みんながとても過激
下衆男爵騒動の翌々日。
マルグリット公爵夫人からの手紙で、まだ公にされていない驚きの情報を知ることになった。
ティーシュー男爵は、この時期では異例の領地替えになるという。ティーシュー男爵が赴任するのは、王都から海を渡って遥か1万キロ離れた僻地の島。その島では貴重なスパイスの宝庫であるが、恐ろしい生き物、虎が多数生息している。さらに謎の熱帯病も蔓延していた。赴任した歴代の領主は、虎に襲われるか、その熱帯病で死亡している。
よってある意味、この島へ領地替えになるのは……。何かをやらかした時だ。
表立って、牢獄や監獄に入れたりできない場合。幽閉では生ぬるい時。こういった難ありの領地へ、貴族が送られることがあった。
でもまさか、未遂で終わった私の件で、ここまでの裏極刑がティーシュー男爵に下されるなんて。全く想像できていなかったので、ただただ驚いてしまう。
「さすが筆頭公爵家だ。きっとマルグリット公爵が、王家に働きかけてくれたに違いない。これでティーシュー男爵もおしまいだ。虎に食われるか、熱帯病で死ぬか。どっちになるか楽しみだ!」
「本当にマルグリット公爵には、感謝ですわね。ティーシュー男爵は、ざまぁみなさいですわ。私の娘に手を出せば、どうなるのか。とくとティーシュー男爵は、思い知ればいいのです」
両親は、下衆男爵に下されたこの領地替えに、ご満悦だった。メイド達も「謎の熱帯病にかかると、ある場所が大層腫れ上がるそうです。ですから虎に食べられるより、熱帯病にかかればいいと思います」と真剣に話しているのだから……。
みんながとても過激で、私はドキドキしてしまった。
ともかく下衆男爵とは、もう二度と会うこともない。
その点については、ホッとすることができた。
だからといって、再び舞踏会に行きたいかというと……。
そこまで気持ちは回復していない。
何しろ痣も、お腹にまだバッチリ残っているわけで。
代わり(?)なのか、縁談の話が同時に三件も舞い込んできた。
一件は父親が前々から交渉を進めていた話。
残りの二件は、マルグリット公爵夫人から打診されたものだ。
「このデーツ子爵は“魅惑の美男子”と言われる方ですわよね? 数多の令嬢と浮名を流すも、縁談をしたことがない方。そしてローグ伯爵は“麗しの美青年”と表され、こちらも縁談をこれまでされたことがない方ですわ。マルグリット公爵夫人、さすがですわね。勿論、条件交渉、するわよね、チェルシー?」
母親に尋ねられた私の答え。
それはもう、喜んで!だ。
二人とも王都では有名人だが、舞踏会にほとんどいかない私には、ご縁のない男性だった。もはや記念受験のような気持ち。姿絵でどうせ落とされると思っていた。
ところが。
「これは異例中の異例だが、デーツ子爵とローグ伯爵、共に条件交渉の前に、顔合わせをしたいそうだ!」
これには母親と二人「「ええ」」と驚いてしまう。
「顔合わせで話をした上で、本当に自分でいいのか判断してもらい、それでいいというのであれば、条件交渉をしましょう――そう言われたのだよ。これもマルグリット公爵夫人の計らいだと思うのだが……」
マルグリット公爵夫人は、貴族社会のトップに立つ。
彼女が助言すれば、多くがそれに従う。
きっとデーツ子爵とローグ伯爵には「条件なんて後からいくらでもどうにかなりますわ。大切なのはお互い好きになれるかどうか。まずは会ってみなさいよ」とでもアドバイスしてくれたのかもしれない。
何より、条件交渉に入ってから、交渉決裂になれば、それは破談としてカウントされてしまう。
半世紀の年の差縁談は、条件交渉に入る前にお断りしているから、ノーカウント。そして今回のデーツ子爵とローグ伯爵も、顔合わせからスタートと、イレギュラーな順番になる。よって顔合わせでポシャルことがあっても、それはカウントされない!
つまり、もしもがあったとしても。
二十五回の記録を更新しないで済む、
ということでもう「「喜んで!」」と、食い気味でこの二件に応じることになった。
ちなみに父親が進めている一件は、一旦保留となる。
こうして顔合わせの日程を交渉した結果。
デーツ子爵とは三日後、ローグ伯爵とは五日後に、それぞれ顔合わせをすることになった。
場所はなんとマルグリット公爵夫人が所有する「水の別荘」。
水の別荘。
それは、広大な湖の真ん中に浮かぶ別荘で、ボードでお邪魔することになる。別荘の敷地内には、水路が通っていた。そしてベネチアのように、ゴンドラを使い、建物間を移動する。
建物間を移動する。
そう、そうなのだ! 別荘と言っているが、ただ屋敷があるわけではない。別荘に加え、沢山の工房を擁している。つまりマルグリット公爵夫人がパトロンをしている職人の工房が、沢山あるのだ。それはパン職人から始まり、鍛冶職人、被服職人、靴職人、時計職人などは勿論、芸術家も含まれている。つまり画家の卵、音楽家の卵、詩人の卵、作家の卵などもいるという。
マルグリット公爵夫人は、定期的にこの水の別荘に、王都に住む貴族や王族を招く。職人の腕前、芸術家の作品を見せ、気になったものを買い取ることを認めていた。さらにお抱え職人・芸術家として、契約することも許しているのだ。
「水の別荘には、五年前に招待されたが、二人は初めてだろう? とても楽しい場所だぞ」
父親に言われ、私と母親は、もう楽しみでならない。
こうして両親と私は、王都から馬車で半日かかる「水の別荘」へ向け、旅立つことになった。
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