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第二十一話

「僕はスビン・ジェレミー・アモルトと申します。一応……アモルト王国の第三王子ということになっています」


 アモルト城三階、西館にある部屋へと入室した三人に、スビンは颯爽と駆け寄ってくると、そう自己紹介をした。


「ジェレミー? ルイス王子も確かジェレミーと……」


 ユウは彼の名前を聞き、ルイスのフルネームがルイス・ジェレミー・アモルトであったことを思い出した。同じジェレミーがミドルネームとなっているのだ。


 『アモルト』はこの国の名前であるため理解できる。しかし、両者につけられた『ジェレミー』には一体どんな意味が含まれているのだろうか。


 ユウの疑問にスビンは柔和な笑みを浮かべて答えた。


「ジェレミーとはジェレミー・ナイトレイ・アモルトという方から頂いたものなんです。——皆さん、アモルト騎士団という名前はご存じですか?」


 彼の問いにユウとシグルドは大きく頷いた。だが、こう言った知識に疎いライラは、正直に首を傾げた。

 その様子に、彼は特に気分を害した風もなく、簡単な説明をした。


「アモルト王国があるこの土地は、元々アモルト騎士団と呼ばれる組織が長らく停留していた場所だったんです。アモルト騎士団は当時、大戦真っ只中で、それはもう目覚ましい活躍を発揮しており、あのビレッダグレイン帝国騎士団とも肩を並べるほどの実力だとさえ言われていた時期もあるんです」

「そうだったんですか」


 胸の前で両手を叩き感心を示すライラに、スビンはさらに続けた。


「そんなアモルト騎士団の中で、最も優秀な成績を残されたとされているのが、先ほど言ったジェレミー・ナイトレイ・アモルトという方なんです。いわばこの国の英雄ですね。彼は若き頃から大戦で数多くの戦果をなし、そして引退後も彼は王として、この国の発展に貢献されました」

「つまりそんな英雄の名前を、スビン王子含め皆さんは背負われているわけなんですね」


 シグルドの言葉に、スビンは気恥ずかしそうにしながら後ろ頭を掻いた。


「まあ、上の二人はともかく、私はこの名前を受け継ぐほどの才能は残念ながら持ち合わせてはいません」

「いえいえ、そんなことはありません。スビン王子はルイス王子と三つも歳が離れているのです。三年後にはきっと、お父上にも負けない立派な王の器を身につけていらっしゃるに違いありません」

「そう、ですかね……ありがとうございます」


 側から聞くと、あからさまな社交辞令だったが、スビンは気恥ずかしそうに頭を下げた。

 ——何とも謙虚な王である。


 ルイスの態度も初めはどうかと思ったものだが、むしろあれぐらいの方が、王の器としてはむしろいいのかもしれないな、とユウは思った。

 王がこれではもしもの時、民衆も不安になるかもしれない。


 ユウはそんな気持ちなど(おくび)にも出さず、一歩前へ出て彼に自己紹介をした。


「初めまして。探偵をしています、ユウ・ハドリーです。こちらはライラ・ランバート」

「初めまして」


 ライラは丁寧にお辞儀をした。


「これはこれは、どうも初めまして」


 お辞儀を返すスビン。

 ——何とも腰の低い王子であった。


 スビンは顔を上げると、なぜだかライラの顔をじっと眺めていた。


「あの……私の顔に何か?」


 ライラが居心地の悪さに耐えかね、困り顔で訊ねた。

 スビンは慌てたように顔の前で手を振ると、すみませんと謝って、恐る恐るまたライラへ顔を向けた。


「あの、もしかしなくてもライラさんはエルフの方、何でしょうか?」

「えっ、あっはい。その……そうです、けど……」


 それが何でしょう——を言う前に声を途切れさせてしまったライラ。


 エルフであることを指摘され、彼女は身を縮こませて俯いてしまった。

 そんな彼女の様子を見たスビンも同様に、申し訳ないことを聞いてしまったのかと、口を閉ざしてしまった。


 静まり返る場。

 この二人どこか似ているなとユウは思いながら、代わって会話を繋いだ。


「スビン王子はエルフに興味がおありなんですか?」


 そう口にしながらユウは、そういえばここに来てから一度として、彼女がエルフであることに疑問を抱くものがいなかったなと、今更ながらに気がついた。


 アモルト城へやってきてから、オスカーにアデラ、ルイスにルシールと対面し、彼で五人目になる。

 彼らは皆、ライラと一度は顔を合わせ会話しているにも関わらず、誰も彼女の存在に疑問を呈することはなかった。


 強いて言えば、唯一ルイスが発した、「ふむ、変わった組み合わせですね」のみなのである。


 今思えばあれは、おそらく人族であるユウと、エルフ族であるライラという組み合わせが、彼の目には奇妙に映ったためなのだろう。

 しかし不思議ではあったものの、彼は特に興味がなかったのか、それ以上は追究してこなかった。


「皆さん、エルフにはあまり関心がなさそうでしたので、少し疑問に感じていました」


 ユウの疑問に彼は心当たりがあったらしく、「ああ」と頷いて解答を呈した。


「それはたぶん、この国のどこかにエルフの村があるからですよ」

「「えっ、本当ですか?」」


 あまりの驚きから、声が揃ったユウとシグルド。


 目撃例すら失われつつあるエルフ族の住処が、この国——正確には判明していないものの——にはあると言うことが、二人には信じられなかったのだ。


「この国はエルフ族と交流があるんですか?」


 シグルドのさらなる追究に、スビンはすぐさま否定した。


「いえ、そう言うわけではないんです。私も見たことはありませんから。——ただ、この近くにその森があることだけは、確かなようなんです」

「それはどういう——」


 と、ユウが首を前に出しかけたその時、ふと隣に立つライラの存在を思い出した。


 ユウはそっとライラの顔色を伺った。だが、顔を下げている彼女の表情は真っ直ぐ切り揃えられた前髪に隠れ、見ることが出来なかった。


 今の話が真実かどうかはさておいても、彼女は今どんな気持ちを抱いているのだろうか。


 ライラは前々から——出会った時から、自分以外のエルフの話題にはひどく鋭敏だった。自分達の歴史や、魔法に関することならば、そこまでの反応は見せないものの、自分以外のエルフ族の話題には多少敬遠する素振りが見られた。


 理由がはっきりしているわけではない上、ユウもさして追究はしてこなかった。しかし、今真横にいる彼女の、やや怯えたようなシルエットを一瞥するだけで、それは十分に察せられた。


 だからユウはとりあえず待つことに決めたのである。いつの日か彼女自身の口から語られるその時を……。


 ゆえに現状、どうこうするべき問題は目下、事件なのである。


 ユウは激しく気にはなったが、話題を強引に事件へと軌道修正することにした。


「——いえ、時間もありませんからね。事件のお話をさせていただきましょうか」

「ああそうですね、すみません」


 スビンは申し訳なさそうにそう言うと、「どうぞ」と三人をソファへ誘導した。


「それでは早速——」


 一息ついたシグルドは早速これまでと同様、遺体発見時の状況から開始した。


「貴方がお手洗いに立った際、廊下を慌ただしい様子で駆けていく使用人を見て、部屋へと向かわれた。すると廊下でへたり込んでいるルシール嬢を見つけ、彼女へ駆け寄った時に、貴方は初めてアンナ嬢の遺体を確認された。そうですね?」


 スビンは黙って頷いた。


「その時、他の皆さんの反応はどうでしたか?」


 ユウが訊ねた。スビンはその当時の光景を思い出したのか、顔を青ざめさせて答えた。


「兄は——ルイスはテーブルの横で放心状態でした。ルシールは先ほどおっしゃった通り、廊下に座り込んでいました。顔からは血の気が引いていて、若干体を震わせていたのを覚えています」

「オスカー侯爵はその後に?」

「はい。僕が来てから少しの間を開けて、あの方はやってきました」

「様子は皆さんと同じでしたか?」

「ええ。すごく驚いた表情をされていたので、記憶に残っています」


 相変わらず顔は青いままだが、スラスラと答えていくスビン。


 ユウはこの後、ルシールにも訊ねたアンナの扇子。そして指輪、それから彼女の身の回りのことなどを、次から次へと立て続けに質問した。

 がしかし、ルシールの答え以上の成果を得ることは叶わなかった。

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