舌が口から飛び出ているのがチャームポイントだと僕的には思っている。
そんなアンナを撫でていると、僕の視線はふと、開け放たれた窓の先にある、世界の中心にあってもその存在感と大きさから存在を認識せざるを得ない巨大な樹に向けられた。
「ステちゃん?」
「……」
アンナを胸元に抱き寄せながら、感慨にふけってしまう。
この世界に来て15年か。
世界樹と名乗った彼女と別れてからそれだけの時間が経った。
彼女が何者なのか、この世界で生活をして知識を得る度にわからなくなる。
ただ、僕にとって彼女は恩人で、いつか再会した時に笑顔で夢を叶えたと報告するつもりだ。
そんな僕は、この世界に来てステラ=アリアハートという名で生を受けた。
素晴らしい両親と、何不自由のない生活、前のあたしでは忘れてしまっていた愛情をこれでもかと注がれてここまで育ってこられた。
あたしがいた世界を、彼女は人だけで成り立つ世界だと話していた。
本当にその通りだった。
この世界は、人だけでは生活できない。いや、人以外の助けが、救いがそこにはあった。
そんな世界でありながら、僕はどうにも才能にも恵まれているらしい。
というより、以前の世界にいたころからの才能が反映しているらしく、隠すのが面倒になってはいる。
と、僕が世界樹を眺めてアンニュイなため息を漏らすと、アンナが僕の両頬を掴み、心配げな顔で見つめていることに気が付く。
「なんでもないですよ」
「本当ぅ?」
「うん、心配してくれてありがとう」
きゅっとアンナを抱きしめると、相変わらず舌を出しっぱなしにした顔で、彼女がジッと見つめてきた。
「う~ん?」
「ステちゃんは世界樹と一緒だと映えるね」
「そうですか?」
「うん、サラサラとした金色の髪と綺麗な顔立ち、世界樹からの使徒だって言われてもあたし信じちゃうよぅ」
「……」
アンナからの評価に、あながち間違ってもいないのかなとそっと苦笑いの顔を逸らす。
「ありがとうございます。ところで」
「な~に?」
「授業、遅刻ですね」
「ぴっ! どうしてもっと早く言ってくれなかったのよぅ! ステちゃんののんびりや!」
僕の手を引っ張るアンナに引きずられ、遅刻の言い訳はどうしましょうか。と、のんびりと考え始めるのでした。