成功かな?
魅惑の美男子ジョルジオは、快活に笑い、ウィンクしながら二人きりでゴンドラに乗ることを提案した。勿論、彼が言う通り、完全な二人きりではない。なぜなら船頭がいるから。
それをちゃんと私に伝え、誘ってくれたのだ。
「ええ、いいですわよ」と応じ、ジョルジオのエスコートでゴンドラ乗り場へ向かう。
私とジョルジオの両親、マルグリット公爵夫人も、私たちがゴンドラ乗り場へ向かっていると気づいている。だが止めることはない。自由だった。今日はアイマスクをつけずにダンスしたが、咎める人もいない。
いろいろなしがらみから解放され、気持ちも大きくなっていた。
下衆男爵のせいで、見知らぬ男性と二人きりは怖いと思っている。それは今も変わらない。その点から言うと、ジョルジオを警戒してもいいのだが……。
彼に関しては、そんな気持ちにならない。
私の両親への対応、自身の両親への態度、さらにマルグリット公爵夫人に対するリスペクト。
そのどれをとっても、下衆男爵に通じるような要素はない。
それに短時間ながら、彼は自身を飾ることなく、見せてくれている。その姿に表裏は感じない。船頭有の二人きり。問題はないと判断できた。
「では気を付けてお乗りください、チェルシー様」
ジョルジオは、紳士的に私をエスコートして、ゴンドラに乗せてくれる。
もはやゴンドラの乗り降りに関して、船頭の出番はない。
私が座ると、対面の席にジョルジオは座る。
これまたジェントルマンだと思わずにはいられない。
なぜならこのゴンドラは四人乗れる構造。
つまりは私の隣に座ることもできた。
だがそうしないで対面に座ってくれたので、緊張しないで済む。
しかも彼はグラスとボトルを実に器用に左手で持ってきていた。
そして今、そのボトルをあけている。
「これはシードルです。リンゴのお酒。どうぞ、チェルシー様」
「ありがとうございます!」
グラスに琥珀色のリンゴの発泡酒が満ちていく。
ジョルジオは自身のグラスも満たすと、乾杯の声をかける。
それが合図かのように、船頭がゴンドラを動かす。
ゆっくりとゴンドラが水路を進んでいく。
「うん。よく冷えていておいしいですね。ここは水路の水がよく冷えているから。お酒もこの水路で冷やしているそうですよ」
「そうなのですね。よくご存じですね」
「ええ、ここにはもう十回以上来ていますから」
これにはもうビックリ!
聞くとジョルジオの家族とマルグリット公爵夫人は、彼女が公爵夫人になる前からの付き合いなのだという。
「まあ、それがあって。今回バークモンド公爵家との縁談を提案された時。二つ返事で応じていました」
「そうだったのですね」
「マルグリット公爵夫人からの話だったので、受け入れたわけですが……。受けてよかったと心から思っていますよ」
そう言ってニッコリ笑うと、ジョルジオはグラスを口に運ぶ。
彼が気持ちよさそうに飲むのを見ていると、私もつい、シードルを飲んでしまう。
「チェルシー様、私はあなたのこと、とても気に入っています。こんな短時間で好きになってしまうなんて。初めての経験です。これまでで最短記録だ。それだけチェルシー様、あなたは魅力的ということです」
臆面もなくそんな風に言われ、顔が熱くなる。
これはリンゴのお酒のせいだけではないわね。
「そう言っていただけると、とても嬉しく思います。ありがとうございます」
「ふふ。可愛らしいですね。そんな風に照れると」
そんな言葉を言われては、さらに照れてしまうではないですか!
心の中でツッコミながらも、なんだか嬉しくてたまらない。
「それでチェルシー様。あなたから見た私はどうですか?」
いきなり核心を突く質問!
お酒を飲んでいることもあり、血流がよくなって、心臓もドクドクと反応している。
「……私もジョルジオ様のこと、好ましく感じていますわ」
するとジョルジオの顔が、太陽のように輝く。
「それは良かったです。嬉しいなぁ、チェルシー様。もう一度、乾杯をしても?」
「は、はい」
二度目の乾杯をして、グラスに残っていたシードルを飲み干していた。
ジョルジオは再び、グラスをリンゴのお酒で満たしてくれる。
自身はもう、四杯目だ。
「ではこの縁談は成功かな?」
この言葉に心臓が大きく反応している。
「でもその前に、きちんとチェルシー様に話しておきたいことがあるのです」
「話しておきたいこと、ですか?」
ジョルジオはこくりと頷く。
「チェルシー様も、私に話しておきたいことがあれば、遠慮なく話してください。これから夫婦になる二人に、いきなり秘密はダメですから」
それは……そうだろう。
でもジョルジオに話しておきたいことって、何かあるかしら?
悪役令嬢であることや断罪を回避したいと思っていること。
こんなこと話す必要はない……というか、話すわけにはいかない。
「ではまず、私から話してもいいですか?」
「ええ、勿論です」
私が答えると、ジョルジオは「では……」と口を開いた。
誤字脱字報告をしてくださった読者様、ありがとうございます!