10話 星ウサギの商人式戦闘方法
「そういえばどのあたりで採石するんだ?」
「少し行ったところに開けた場所があるので、そこで幾つかの鉱石を掘ろうかと思っています」
「それは手伝った方がいいのか?」
「いいえ、ソルさんとシャルさんには護衛をお願いしたいので――」
「というか普通に邪魔だからねぇ。どの鉱石を掘るかとかわからないでしょぅ? それに運んでいる最中に傷つけられても――むぐぐ」
僕はアンナの口を塞ぐと、ソルさんに笑みを向ける。
するとソルさんは頭を掻き、小さく頭を下げた。
「それはそうだな。それなら後ででいいんだが、お前さんたち依頼人が手を出してほしくない箇所を教えてもらってもいいか?」
「ええ、それなら後でとってあるお昼休憩の時にでも」
「そういえば昼食用意してくれていたんだったか。依頼書を見た時から思ったのだが、随分と好待遇だな。発案はステラか?」
「ウチじゃ思いつかないみたいな言い方止めてよぅ」
「思いついたのか?」
「まったく!」
アンナを撫でるソルさんを眺めながら、僕はポシェットを撫でる。
このポシェットにお弁当も必要な道具も入っている。
見た目は小さいけれど、錬金術で作った四次元ポケットのようなアイテムだ。
「お弁当はステちゃんの手作りだから期待してていいよぅ。とっても美味しいんだから!」
「それは楽しみだな。なら美味しい昼食のために、俺たちも気張らなければな――シャル?」
「……あ、アリアハート家の、手作り、弁当?」
「駄目だ、バグってる」
「アリアハートではなく、僕の手作りなんですけれどね」
シャルさんの方はまだ時間がかかりそうだ。
そうして会話を交えながら坑道を進むと、先頭を進むソルさんが脚を止めた。
彼の視線を追うと、狭い通路になっており、道の先からうめき声が聞こえる気がする。
「シャル」
「っと、はいはい。とりあえず俺が突っ込むな」
「頼む」
けれど僕は1つ提案があり、手を上げる。
「ソルさん、ちょっといいですか?」
「ん? どうした」
「えっと、狭い場所で戦うのが目的であるのなら僕は何も出来ないのですが、この道からこっちに追い出すことは出来ますよ」
ポシェットから口が密閉された巾着袋を取り出す。
僕はそれをソルさんとシャルさんに見せ、使い方を話す。
「これは魔物が嫌がる匂いを閉じ込めたアイテムなのですが、この口のひもを引っ張って投げると、多分こっちに来ますよ」
「ほ~、それは便利だな。俺もシャルも、武器が長物だから狭い場所で戦うのは避けたかったんだ」
「……これも、錬金術で?」
「はい、僕の作るアイテムは既存の物より使い勝手がいいと父にも好評で、騎士団にも一部卸しているんですよ」
「騎士団御用達か、それなら信頼しても良いな。それじゃあ投げるぞ」
僕が頷き返すと、ソルさんが巾着袋のひもを引っ張り、それを狭い通路に向かって投げた。
するとほのかに刺激臭が香ってきて、ソルさんとシャルさんが首を傾げる。
「あまり匂わないんだな――」
「――っ! シャル、来るぞ」
狭い通路から、二足歩行のモグラのような魔物が飛び出してきた。
明るい場所にあまり出ないからか全体的に黒い体毛で覆われており、特に目は見えないほど毛で隠されていた。
しかしそんな魔物たち……確かアーストンと呼ばれているあの子たちが、瞳らしき箇所から涙と鼻からも液体を垂れ流しながら飛び出してきた。
「ステちゃん劇物投げたのぅ!」
「いえ、魔物専用に調節して、体の……特に神経に干渉するように作ったのですが」
「言っていることの一割もわからないよぅ」
「アイテムについての説明は後だ! シャル、後ろに漏らすなよ」
「おうよ!」
ソルさんが手にかけていたグローブが光りだした。
やはりあのグローブは精霊の。つまりソルさんのジョブの1つは精霊使い。
「爆炎を纏え――」
「ちょっとソルさんや! 坑道で炎はマズい」
「っと、そういえば――」
「いえソルさん、そのまま」
ソルさんが一度視線を投げてきたから頷くと彼も頷き返してくれて、僕は攻撃に合わせるようにガラス球をポチェットから取り出して投げた。
するとガラス球が割れ、そこから煙が出てきてアーストン2体を包むように膜が形成され、魔物を閉じ込めた。
その膜にソルさんが剣を入れ、そのまま精霊の法術が放たれた。
「焼き消えろ!」
グローブから剣に炎の精霊を移し、精霊を纏った剣が魔物を貫き、そして燃やす……はずだったのですが、僕が投げたアイテムは火の魔法を使う人用の改良がしてあり、酸素濃度を上げるために、発火し膜の中の魔物が爆発によって破裂した。
「……は?」
「ソルさん惨すぎでは!」
「いや俺じゃない」
「ステちゃんまた変なもの作ったのぅ!」
「変なものではありませんよ。魔導騎士団の中にも坑道などで魔法が使えないという悩みがありましたので、それを解決するために作っただけですよ」
僕が少ししたり顔を浮かべていると、残った魔物たちがソルさんから逃げるようにシャルさんに襲い掛かった。
「っと! こっちは通さねぇ――ってマズ、一匹漏れた!」
「驚いている場合か!」
「ソルが一番驚いていただろうが!」
その盾を使って魔物を地面に叩きつけていたシャルさんが、逸れていった一体を追いかけようとするのですが、アーストンの一体がアンナへと駆けていく。
しかし当のアンナは慣れたもので、後ろ手に背負っているリュックをゴソゴソと漁りだすと、そこから柄を引っ張りだし、リュックから引き抜いた先端から聞こえる稼働音の鳴る棒。
「ドリルぅ!」
近づいてきた魔物の胸に一突き――アンナはアーストンを突き刺したまま駆け出して、壁に魔物を押し当てて先端のドリルをさらに回転させた。
ゴリゴリと鳴る音とともに、肉が抉れる音と血の滴る音が響き、その正面で騒がしウサギが可愛らしい笑顔で笑っている。
呆然としているソルさんとシャルさんに笑みを返し、僕とアンナは2人に向かって口を開いた。
「少しはお役に立てたでしょうか?」
「ウチも少しは戦えるって言ったでしょぅ」




