いよいよ後がないなぁ
セントだったらうまくいくと思ったのに!
まさか同性の愛人込みでの婚約&結婚を求められるなんて!
当然だが、これを理由にセントとはお断りしたいと両親に告げると……。両親はまず、あのセントに同性の恋人がいることに、驚愕していた。そしてお断りしたいという私の言葉に、異論を挟むことはない。
一方のローグ伯爵夫妻とセントは、緊急家族会議となる。まさか伯爵家の嫡男が、跡取り息子に、同性の恋人がいることを、今日初めて知ったローグ伯爵は……。もう衝撃的過ぎたようで、私達バークモンド公爵家への謝罪は、王都へ戻る直前だった。
間もなく日没という時刻に、ローグ伯爵一行は、水の別荘を出発した。
ローグ伯爵夫妻はお互いを支えあい、セントは腕組みをして二人と距離をとり、この後、彼らはどうなるのかという不穏な空気を残し、ゴンドラに乗り込んだ。
そしてこの展開にデジャブを私は覚えることになる。
一昨日。
同じような会話を、両親にしたような……。デーツ子爵達も、同様の不吉なオーラを漂わせ、帰っていったことを思い出す。
さらに。
「チェルシー様、この度は本当に……。まさかあのセント様が……。これは世の令嬢にとっては大きな損失ですわ。セント様のお子様なら、きっと天使のように素敵だろうに……。勿体ない……! でもこればかりは個人の嗜好の問題。口出しはできないことですよね……。ただ、せっかくここまで来ていただいのに。ジョルジオ様に続き、セント様までこのようなことになり、私は自分が不甲斐なく思ってしまいますわ!」
マルグリット公爵夫人がガッカリし、肩を落とすので、私は「大丈夫です。いい経験ができました。それに沢山の工房を楽しむことができましたから」と、彼女を励ますことになった。
でも本当に。
今回の件は、いい経験になったと思う。
姿絵でお断り令嬢の汚名返上と思っていた。ただ、いきなり顔合わせからスタートも、リスキーなのだと学習できた。もし条件の交渉からスタートさせていれば、ジョルジオが二十三人の愛人を維持したいと考えていることも、セントが同性の恋人と別れるつもりがないことも、条件に記載する必要があったと思う。つまり条件面からいつも通りスタートさせていたら、ジョルジオともセントとも会うことはなかったのだから。
しかし。
この二人は伴侶が見つかるのだろうか……?
二十五回、縁談が破談している私が心配している場合ではないが。そして二人とも条件交渉の段階で「お断り」になるだろうから、その回数はノーカウントになるだろうが、私を超える「お断り」数を獲得するのでは……と思わずにいられない。
ともかく水の別荘での私の婚活は……終わった。
あと一件、父親が交渉を進めてくれている縁談があるから、それの進捗に期待するしかない。そして明日は朝食の後、出発の準備を整え、昼食をいただいたら王都へ戻る予定だった。
ベッドで横になった私は考える。
いよいよ後がないなぁと。
父親が進めてくれている縁談が一件。
ルイズが動いてくれているらしい一件は……まあ、数に入れない方がいいだろう。
そうなると再度、意を決して舞踏会へ足を運ぶか……。
考え始めると眠れない気がしたので、考えることを止めた。
◇
翌朝。
この日も天気は晴れ。
少し雲があり、どうやら真夜中にパラっと、お湿り程度の雨は降ったらしい。
ミルキーホワイトにラベンダー色のレースがついたドレスに着替え、朝食に向かう。
工房から届けられた焼き立てパンは、やはり美味しかったし、新鮮な野菜も食べ応えがあり、採れたての卵料理も新鮮なバターと共に調理され、絶品。水の別荘に滞在中の食事は、本当に満喫できたと思う。
「チェルシー、父さんと母さんは、お土産を買いに工房を見に行くが、一緒に行くかい?」
聞くと、ウィスキー、靴、時計などの工房に行くという。
私はどうしようと考え、ルイズのことを思い浮かべる。
そうだ。
何か画材で珍しいものがあったら、お土産で買っていこう。
先日、騎士団の食堂で飲んだ紅茶は、ルイズが奢ってくれたのだから。
そこで両親と別行動で、画家の工房に向かうことにした。
画家の工房では、画家の卵が描いた絵が売っているのは勿論、画材の販売も行われていたのだ。
そこでふと思い出す。
昨日、私の名前を呼んだ画家の卵の少年のことを。
少年……確か名前はルー。
珍しいわね、ルーなんて名前。
明日、工房に行ったら、会えるかしら?
少し期待を込め、画家の工房へ向かう。
「おはようございます」
声をかけながら中へ入ると、中にはまだ数名の画家の卵しかいない。
そういえばマルグリット公爵夫人によると、芸術家の工房は、寝坊が多いと言っていた。だから工房を案内してくれた時も、芸術家の工房は午後からだった。
そして今、見ている限り。
あの少年の画家の卵……ルーの姿はなかった。
そこで私の対応をしてくれた、画家の卵の女性に「王都の画家の友達のお土産に、何かおススメがないか」と尋ねた。するとオレンジブラウンの髪に眼鏡の彼女は、いくつか希少性の高い顔料を紹介してくれる。シナバーという朱色の顔料、明るい発色のカドミウムイエローの顔料は、希少性も高く、高価であり、画家にプレゼントすれば喜ばれると言う。
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