3-3話 星は流星の如く熱を伴って
「父と母が申し訳ありません」
「いや、お前のことを気にかけている良い両親じゃないか。騎士団長と聖女様と聞いて身構えてしまったが、家ではただの父親と母親だな」
「はい、とても優しい自慢の父と母ですよ」
そんなことを言いながら僕はジッとソルさんを見つめてしまう。
「ん、どした?」
「……いえ」
彼の言葉は真っ直ぐと響いてしまう。
そもそもあたしはそう言う経験が本当に少ない。
10歳になる前には豪華な部屋に閉じ込められていたし、あたしの部屋を訪れる人なんて大抵は何かに悩んでいる人で、甘い言葉や視線なんて受けたことがない。
惚れっぽいと言われればその通りですが、せめてもう少し慣れるための訓練をしたかった。
お母様はまだ早いと言って僕の顔を隠してきたし、正直こうして家族以外の異性と話すのだって、公務以外ではソルさんが初めてで……。
「シャルくんシャルくん」
「何だいアンナちゃん」
「ステちゃんって見た目も良いし家柄も良いでしょう? だけど学園ではろくに話す人なんていないんだよぅ」
「社交的な印象なんだがな」
「そりゃあ話しかけられればステちゃんだって話てくれると思うよぅ。でもうちの男子、そもそもステちゃんを拝めればいいって感じで、話しかけずに自分の手を叩いた後、拝んで帰っちゃうんだよ」
「ステラちゃんは神様か何かなのか?」
アンナが余計なことを言っていますが、確かにそんな感じです。
すると話を聞いていたソルさんが呆れた顔をした。
「俺たちの組にも言えることだが、ロクな奴いないな」
「俺たちの組も元気いっぱいだからなぁ。ところでアンナちゃん、何故そんな話を?」
「ソルくんってすごいなぁって話」
「あ~、うん」
「何の話だ?」
ソルさんが首を傾げていると、丁度工房が目に入ってきた。
工房は屋敷の外にあり、庭の一角を借りている。
みんなを工房の中に案内するためにシャッターを開くのですけれど、先ほどまでやっていた作業の影響で中は熱気がこもっており、シャッターを開けたまま出れば良かったと後悔する。
「……なんつうか、思っていたのと全然違うんだね。俺はてっきり、錬金術師の工房って言ったら窯がドンと中央に置いてあって、あとは本棚とかそういう」
「奥に窯で生成することも出来るエリアもあるのですが、正直僕は広いスペースでやる方が効率が良くて。それに――」
工房の中には中央にはまだ調整中の錬金駆動があり、辺りにはスパナやナット、ハンマー等々の工具が散乱しており、およそ工房らしくない見た目をしている。
これだとどちらかといえばガレージだ。
「……ところでステラちゃん、この工房は学校の先生とかには?」
「見せたことありませんね。学園では窯しか使わないので、そもそも爆弾か薬しか作っていませんから」
シャルさんは相変わらず少し引き気味で、真面目なシャルルさんに変な悪影響がなければと思案していると、黙りだったソルさんとアンナが辺りを見回しており、そして2人互いに頷き合った。
「可能性はあるな」
「あるよぅ」
何の話をしているのかと首を傾げると同時に、ソルさんやけにアンナと仲がいいなと少し嫉妬してしまう。
「……ステラちゃん、あの2人頭の中が子どものまんまなんだわ」
「えっとどういう?」
「ステラ、やはり変形合体するんだな」
「え?」
「ステちゃん! ドリルつけようドリル!」
「さすがだなアンナ、ドリルはやはり必須だろう」
2人揃って期待したキラキラな瞳を向けてくる。おめめシイタケとはよく言ったもので、あたしが死ぬ前も、僕が生きている間も、こんなにキラキラした目を向けられたことはなかった。
だからだろうか……。
「ざ、材料があれば」
「やったぁ!」
「さすがステラだ、楽しみにしている」
つい出来ると言ってしまっていた。
そもそも一体何の話をしているのかもわからず、所謂安請け合いをしてしまったけれど、僕にはあの2人の純粋な眼差しを曇らせることは出来なかった。
「……ステラちゃん、無理に合わせる必要もないんだよ?」
「い、いえ、頑張ってみます」
僕は肩を竦ませ、途中になっている錬金駆動に近づく。
そして辺りに置いてある手製の扇風機を回し、風を送り、熱を外に出すのだけれど、やはり暑い。
僕は髪を上げてポニーテールにし、羽織っている薄手のコートを脱ぎ、中に着ていたタンクトップの胸元をパタパタさせる。
すると――。
「ぐぇぇっ!」
と、どこからかカエルが潰れたような声が聞こえ、僕がその声の方に目を向けると、そこには首に腕を回し、顔を思い切り逸らされているシャルさんの姿があった。
何事かと僕が驚いていると、ソルさんも視線を逸らしており、アンナが不憫なものを見るような目で、僕を見てきた。
「何で脱いだのぅ?」
「え? だって暑いですし、本当はサクッとみんなを迎えに行こうとしていただけなので、作業着のままで出かけようと羽織っていただけですし」
「ステちゃん、ステちゃんのその軽率な行動のせいで見てごらよぅ、シャルくんが動かなくなっちゃったよ」
「軽率って――」
「エッチな格好禁止ぃ」
「……」
アンナに言われた初めて、自分の格好が人前……特に異性の前に出るものではないことに気が付き、顔に熱が昇るのを感じながらその場で胸を腕で隠しながら膝を畳んで座り込んでしまった。
「あ~……確かにアッツいな、気が利かなくて申し訳ない」
「い、いえ。あ、ソルさん、そっちに昨日作った精霊手甲があるので、良かったらどうぞ」
アンナに肩をポンポンされながら待っていると、ソルさんが僕の作った精霊手甲を持ってやってきた。
「複数収納できるのか、これは助かる。さっそく中の熱気を外に出すな。世界を歩む唯一無二、我らは語る、唄う、ともに世界を鳴らせ。導きに顕現せよ、風を吹き荒べ」
ソルさんの精霊召喚によって、大きな風が吹き、ガレージ内の熱気が一気に外に流れていった。
僕が安堵の息を吐くと、ふさと肩にコートがかけられ、そうしてくれたソルさんにお礼を言う。
「ありがとうございます」
「いや、こちらも悪かったな。ただその、こういう言い方をするのも変だが、あまり他の奴に見られるのは、その、いい気分はしないな」
「あぅ」
僕は小さく深呼吸をすると、少しだけ微笑んで見せた。
「それじゃあ、お茶淹れてきますね。くつろいでいてください」
「ああ、もう少しだけ部屋を涼しくしておくよ」
「ありがとうございます。あっ、アンナはあまり勝手にあちこち触っちゃ駄目ですよ」
「は~い」
僕は逃げるようにお茶とお菓子を取りに行くのだった。




