うっ、聞かれると思いました
騎士団の食堂の食事。
一体どんな料理が提供されているのかと思ったが。
それは実に庶民的。
肉と野菜がたっぷり入ったシチューにパン、子羊のカツレツ、豆のサラダ。
これがセットで一食分扱い。
ボリュームがある。
ただ武術の訓練をして、体を動かしているなら、この量でペロリと食べられるのだろう。
「チェルシー、お待たせ」
ルイズは自身の昼食が乗ったトレイと、ティーカップとティーポットの乗ったトレイを、木製の大きなテーブルに置いた。そして私の対面の席に、ルイズは座った。
彼が来るまでの間、あの謎の騎士がいないか探したが、いない……。街の中の騎士団の屯所は、東西南北と中央に設置されている。ここは最大規模の中央の屯所。でもここにあの謎の騎士は……いないのかな。建物の隅々まで探したわけではないけど。
そんなことを思いながら、紅茶をティーカップに注ぐ。
昼食を食べ始めたルイズは、まずは私に尋ねた。
「チェルシー、昨晩はおとなしくしていた?」
これにはギクリとしてしまう。
ルイズからは、舞踏会には行かないでと言われていたのに。私は……舞踏会へ足を運んでいた。
いや、でも。これは父親からすすめられたのだ。私の意志ではない。
ということで慎重に言葉を選び、筆頭公爵家のマルグリット夫人が主催する舞踏会へ向かったことを話した。行くことになった経緯も含め、きちんと話すと……。
「……そうか。半世紀も年が離れた相手との縁談。それはまあ、断るよね。さすがに」
「そうね。どうしてもおじいちゃんにしか思えないし、祖父と孫が結婚みたいなイメージしかなくて、無理だったわ」
私の発言に、ルイズはおかしそうに笑う。
「そんな縁談を提案したチェルシーのお父さんが、気晴らしにマルグリット公爵夫人が主催する舞踏会へ行くことをすすめたのか。……でもそれなら断りにくいよね。ただ、王太子様も来た舞踏会。チェルシーもおしとやかにしていたんだよね、当然?」
うっ、聞かれると思いました。
それは既成事実婚を模索しなかったか――ということよね。
「も、勿論、おしとやかにしていたわ。だって私、フルフェイスの仮面をつけていったのよ。それにかつらも被って。ドレスもすご~く地味なものを選んで。もう目立たないよう、全力投球したの」
「そうか。チェルシーは、喜んで舞踏会へ行ったわけではないのだね。……既成事実婚なんて、目論んでいなかったわけか」
いや、目論んでいた。
でもそれは絶対に言えない。
「チェルシー?」
しまった! 即答できなかった!
ルイズが疑わしそうな顔で、こちらを見ている。
「目論むわけないわ! 既成事実婚を目指すなら、露出のある派手なドレスで、殿方を誘惑する必要があるでしょう!」
必死に言い繕うが、ルイズはなんだか疑いの眼を向けている……気がする!
ど、どうしよう……。
そ、そうよ!
ルイズは口が堅いし、私が破談すればいいと思っているわけではない。ここだけの話ということで。下衆男爵のことを話した。
すると……。
「なるほど。どんなに地味なドレスを着ても、チェルシーのスタイルの良さは隠し切れない。そこに目をつけ、真珠の指輪を使い、一芝居打ったわけか。どうせ偽物の真珠なのだろうね」
そういえばあの指輪がどうなったのか……。知る由もなかったし、知りたいとも思わなかった。
「チェルシーはさ、優しいから。まんまと庭園に連れ出された。男と二人きりで暗がりの庭園に行けば、筆頭公爵家の舞踏会と言え、関係ない。男はいつだって豹変する。チェルシーはもう少し、自分の価値を考え、防犯意識も高めないと」
ごもっともだった。ルイスの指摘には、「そ、そうよね……」と応じるしかない。
「それで何もされなかったのだよね? こうやって僕に話しているぐらいだし。お母さんとレストランで食事をしていたぐらいなのだから」
ルイズがいつになく真剣な表情で、私を見ている。
それは心配してくれているのだと、すぐに分かった。
だから突然現れた男性に助けられた経緯を、ルイズに話した。