なんて素敵な言葉
下衆男爵の件を話し終えたと思ったら。
ドキッとする一言を言われてしまう。
「それにしても聡明なチェルシー嬢が、既成事実婚を狙っていたなんて。ショックでしたよ」
アレクサンデル王太子のこの言葉には「あちゃー」と思ってしまう。
どう説明するか考え込むと。
アレクサンデル王太子は「背に腹は代えられないですから。ルイズのことを許してあげてください」と微笑を浮かべると「すべて聞きましたよ。チェルシー嬢が転生者である件も」と続けた。
つまり、追い詰められた私を救うため、アレクサンデル王太子に行動してもらう必要があった。私が話した小説に登場する悪役令嬢の役割、流れを踏まえ、一度婚約破棄し、主人公にいやがらせをしない環境を整える。さらに王太子自身が、ヒロインに心惹かれたりしないよう、接触の機会を減らす工夫を。
これらを理解してもらうために、ルイズは私が転生者である件を含め、すべてアレクサンデル王太子に話していたのだ。だから私の暴走も仕方ないと、王太子は思っている。ショックだったが、理由があったと理解してくれた。
アレクサンデル王太子の理解を得られたのは……本当に良かったと思う。
でも転生の件まで、ルイズはアレクサンデル王太子に話していたの!と思うが、これは仕方ないこと。この話を聞いていなければ、王太子は動くことがなかったと思う。
ルイズがアレクサンデル王太子に話してくれたおかげで、王太子は全ての段取りを、今日の顔合わせの時間までに、やってのけてくれたのだ。
これはもう、本当にすごいと思う。
「悪役令嬢としての役割から、わたしはあなたを解放できたと思っています。そうなった今、改めて。そして短いですが、こうやって会話をした結果。チェルシー嬢。あなたは少しでもわたしに興味を……好意を持っていただくことはできましたか?」
いきなり核心をつく質問をされ、ドキッとしてしまう。
好き……というところまで気持ちは固まっていないが、好意は当然、持てている。なにせアレクサンデル王太子のおかげで、確かに私は悪役令嬢にならないで済みそうなのだから。何よりも下衆男爵の魔の手から救ってくれたのは、彼の指示なのだから!
「アレクサンデル王太子様には、心から感謝しています。王太子という立場でありながら、私のために懸命に動いてくださったこと。いくら御礼しても足りないと思います。当然ですが、アレクサンデル王太子様に好意を……持ち始めています。これまで好きになったら、死が待ち受けていると思い、自分の感情を抑えてきたので、これからだとは思うのですが……」
するとアレクサンデル王太子は、この上ない笑顔になり、私に熱い視線を向ける。
「ええ、それで構いませんよ、チェルシー嬢。何よりわたし達は、婚約したばかり。あなたはこの王宮へ引っ越し、これからずっと一緒なのですから。あなたの王太子妃教育、わたしは応援しますし、支えます。これから二人の時間を過ごすの中で、昨日より今日、今日より明日、わたしへの気持ちが、あなたの中で深まってくれれば……」
なんて素敵な言葉なのだろう。
胸がジーンと熱くなってしまった。
その一方で……。
私とアレクサンデル王太子が結ばれるために、頑張ってくれたルイズのことを思い出す。
「もしやルイズのことが気になりますか?」
その通りだったので頷くと、彼はとても寂しそうな顔になってしまう。
「ど、どうされたのですか……?」
「ルイズは故郷に戻ったのです」
「え……!」
ルイズはアレクサンデル王太子のことも、私のことも、両方のことが好きだった。だから大好きな二人が結ばれることに、何の文句もないと言ったという。それでも王太子と私が、日増しに仲良くなっていく姿をこれから見るのは……。
結果。
フレスコ画も完成した。いい機会だと思った。師匠には独立したい、腕試しをしたいのだと打ち明け、故郷へ戻る許可をもらったのだという。
「そうだったのですね……。残念ですが、でも仕方ないと思います」
「……あの、こんな聞き方をするわたしは、とても卑屈な人間かもしれません」
「どうされましたか!?」
アレクサンデル王太子はとても切なさそうに、その美しい瞳を私に向ける。
「チェルシー嬢は、宮廷画家の弟子に過ぎないルイズのことが……もしや王太子であるわたしより、好きだったりするのでしょうか」
「……! 好き……それは確かに好きです。でもそれは幼馴染みに対する好感だと思うのです……。それにアレクサンデル王太子様とルイズを比べるなんて……そんなつもりはありません」
「そうですか……」と答えつつも、アレクサンデル王太子は不安そうな顔をしている。
「アレクサンデル王太子様とは、今日会ったばかりです。ルイズのことは、私が8歳の頃から知っていました。当然ですが、思い出が多い分、ルイズに対して思い入れがあるのは、仕方ないと思います。アレクサンデル王太子様と私は、これからだと思いますから。ルイズのことは気にされないでください」
私の言葉に、アレクサンデル王太子の瞳がうるうるしている。
ルイズのことをそんな風に気にするなんて。
身分的にも平民であるルイズとは、私は結ばれないのだから。
そこまで心配しなくてもいいのに。
なんとかアレクサンデル王太子の気持ちを、ルイズから離したいと思った。そこでずっと気になっていたあのことを、話そうと思った。
お読みいただき、ありがとうございます!
さくっと読める新作ですヾ(≧▽≦)ノ
良かったらご賞味くださいませ。
ページ下部にイラストリンクバナー有
『浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は
華麗なざまぁを披露する
~フィクションではありません~』
https://ncode.syosetu.com/n8030im/
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。
しかも定番の悪役令嬢ではない
残念悪役令嬢だった。
おかげで婚約者であるこの国の第二王子は
私を蔑み、浮気し放題。
ついに断罪されるとなったその時
私は自ら婚約破棄を申し出て、彼の浮気を指摘するが――。
断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾開幕!