なんでよりにもよって!
今夜、舞踏会に行ける!
ということで私は街へ向かい、アイマスクを手に入れることにした。
いくつかアイマスクを持っていたのだが。
着ようと思っていたドレスに合わない……というのと、舞踏会にしばらく参加していないので、デザインがどうも流行遅れになっていることに気が付いたのだ。それは昨日の舞踏会で見かけた令嬢、マダムのアイマスクを見て、気づいた次第。
そこで昼食の後、早速、アイマスク・仮面・扇子を扱う専門店へ向かった。
お店に入ると、宝石や羽のついた美しいアイマスクがずらりと並び、扇子もクジャクの羽を使ったもの、象牙でできたものと、つい見入ってしまう商品が所狭しと並んでいる。仮面は、すっぽり顔を覆うタイプがほとんどだが、アイマスクを重ねたようなデザイン、レースの羽の蝶があしらわれたものなど、インパクトのあるものも多い。
「いらっしゃいませ、バークモンド公爵令嬢様」
顔見知りの女性店主が笑顔でそばにやってくる。
「今日は、いかがなさいましたか? お急ぎでご入用のものがございますか?」
そう、そうなのだ。
バークモンド家は公爵家でも上位に入るので、基本、商人のことは屋敷に呼びつける。そこでオーダーメイドで注文するのが基本。アイマスクも既製品で買うことはこれまでなかったのだが、今日は、急遽参加を決めた舞踏会だから、こちらからわざわざ足を運んだわけだ。
「実は、マルグリット公爵夫人様の今晩の舞踏会へ行くことを、急遽決めまして」
「まあ、そうでしたのね。マルグリット公爵夫人様の舞踏会、今晩は王太子様も顔を出されるそうですわよ」
「!? そ、そうなんですの!?」
なんでよりにもよって王太子が……!
まさに歯軋りする思いだ。
こっちは両親に行っておいでと言われており、いとこのバーバラに付き添いを頼む必要もないと、ほくそ笑んでいたのに!
でも……。
マルグリット公爵夫人は、筆頭公爵家のマダムだ。
その彼女が主催する舞踏会であれば、王族が招待されてもおかしくない。
というか……。
王族が招待されているということは。
今日のマルグリット公爵夫人の舞踏会は、格式が本当にう~んと上がることになる。
そうなると既成事実婚狙いは、本当に身を潜めるにようにして、動くことになるだろう。
窮屈だ……と思う反面。
王太子参加のマルグリット公爵夫人の舞踏会の招待状が届いているぐらいなのだ。
宮殿の舞踏会と変わらない、上流貴族が集まっている可能性は高い。
つまり没落寸前の貴族、どこの馬の骨とも分からない奴は、いないと言える。
うーん、そうなると王太子が来ているからと、逃す手はないわよね。
ちなみに。
昨晩の宮殿の舞踏会は、王太子が参加しないと聞いていた。
公務の分散を王族内でしており、昨日は王女が舞踏会に参加するとなっていたのだが……。
なるほど。
王太子は、マルグリット公爵夫人の今日の舞踏会に参加するから、昨晩の宮殿の舞踏会はスキップしたのね。多分。
「バークモンド公爵令嬢様、どうされましたか? ご気分でも悪いのですか?」
「い、いえ、そんなことはございませんわ」
そう言って目の前のアイマスクに手を伸ばす。
すると店主の女性は、その真っ赤な羽の着いたアイマスクの説明を始めてくれる。
適当に相槌を打ちながら、再び今晩の舞踏会について考えた。
たとえアレクサンデル王太子が舞踏会にいたとしても、まず、彼の周りには側近がいる。護衛騎士もいるだろう。そしてホストのマルグリット公爵夫人がいて、彼に近寄る令嬢の選別を行うはずだ。
王太子は間もなく18歳になり、婚約者選びが始まる。
自慢の娘を婚約者にと願う上流貴族は多いだろうから、彼の周りには妙齢の令嬢とその両親が常に集まっていることだろう。
そうなると……。
私が近寄らない限り。
アレクサンデル王太子との接点はできないで済む。
そして令嬢たちが彼に群がることで。
本日の舞踏会に参加する上流貴族の男性は暇になる。
そうなると既成事実婚のお相手は、選びたい放題になるのでは……?
うん。
行こう。
アレクサンデル王太子がいようが関係ない。
ただ……万が一があると面倒だ。
私だとバレないよう、かつらをつけ、アイマスクではなく、仮面をつけよう。
そうだ、そうしよう!
「あの、かつらもこちらでは、扱っていたかしら?」
アイマスクについて熱心に説明していたのに、突然、かつらはないかと聞かれ、女店主はきょとんしていた。でもすぐに笑顔になり「数や種類はそこまでございませんが、用意はございますわ」私を案内してくれる。
こうして私は。
かつら、仮面を購入し、屋敷へ戻ることにした。