彼とルイズの関係
アレクサンデル王太子は、ルイズと自身の関係について、庭園の東屋に着くと、こう話してくれた。
王太子教育の一環で、子供だったアレクサンデル王太子は、芸術についても学んでいた。
ピアノ、バイオリン、絵画、彫刻、音楽史、美術史……などだ。
芸術の関連を学ぶ時、教師となるのは、宮廷音楽家と宮廷画家だ。そして彼らはたいがい、弟子をとっており、基礎から技術を学ばせ、自身の手伝いをさせていた。
そしてアレクサンデル王太子は、そんな弟子たちと一緒に、芸術について学ぶことになった。
アレクサンデル王太子の王太子教育は、五歳からスタートしている。ルイズとも五歳の時に知り合った。つまり、二人は同い年。すぐに意気投合した。
「ルイズからチェルシー嬢、あなたのことはよく聞いていましたよ。最初の出会いは、宮廷画家ピエーロのスパルタに根を上げたルイズが、逃げ出した時のこと。あなたに匿ってもらったと言っていました」
その通りだ。
あの時のルイズは天使みたいで、可愛らしかった。
「チェルシー嬢は、ご自身の父親に会うために頻繁に宮殿を訪れ、ルイズとも仲が良くなったそうですね」
「はい、その通りです。ルイズはまさに幼馴染みで……。でも最近はお互いに忙しく、先日の舞踏会で久しぶりに再会しました」
東屋の椅子に座ったアレクサンデル王太子は、その長い脚を組み、静かに語り出す。
「ルイズは……チェルシー嬢、あなたのことが好きだったようですね」
いきなりドキッとする情報を口にされ、私は驚く。
「でも身分の違いを理解している。ルイズは王都から遥か遠くの農村部の出身なのです。宮廷画家ピエーロは、昔は国内の様々な場所を旅して、絵を描いていました。その際、ルイズの住む村を訪れて。彼の才能に気が付き、弟子として引き取ったそうです」
「そうだったのですね。……今、考えて見ると、私、ルイズの出身地のことは聞いたことがありませんでした」
するとアレクサンデル王太子は、優しい笑顔を浮かべる。
「ルイズ自身、身分について気にしているところがありましたから。あえてその話題は出さないようにしていたのでしょう。いずれにせよ、ルイズは平民出身。でもチェルシー嬢は公爵令嬢です。友人にはなれても恋人にはなれない。早い段階でそれを悟り、あなたのことを見守ると、心に決めたそうですよ」
そうだったのね、ルイズ。
だからあんなにも親身になって……。
ルイズの優しさを思い出し、胸がなんだか苦しくなる。
「チェルシー嬢が社交界デビューを果たしてからずっと、縁談を繰り返していることをルイズは知っていました。そしてなかなかうまくいかず、悩んでいることも。そして心配していました。わたしはルイズからずっと、あなたの話を聞いていました」
もう、ルイズってば!
見守るだけかと思いきや、アレクサンデル王太子に話していたなんて!
「ルイズから話を聞いているうちにわたしは……本当に、彼には申し訳ないと思います。……チェルシー嬢、あなたのことを……好きになっていました」
「そ、そうだったのですか……!」
するとアレクサンデル王太子は、これまでの自信に満ちた表情から一転、とても初々しい表情となり、頬も赤くなっている。
「チェルシー嬢のことは、社交界デビューをされた時、遠くでお見かけしました。勿論、アイマスクをつけていらっしゃいます。それでもとても美しい方だと思いました。外見の素晴らしさもさることながら、ルイズから話を聞くにつけ、あなたの人柄にどんどん惹かれ……」
そこでその宝石のようなセルリアンブルーの瞳を、私に向けた。
「ルイズに自分の胸の内を、打ち明けました。彼は……自身とチェルシー嬢の想いは実ることがない。でもわたしとチェルシー嬢であれば、結ばれることも可能だからと、応援してくれる約束をしてくれたのです」
その後、ルイズは私がこの冬までに婚約をしたいと思っていることを知り、すぐにアレクサンデル王太子にそれを話した。しかも、もたもたしていると、どこかの舞踏会に足を運び、既成事実婚をしてしまうかもしれないと聞かされた。
私が既成事実婚するなど、断固阻止しなければならないと、アレクサンデル王太子は思った。そして彼は動くことになる。
「そこからはもう、両親を……国王陛下夫妻を説得しました。婚約は結婚可能年齢である18歳で、というのが王家の慣習。そう、慣習であり、必須ではなかったのです。それを今回知り、国王陛下夫妻に間もなく誕生日であるからと、チェルシー嬢との婚約を進める許可をもらいました」
そこでアレクサンデル王太子は、かなり悲しそうな顔になる。
「わたしとしては、ずっと片想いをしていたチェルシー嬢と、一歩関係を進められると、胸を高鳴らせていました。でもあなたは違っていたのですね……」






















































