浮ついた話がなかった理由
私の手をとり、エスコートして歩き出したセントからは、ムスクの甘い香りを感じる。
声もエロいが、まとう香水もエロく感じた。
麗しの美青年なのに、このエロさはヤバいのでは。
「ここが温室ですね」
植物園からも、その総ガラス張りのドーム型の建物は見えていた。
ガラスの扉を開けたセントは、私に先に中へ入るよう促す。
温かい。
そして沢山の花が咲き、フローラルな香りに満ちている。
「あ!」
なんと温室の中央には噴水があり、そのそばには、植物のツタで作られた二人掛けのブランコがあった。
グリーンのツタに、白のベンチのブランコ。
とてもお洒落に感じる。
「ブランコ……懐かしいですね。もう何十年も乗っていません。そこに座りますか」
またも声にエロさを感じてしまい、心臓が大いに反応してしまっている。
「は、はい。ぜひ、そうしましょう……」
なんだか声一つでここまで反応できるなんて、逆に恥ずかしくなってしまう。
ちょっと声に反応するのはやめよう、私。
なんとか自分に言い聞かせる。
だが。
ブランコに並んで座ると。
改めて甘いムスクの香りを感じ。
これまた気持ちが高ぶってしまう。
「チェルシー様。初対面のわたしの印象は、いかがですか?」
「それはもう、フェロモン全開で、エロ過ぎて驚いています」とは言うことはできず。
「口数が多いわけではなく、落ち着かれているので、なんと申しますか、一緒にいて安心できます」
ただし、声と香りをのぞき。
声と香りを感じたら、もう心臓が忙しくなってしまう。
「そうですね。わたしは……自分からベラベラ話すタイプではないので……。チェルシー様は、わたしのようなタイプ、苦手ではないですか?」
「! 苦手なんて、そんな」
「そんなことはないと?」
「はい」
するとセントは、アクアグリーンの瞳を細め、微笑を浮かべる。
「ではわたしはひとまず、合格でしょうか。好ましく感じていただけると、うぬ惚れてもいいのでしょうか」
「そ、そうですね。好ましく思っていますが……セント様はどうなのですか。私のような令嬢は、好みのタイプですか」
自分だけ好意を持っていると知られるのが恥ずかしくて、ついセントが私をどう思っているのか。こちらから聞いてしまった。
「ええ。穏やかな関係を築けそうで、できれば次の条件交渉に、進んでいただきたいと思っています」
……!
これはジョルジオショックからのリベンジになる!
「チェルシー様は、子供はお好きですか?」
「こ、子供ですか?」
子供=子作り。
いきなりセントとベッドで過ごす自分が頭に浮かび、慌ててそうではないと打ち消し、深呼吸して答える。
「子供は、可愛らしいと思いますね。自分の身近なところに、子供がまだいないのですが、公園などで無邪気に遊ぶ様子を見ていると可愛いと思います。……多分、好きなのだろうとは思います」
こればっかりは、まだ子供を産んだことも育てたこともないので「大好きです!」とは即答できない。それでも母性本能は、人並みにあるのではないかと思う。
「そうですか。子供は……どうしても産みたいですか?」
!?
いきなりセンシティブな質問。
ど、どうしたのかしら……?
「子供は授かりものと言われますし、どうしても産みたいかと言われると難しいですね。授かることができれば嬉しいですが、頑張ってもどうにもならないことでもあると思いますので」
私の答えを聞いたセントは、安堵の表情を浮かべた。
「チェルシー様がそのような考え方で、安心しました」
そう答えると、彼はこんなことも尋ねる。
「もしもの時は養子を迎える。それも選択肢に入りますか?」
なんだか会話が重いわ。
どうしたというの? もしや彼は……不能だったりするのかしら?
こんなにエロい声と香りを放っているのに。
「それはそうですね。セント様は長男ですし、後継ぎ問題は重要ですよね。もしもの時は養子を迎える。それも選択肢の一つではないでしょうか」
「ありがとうございます。チェルシー様。そこまできちんと考えていただけて、光栄です。……時にわたしの声、そして香水を感じ、性的に興奮されましたか?」
もし飲み物を飲んでいたら。吹き出しそうな質問をされた。
それ、この麗しいお姿で聞いてしまいます!?
顔を赤くし、口をパクパクさせると……。
「その反応ですと、大丈夫そうですね。声と香水で反応いただけている……」
その後のセントの質問は、もう18禁な物ばかり。私は正直、言葉ではなく、顔を赤くしたり、扇子を落としたり、ボディランゲージで答えを示すことになった。
その内容を要約するに、多分、セントは……不能なのだ!
だから自身の指などのテクで、私を満足させるのでいいかと聞いてきた……のだと思う。
麗しの美青年でありながら、浮ついた話がない。さらにいきなり縁談で、顔合わせを良しとした理由。それがよく分かった気がする。
伯爵家の長男なのに。不能だなんて。しかもこんなにエロい声なのに。お可哀そう過ぎる……。
それにしても。
ロマンティックなブランコに並んで座っているのに。
会話の内容がハード過ぎます!