3-6話 その陽を見下ろす高みを
「――」
ステラの家に泊まりに来た俺とシャル、アンナだったが、俺とアンナは実家を離れ、この街の宿に拠点を置いているから誰かに言づけることもなく、着替えと明日の用意だけを持って再度ステラの家にやってきたのだけれど、シャルはそれなりにこの家とかかわりがあるからか、大荷物抱えてやってきて今メルフォースさんと一緒に荷の中を整理しており、アンナはそれに引っ張られていってしまっており、俺は1人暇していた。
ステラは夕食の準備をしているらしく、令嬢なのにそれも自分でやっているのかと感心した俺だったが、まさか手伝うわけにもいかず、手持無沙汰でぶらついていたのだけれど、それなら日課の剣の特訓でもするかと、ステラに許可を貰って、庭の一角で剣を振っている。
俺は別段、剣を振ることが好きかと言われればそうでもなく、冒険者として生きていくには必須だから振っている。
そこに信念があるかと聞かれればそうではなく、だからと言って何となく振っているわけではない。
親父から、剣を振るのに一々理由をくっ付けていたら有事の際に動けなくなると指導を受けたことがあり、そんなことよりも、どんな状況でも剣を握れるようにしろと口酸っぱく言われていた。
剣……というより、戦うための手段を手放さないことは当然だが、何よりも体に武器を振ることを叩きこみ、どれだけ絶望的な状況でも、自身の体に刻んだ闘争心を絶対になくすな。と、冒険者になるのならこれだけは忘れるなと言われていたな。
俺は汗を流しながら剣を振り、身体に戦いの意欲を纏わせる。
しかし、そうやって集中している俺を切り裂くような、纏った闘争心をかき消すような、そんな圧倒的な感覚を肌に覚え、瞬時に振り返る。
「随分と鼻が利くね」
「……父に、それを根拠に出来るように磨けと言われてましたから」
「良いお父さんだ。それに――」
俺の背後にいたのはランスフリードさん、俺が振り向いた時には柔らかな表情を浮かべていたけれど、いざ俺の握る剣に目を向けた瞬間、口角をつり上げ、まさに嗤った。
「君は私を前にしても剣を握れるんだね」
「そう体に叩きこみましたッ」
ランスフリードさんが特に警戒した様子も見せずに俺に足を進めてくる。
脅威だと思われていない。取るに足らない街道の石程度にしか思われていないのがわかる。
俺はこの国最強の一角とされる魔導騎士団騎士団長を睨みつけ、震える手を無理矢理握りしめて剣を握りそして構える。
それと同時に、俺の精霊手甲から蒼い炎が溢れ、剣を覆う。
闘争心に呼応するようなその炎はグルシアと戦った時とは比べ物にならないほどの勢いを上げ、俺の周囲を燃やしていく。
そして近づいてくるランスフリードさんから一切目を逸らさず、剣を握る拳が痛いほど力を込め、ただただ闘争心を高めていく。
「――」
ランスフリードさんが俺の目の前に来た時、俺は剣を振るおうとしたが、彼はスッと俺を通り抜けるとこちらに向けていた戦闘圧を潜ませ、そのまま俺の肩に手を置いた。
「お見事――そろそろ夕食の時間だよ。風呂を開けるように言っておくから食事前に汗を流してくると良い」
「……」
そうしてランスフリードさんは俺の頭を一度撫でると、そのまま踵を返し、片手を上げて屋敷に戻っていく。
「あまり君たちに意地悪すると、ステラに嫌われてしまうからね。今日はこのくらいにしておこう。私に何か聞きたいことができたらいつでも来ると良い。家の者にも、騎士団の者にも話を通しておくよ」
俺は彼の背を見送ることも出来ずに、背中で気配が遠ざかったのを感じると蒼い炎を潜め、そのまま膝を地面につき、額からは汗が流れ出し、剣を握った手がガタガタと震える。
格が違う。
一睨みだけでここまで押さえつけられるものなのか。
俺は震える手に目を落としながら、呼吸を何度も繰り返していく。
そして幾度かの呼吸によって落ち着きを取り戻せたのか、立ち上がって振り返り、アリアハートの屋敷を見上げた。
「ハっ、そびえる壁は高いほどいい。いつか上りきってやる」
俺はそんな決意を抱き、屋敷へと戻っていくのだった。




