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青い春  作者: はっちー
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あの頃の夢

 青山が、生まれて初めて持った夢は、ヒーローになることだった。4歳か5歳の頃、母親とリビングで戦隊ヒーローのテレビを観ていた時、

「お母さん、僕、将来はレオレンジャーになる!」と宣言した。

 母親は、青山の妹に乳をあげながら、「ふふ。ハルくんは、ヒーローになって何をしたいの?」と優しく尋ねた。

「僕、ヒーローになって、お母さんとひかりを守るんだ!」

 青山はレオレンジャーの決めポーズをとりながら、そう言った。


 8歳か9歳の頃、青山の夢はJリーガーに代わっていた。近所の友達に誘われて一緒に入った地域のサッカークラブで、青山はメキメキと頭角を現していった。朝から晩までボールを蹴っていたが、高校生になる頃には、自分はプロにはなれないと気づいた。技術はあったが、青山は思っていたよりも身長が伸びなかったし、身体が弱くて骨折などの怪我が多かった。


 高校を卒業する頃、青山の夢は公務員になることだった。リーマンショックの影響で、世界経済が破綻しかかっていた時期だった。テレビでは暗いニュースばかりが流されていた。先が見通せない世の中で、一番安定してそうな公務員になることが、彼の夢になった。そして青山は、地元を離れて東京の私立大学に入学した。大学入学後、周りが大学生活に浮かれてバイトや飲み会に明け暮れていたとき、青山は地道に公務員試験の勉強を始めた。経済学や法学の知識は、高校までで触れることがなかったので、新鮮で面白かった。

 ところが、人生というのは何があるのか分からないもので、大学卒業後、青山はYouTuberになっていた。


「それにしても、人生ってわからないよな。真面目に公務員試験の勉強してた青山が、いつの間にかYouTuberになってんだもんな」

 新宿駅西口の大衆居酒屋の個室で、八谷は生ビールを美味しそうにごくごく飲みながら言った。

「だよなー。合コン誘ってもあんまりこなかった真面目な青山くんがね。びっくりだよ」

 臼井は、烏龍茶は飲みながら笑った。

「ほんとほんと!今、登録者数は何人になったの?」と、栗原が尋ねると、

「この前、120万人突破してた。」と、青山は照れくさそうに答えた。

 

 青山、八谷、臼井、栗原の4人は慶都大学のクラスメイトだった。首都圏出身の学生が多い中で、地方出身だった4人は意気投合した。学生時代には、それぞれの実家に泊まりにいったこともある仲だ。大学を卒業してから5年が経った今でも定期的に飲んでいる。

 八谷は出版社、臼井は警視庁、栗原は商社にそれぞれ就職したが、みんな東京で働いている。

「そういえば、今度、慶大祭に出ることなったんだ」と、山芋の短冊にわさび醤油をつけながら、青山が報告した。

「え、マジで?」

「マジマジ。11月4日にさ、現役慶大生のYouTuberグループとコラボして生配信することになったんだ。」

「へー、なんてグループ?」と、八谷が尋ねる。

「スーパー・モンキーズってグループ。結構、人気なんだって」と、青山が答える。

「スーパー・モンキーズ…?聞いたことあるな。」臼井は首を傾げた。そして、「そうだ!剣道部の後輩が言ってた。そいつら結構やんちゃなことやってるイベント・サークルだよ。」臼井は学生時代、伝統ある慶大剣道部で主将を務めていた。

「やんちゃって、ヤリサーってこと?俺たちの時にもあったよな。サークル慶とか、結構グレーなことやってるサークルがさ」と、栗原が顔をしかめた。栗原には、サークル慶に入りかけた過去がある。

「まっ、とにかくあんまり深く付き合わない方が良さそうだな。気をつけろよ、青山」

 八谷がそう言うと話題は切り替わり、4人はいつも通りわいわいと終電近くまで飲み続けた。




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