彼の優しさ
最後の最後まで気になっていたこと。
その件を、アレクサンデル王太子に話してみることにしたのだ。
「事情を知り、また以前から私に好意をお持ちいただいたことで、アレクサンデル王太子様は、私との婚約を決意くださいました。つまり何があろうと、この縁談を成立させようと思ってくださったのですよね」
私が何を話し出すのか分からないのだろう。アレクサンデル王太子は、不思議そうに私を見ている。
「私はいつも、姿絵の交換でお相手からお断りになっていたのです。なぜダメなのか。屋敷にも何度も姿絵を運ばせ、確認したのですが、問題は見つからず……。アレクサンデル王太子様は、姿絵をご覧になりましたか? 二十五人が断りたくなるような、姿絵でしたか? それとも縁談をなんとしても成立させるのに忙しく、姿絵はご覧になっていないですか……?」
「それは……そう、です、ね。実は……おっしゃる通り、見ていません。本当に二十五人の方は、なぜ姿絵で断ったのでしょう」
「ご覧になっていないのですね。……アレクサンデル王太子様、見に行きませんか、姿絵。この王宮のアトリエに、私の姿絵はあるのです。もしそれを見たら……アレクサンデル王太子様も、お気持ちが変わったりは……」
すると……アレクサンデル王太子は、大きく首を振った。
「姿絵を見たからと、わたしの気持ちが変わることなどありません!」
「本当ですか! それを聞いて安心しました。あの姿絵には呪いでもあるのかと思ったので。……でも、もう私とアレクサンデル王太子様は、婚約もしていますものね。今から姿絵を見ても」「チェルシー嬢」
私の言葉に被せるように、アレクサンデル王太子が口を開いた。驚いて話すのを止めると、彼は苦しそうな表情で私を見る。
「それにこれはルイズの名誉のため。本当は言うつもりはなかったのですが……。彼は最後に、わたしへ懺悔をしました」
「それは一体何のことですか……?」
「ルイズは、身分の違いから、自身とチェルシー嬢が結ばれないことを、理解できていました。でもわたしとチェルシー嬢であれば許す、そう思ってくれていたのです。でもわたしはなかなか18歳にならず、その間にチェルシー嬢が縁談を何度も進めているのを知り、ルイズはそれを阻止しようとしました」
その後、アレクサンデル王太子は、衝撃の事実を教えてくれた。
私の姿絵は、王宮のアトリエに保管されていた。それを縁談の度に、アトリエから持ち出していたのだ。その作業にいつも立ち会っていたのは……ルイズだった。そしてルイズは、なんと私の姿絵を、別人の姿絵と差し替えていたのだ。
つまり二十五人の縁談相手は、私とは別人の姿絵を見せられ、お断りをしていたことになる。
驚いたが謎は解けた。
なぜ、あんなに断られたのか、それの理由が判明したのだ。
「もう姿絵のことは、忘れましょう。それにルイズも、あなたを追い詰めるためにやったのではなく、わたしとあなたが結ばれるために、やっていたことなのですから。許してあげませんか」
「……分かりました。確かにもう過ぎたことですものね」
私の言葉にアレクサンデル王太子は、吹く風にサラサラのプラチナブロンドの髪を揺らし、口を開く。
「今頃はもう、王都を出たところかもしれません。最後に顔を見せ、別れの言葉を伝えることのない自分を許して欲しいと、ルイズは言っていました。でも、チェルシー嬢。あなたの幸せを願っている。もし自分の中で、あなたへの気持ちをうまく昇華できたら……。また会いに来るかもしれない。結婚式に招待して欲しいと頼むかもしれない。そう、言っていましたよ」
アレクサンデル王太子からそう聞かされた時は、思わず涙がこぼれてしまい、彼は美しいハンカチを取り出し、私に渡してくれた。
「チェルシー嬢。あなたを泣かせることになり、申し訳なく思います。ルイズの旅立ちを、引き留めればよかったですね」
「いえ、これで良かったと思います。……好きなのに結ばれない相手と会ったところで、それは辛い気持ちにさせるだけだと思うので……。ルイズのおかげで、幸せへの道筋ができたのです。彼の頑張りが報われるよう、私は……アレクサンデル王太子様と、絶対に幸せになりたいと思います」
「チェルシー嬢……! 必ず、あなたを幸せにして見せます。そのためならどんな苦労でも、受けて立つつもりです」
そう言うとアレクサンデル王太子は、私のことを優しく抱き寄せた。
後から聞くと、アレクサンデル王太子は、ルイズが故郷で家族と共に安心して暮らせるよう、ちゃんとまとまったお金も持たせてくれたと言う。さらにルイズの名誉を守るために。彼が使った別人の姿絵を、アレクサンデル王太子は、焼却処分するよう指示を出していた。
細やかな気遣いができる彼に、本当に感服してしまう。
アレクサンデル王太子との散歩を終えた私は、両親と共に屋敷に戻ることになった。見送りは、アレクサンデル王太子だけではなく、国王陛下夫妻もわざわざエントランスに来てくれた。王族の方からこんな風に見送ってもらえるなんてと、両親は感動している。
一方の私は、馬車が走り出してほどなくして、紋章入りのハンカチを、会議室に忘れたことに気づいた。
この世界では、紋章入りの持ち物は、身分の確認に使われている。ゆえに紛失は悪用になるので危険! 両親も取りに戻ろうと言ってくれたので、慌ててエントランスへ後戻り。
すでに国王陛下夫妻も、アレクサンデル王太子の姿もない。
両親にはそのまま馬車で待ってもらい、急ぎ足で会議室へ向かう。
すると……。
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