11話 星とジョブの不思議
「商業科にいるのがもったいないな」
細い道での魔物退治が終わり道を進み、採石場所に辿り着いてその準備を僕とアンナでしていると、おもむろにソルさんがそう言った。
「ステラの作ったアイテムは本当にすごい。それにアンナ、うちの学科じゃ絶対に見ない戦い方だな。戦闘科の奴らは見習ってほしい」
ソルさんに褒められてアンナが得意げに胸を張っている姿を横目に、僕は少し首を傾げる。
「見ない戦い方ですか?」
「ん? ああ、戦闘科は格式ばった型を使う奴が多いからな。もちろん型に忠実なのは良いことだ、土台がしっかりしていなければどのような戦いも上手くはいかない。けれどな、少し遊び心と言うかな、毎回訓練で戦う俺の身にもなってほしいというか」
ため息をつくソルさんの気持ちがわからない。
戦闘科はそんなに退屈な授業をしているのだろうかと。
するとシャルさんが僕の疑問を察してくれたのか、口を開いた。
「ソルは戦闘訓練、退屈そうにしているんだよ。みんながみんな王国式ばかりだものな」
「優秀な流派ですよね」
「……ああそれはわかる。わかっちゃいるんだが、もうちょっとアレンジと言うかな、頭を柔らかくしてほしいというか。まあつまり、たまにはアンナみたいな破天荒な戦い方をする奴と一緒に訓練したいというかな」
「訓練中、俺と当たると生き生きとしだすからなぁ」
「アーデルハイドの戦い方も独特ですものね」
「みんな同じような戦い方で、正直飽きてくる」
「まあ逆に、ソルのチンピラ剣術は俺たちにとってはいい刺激になって、訓練中は引っ張りだこだがな」
「誰がチンピラ剣術だ。ちゃんと冒険者をしていた親父から習ったとおりにやってんだよ」
「お父様から習ったのですね。剣術を見る限り、とても勇猛な方だったんですね」
「そうだな、大分前に死んじまったけれど、剣の教えだけは未だに守ってるな」
「っとすみませんん、そうとは知らずに」
僕は準備していた手を止め、つい謝罪してしまう。
しかしソルさんは首を横に振ってくれて、気にしなくていいと言った。
僕はほっと胸をなでおろすと、ソルさんがそのままアンナを見ていたことに気が付き、首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや、アンナの百面相がな」
「百面相?」
僕もアンナに目を向けると、ウサギが赤い目を光らせて鉱石を見てはコロコロと表情を変えており、集中している彼女を見て納得したようにうなずく。
「アンナは鑑定持ちなんですよ」
「鑑定? 俺の目には見ているだけにしか……鑑定眼持ちか!」
ソルさんとシャルさんが驚いている。
実はアンナ、クラスでもそれなりに優秀な生徒で、福音の恩恵も有用なものを持っている。
「鑑識眼。つまりアンナちゃんは、少なくとも人道五階以上か」
「第三位ジョブが芸術家の人道四階、職人クラスです」
「第三位で四階か。素質があるんだな」
「二位と三位は階位が上がらないですからね」
つまりアンナは、生まれ持った素質として芸術家の才能があり、それを全八階からなる階位を四階から始められるほどの優秀な芸術家と言うこと。
まあ今言ったように、二位と三位は段位を上げられず、ジョブスキルを一個か二個くらいしか得られないのですけれど。
「こう言っちゃなんだが、そうは見えないな」
「あ~ソルくんさっきから聞こえているからねぇ」
ソルさんがアンナに謝罪をしていると、シャルさんが自分の手を見つめていることに気が付いた。
「ん? ああ、シャルは小心者だからな、自分より階位の高い人を見て焦っているんだろ」
「……なあ相棒、そういうのは黙っておくのが優しさってもんじゃないの?」
「今お前に優しくしてどうする。アンナにはアンナの素質、お前にはお前の素質だ。それともお前は芸術家で四階以上を目指したいのか?」
「ちがわい。本当にお前ははっきり言う奴だな。ちょっとはアンニュイな気分に浸らせてくれよ」
肩を竦ませるシャルさんでしたが、ソルさんの言葉にどこか安堵しているようだった。
それも当然だろう、シャルさんは真っ当なアーデルハイド家だ。求められる素質も他と比べても高い。
「シャルさんはジョブの素質に聖騎士、さらに天道でなければなりませんものね」
「そうなんだよ、しかも階位の方は選ばないとわからないっつうのが……あっ、とすみません、こんな失礼な喋り方で」
「いいえ、僕としては砕けた感じで接してくれた方が嬉しいですよ」
苦笑いを浮かべるシャルさんだけれど、もう少し一緒に行動すれば少しは心を開いてくれそうである。
元々気の良い方なのは知っていますし、こちらは焦らずに。
そんなことを考えていると、アンナが手を上げて僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ステちゃ~ん、この辺りならいいかもぉ。手伝ってもらっていぃ?」
「はい、すぐに行きます」
アンナに呼ばれ、僕はポチェットを漁り、採掘に必要なアイテムを取り出すのだった。




