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イチャつく2人に世界樹の福音を  作者: 筆々
0章 金色の出会い。
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1話 その金色に目を奪われて

 俺は、夢でも見ているのか?



 何でもない依頼だったはずだ。

 戦闘技術実践科の一生徒である俺が、商業科の商家のお嬢さんからの依頼を達成すると言う課題で、例年事故がないように何事もなく終わるはずだった。



 けれど実際蓋を開けてみればどうだ、俺たち一期生では相手に出来ないほどの魔物に追われ、一緒に依頼を受けたクラスメート、商業科の依頼人たちを逃がすために1人で残り、その生を諦めざるを得ないほどの強敵と対峙した。



 家族のために名を上げて、みんなに楽させてあげたかったんだけれどな。

 そんな諦めを呟いたのは少し前、体はボロボロで、目も霞んでいた。



 ここが俺の死に場所、残した家族に一体どんな詫びをすればいいんだと――けれど俺は、力で食っていくと決めた時から、逃げることだけは絶対にしないと誓った。

 それが依頼だろうが何だろうが、守ると決めたのなら最後まで守り通すと決めた。



 だからこそ、震えるクラスメートの友人と依頼人たちに逃げろと声を上げた。俺が守ってやるからと強がってみた。荷台から飛び降り、足止めをすると声高々に叫んだ



 そこまでは良い。

 この道を進んだんだ、いつか死ぬときは来るだろうと自覚はしていた。



 振り上げられた強敵の腕、その時俺は笑っていた。



 初めての依頼でここまで格好つけられたんだ、文句はないだろう。と。

 でも、1つだけ後悔があるのなら……母さんから聞いた父さんとの惚気。そんな惚気話の中に確かにあった父さんの気高い意志、そんな意思を臆面なく発揮出来るほどの身を焦がすような恋――それを、してみたかったな。



 そんないつかの夢を諦めたところで、俺の目の前に金色の、目を奪うほどのそれが現れた。



「僕のこと、守ってくれるの?」

 


「は、え?」



 可憐な微笑みで、彼女がそう口にした。 



 ステラ=アリアハート、俺が守るべき商業科のお嬢さん。

 その見た目も目を引くが、何よりも俺が驚いているのは、彼女はたった今、あの怪物の拳を受け止めた(・・・・・)



「その、さっきその、僕のことを守ってくれるって、言いましたよね?」



「……ああ、お前の夢も、この先の生も守りたい」



「嬉しいですっ」



「お、おう」



 子どものような可愛らしい笑顔の彼女が、頬を赤らめながら言っている。

 俺自身、そんな彼女の顔に一瞬だけドギマギしたけれど、今それどころではないことに気が付き、ステラの手を思い切り引っ張る。



「それよりもなにやってんだお前! さっさと逃げろ――」



「そういうわけにはいきません。だって、あなたは初めて、僕を、僕の夢を、真正面から見据えて守るって言ってくださった方ですから」



 大型の猿のような魔物が咆哮を上げて再度腕を振り上げた。



「マズいっ!」



 すかさず俺はステラの頭を抱き寄せ、庇うような動作をとった。

 あれだけの重量級のパンチ、この行動にどれだけの意味があるかはわからないけれど、咄嗟に動いてしまったものは仕方がない。



「あ、あの、それは些か大胆なのでわ、わ? あ、いえでも、大丈夫ですよ」



「大丈夫って何が!」



「あなたは、こんなところで死にませんから――『世界樹からの福(アルケミリア)音を受けて窯になれ(ユグドラシェル)』」



 大猿の拳が何か硬いものに遮られたようにして止まり、その拳から血を噴き出させた。



「何が……」



「ねえ」



 胸に抱く女の子の顔がとても近くにあり、彼女の囁きに肩がびくりと上がった。



「僕のこと、守ってくれるんだよね?」



 不安に揺れる少女の頬につい手を伸ばしてしまう。



 きっと夢中になってしまった。

 彼女のことはまだほとんど知らない。大事な約束をしているらしく、それをとても愛おしそうに話していた。けれど、そう懇願された。恐る恐る言った子どものような女の子のお願いを、俺は無碍にすることは出来なかった。



「ああ良いぞ。お前が望むまま、付き合ってやろう」



 死を覚悟していた状況だったからか、俺はすんなりとその提案を受け入れた。

 何かが始まる気がした。



 だからこそ、俺は彼女の、ステラ=アリアハートの手を取った。



 こんな状況でどうかしているかもしれないが、大猿の咆哮を背後に、彼女の体を俺に向き合わせて両手を掴む。



「さっきの言葉に嘘はない。俺が守ってやる」



「――っ」



 俺から手を離して両手で顔を覆って嬉しそうに顔を赤らめて悶絶している彼女に笑いかけ、改めて剣を構える。



「まっ、約束した以上は気張んなきゃな」



 先ほどまで諦めていた俺はもういない。

 彼女を下がらせて、俺はその強敵へと向かっていくのだった。

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