☆プロローグ
「チェルシー、すまない。……父の交渉力が足りないのかと思い、今回は代理人として、これまで婚約成立率100%と言われるサウス子爵にお願いしたのだが……。ダメだった。本当に、申し訳ない。チェルシー、お前は何も悪くない。気を落とす必要はないからね。お前は21歳になったばかりだ。まだ、大丈夫だ」
若い頃は、妙齢の令嬢をときめかせたであろう面影を持つ私の父親、ケンドリック・バークモンドが、苦しそうな表情で額の汗をハンカチで拭った。
「お父様、ご尽力いただき、ありがとうございます。お父様こそ、何も悪くないと思います。家柄や財産、貴族同士の関係性など、それをクリアした上で断られているのです。原因は……私にあると思います」
「そんなことはない、チェルシー。そうだ。ロザンナがオペラの観劇の帰りに、舶来品のお菓子を手に入れたと言っていた。庭で秋薔薇でも眺めながら、お茶にしよう」
そう言うと父親はヘッドバトラーの名を呼ぶ。
ロザンナは私の美しい母親であり、兄のリッキーは現在、隣国へ遊学中。
限りなく優しい父親・バークモンド公爵を見ながら、私は気づかれないよう、ため息をつく。
どうして、ダメなのかしら?
これがゲームの抑止力として知られる、シナリオの強制力……なのかしら?
私、チェルシー・バークモンドは、乙女ゲーム『シュガータイムLove』に登場する悪役令嬢だ。自分が悪役令嬢と自覚しているのは、そう、私は転生者だから。
死亡時の記憶はないが、『シュガータイムLove』の記憶はバッチリ残っていた。自分が転生者であると気づいたのは8歳。おかげで早々に断罪回避に向けた準備をすすめることができた。
チェルシーが悪役令嬢になるのは、この転生した乙女ゲームの世界、クルミ王国の王太子の婚約者になってしまうから。
王太子アレクサンデル・セイルズ・バーンスタイン。
王太子とは、彼が18歳になる冬に婚約をしている。彼の婚約者になることで、チェルシーは勘違いしてしまうのだ。この国で、一番の女性は、次期王妃である自分なのだと。ゆえに爵位の低いヒロインが登場し、彼女の攻略対象となる男性からちやほやされるのを見て、嫉妬の炎を燃やすのだ。
チェルシーが悪役令嬢にならないためには、アレクサンデル王太子の婚約者にならないこと。これが重要になる。
そこで私は15歳で社交界デビューを終えると、父親に婚約者を探してもらうよう、頼んだ。
チェルシーは公爵家の令嬢。
しかも公爵家の序列の中でも、バークモンド公爵家は、三本の指の中にはいる。
私は幼い頃からその賢さで知られ、兄の英才教育に付き合った結果、頭脳明晰に育った。さらに珍しい紫色の瞳を持ち、女性にしては長身で、スラリとして、でもメリハリが効いた体をしている。ホワイトブロンドの髪は艶々ロングで、西洋版かぐや姫みたいだ。小顔で肌艶もよく、鼻も高い。
よって本人が美貌・財力・知性と三拍子揃っていると自覚しても仕方ないぐらいの、完璧令嬢だった。
さらに父親に頼みこみ、婚約者探しで重要になる姿絵も、特別に現国王のお抱え画家――つまりは宮廷画家に描いてもらっていた。
条件面も完璧。姿絵も完璧。
これならば、婚約者はすぐ決まる!と思ったのに。
これがなかなか決まらない。
この世界での婚約のプロセスは、まず、貴族の親同士の交渉からスタートする。時に代理人を立てることもあるが、家柄、財産、領地、パワーバランスなどなど条件面のすり合わせが行われた。そこをクリアすると、姿絵の交換となる。これはもう、前世にも存在していた、古式ゆかしいお見合い写真の交換みたいなもの。
条件面をクリアしたら、さてお相手はどんな方なの?となるのが、自然の流れ。そこでいきなり対面で会うこともあるが、上流貴族はそうはならない。まずは姿絵の交換なのだ。
というのもクルミ王国は……というか『シュガータイムLove』という乙女ゲームは、中世西洋風の世界観なのに、ゲームの開発会社が日本だったからだろうか? なぜか平安時代の感覚が盛り込まれているのだ。
つまりは上流貴族の未婚の令嬢は、極力男性に顔を見せないようにするという、不思議な文化が根付いていた。おかげで令嬢のマストアイテムは、扇子と仮面。アイマスク――ベネチアンマスクのような、目元や顔を隠す仮面をつけて舞踏会に参加するのが、当たり前だった。
舞踏会=仮面舞踏会がデフォルトであり、深窓の令嬢ほど、舞踏会には足を運ばない。よって婚約に向けた交渉が進んでも、姿絵の交換を経て、双方同意したら、対面でようやく会うことになるのだ。
そしてこの世界における婚約のプロセスは“縁談”と呼ばれているが、チェルシーは条件面で断られることはない。だがその次の姿絵の交換後に……いつもポシャルのだ。
姿絵に描かれているのは、当然のことであるが、私チェルシー・バークモンドである。しかもその姿絵は、天才と言われた宮廷画家ピエーロが描いてくれたもの。完成品の絵は私も見ているが、完璧だった。
美貌・財力・知性と三拍子揃ったチェルシーの姿を見事に描ききった姿絵。
この姿絵は宮廷画家が描いたということもあり、王宮のアトリエに特別に保管されている。縁談における姿絵の交換となると、アトリエから運び出し、相手の屋敷に届けられ、閲覧後、再びアトリエに戻されていた。
あの姿絵を見たら、誰もが恋に落ちそうなのに、なぜかお断りの連絡が届く。理由は明かされない。もしかすると美し過ぎてもダメなのだろうか? お相手の男性が、チェルシーのあまりの美貌に怖気づく?
いや、そうではないのだろう。
これがゲームの抑止力。シナリオの強制力。
チェルシーは悪役令嬢になるため、アレクサンデル王太子と婚約することをこの世界が求める――そう私は思うようになっていた。
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