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第十話

 城門から少し入ったあたりで、ユウたち三人は情報交換を始めた。

 周囲に人の気配はなく、時折遠くを、シグルドの部下である騎士団員が何度か往復する姿が見える。


「被害者の遺体が発見されたのは今日の午前八時ごろ。朝起こしにきた使用人が第一発見者です」


 まず最初に、シグルドが今回の事件の詳細を語った。


「名前はアデラ。部屋をノックしても返事はなく、不審に思い扉を開けると、部屋の隅で倒れている彼女を発見したそうです」


 話している最中、彼は特にメモらしきものは持っていなかった。にもかかわらず、これほどまでにスラスラと話すことができるのは、彼の記憶力が優れている証拠だった。


「死因は胸に受けた短剣による刺殺。死亡推定時刻は深夜の一時から二時の間ではないかとのことです」


 一通りの説明を終えたシグルドはふうと息を吐いた。


 彼の話を黙って聞いていたユウではあるが、特に詳細もわからないままに情報を垂れ流す彼に、今更ながらに不安を覚えずにはいられなかった。

 ユウとしてはその全面的な信頼は大変ありがたくはあるのだが、保安騎士団、それも副団長が、そんな積極的に一般市民に事件の内容を漏洩しても良いものなのかと、思わずにはいられなかったのだ。

 しかし、ユウにとってはこの上なく都合がいいので、別段指摘はしなかった。


「となると、容疑者はアモルト城にいた全員ということになりますね。どのくらいいらっしゃったのでしょうか?」


 ライラの問いにシグルドは丁寧に答える。


「昨夜行われたパーティに参加されていた方の半数ほどが、そのまま城に停泊されたそうなので、ざっと二十人ほどでしょうか。それ以外の方々は十一時ごろには退場されていたそうなので、容疑者には含まれません」


 ユウは彼の言葉に耳を傾けながら、ポケットに忍ばせていたパイプを取り出した。

 すると、シグルドが「ですが」と、少し語調を強めて先を継いだ。


「申し訳ありませんが、今回ユウさんの活躍する舞台はないと思いますよ」

「え?」


 パイプを持つユウの手が思わず止まる。ライラも不思議そうにシグルドの顔を見上げた。


 彼はそんな二人の様子を交互に見やると、得意げに説明した。


「事件はすでに解決したということです。アンナ嬢を殺害した犯人はすでに我々の手で護送済みです」

「誰だったんですか? その犯人は」


 ライラがいの一番に訊ねた。

 シグルドは何が面白いのか……いや、ユウの出鼻を挫いたことが大変愉快だったためか、ニヤニヤと笑いながら答える。


「彼女を殺害した犯人は、ブルクハルト家ご令嬢のソフィア・ブルクハルトです」

「な……」


 彼の思わぬ答えに言葉を失うユウとライラ。


 その時、ユウはここへ来た時のことを思い出した。

 馬車に乗りアモルト城へやってくると、城門前でちょうど一台の馬車とすれ違った。保安騎士団のものと思われるその馬車。

 おそらくあれにソフィア嬢は乗せられていたのだろう。


 一足遅かったか——。


 黙っている二人に、シグルドはさらに補足を入れる。


「死亡推定時刻にアリバイなし。動機も十分。加えて、彼女が殺害したという証拠も出てきています」

「証拠とは、一体なんです?」


 ユウがパイプを手元で弄びながら訊ねた。

 シグルドは率直に答える。


「イヤリングです」

「イヤリング?」


 眉を顰めるユウにシグルドは続ける。


「ええ、発見されたアンナ嬢は左手にイヤリングを持って亡くなられていました」

「……ああ、なるほど。そういうことですか」


 ユウは得心いったように頷いた。


「つまり、そのイヤリングはアンナ嬢のダイイングメッセージだと……」


 今度はシグルドの方が力強く頷いた。


「私はそう思いました。アンナ嬢は命を落とす直前、このイヤリングを手に持ち、自分を襲った犯人を皆に知らせようとした。でなければ、わざわざ意味もなくイヤリングなんて持っていたとは考えられません。ゆえにこれは明らかに犯人を示していると思われます」


 自信満々に熱弁する彼にユウは頷かなかったが、シグルドが伝えたいことは理解していた。


「つまるところ、そのイヤリングはソフィア嬢のものだと判明したのですね?」

「はい。そういうことです」


 アンナの遺体が所持していたイヤリングがダイイングメッセージなのであれば、まず考えなければならないのは、それが誰のものであるか、である。

 もしかするとそれはアンナ自身の持ち物である可能性もあるが、しかし保安騎士団は事情聴取の末に、それがソフィアのものであることを突き止めたのだ。


「どうしてアンナさんはソフィアさんのイヤリングを持っていたんでしょうか?」


 二人の会話に耳を傾けていたライラが口を挟んだ。

 それについてはユウもちょうど同じことを考えていた。たまたま持っていたにしてはあまりにも出来すぎている。


「ソフィア嬢含め使用人の話では、あのイヤリングは今回のパーティで初めて使用されたものなんだそうです。ですが到着早々、片方なくなっていることに気がつき、探しても出てこないので、諦めてパーティでは別のものを身につけられたんだとか」

「それをアンナ嬢が拾っていたと……」


 ユウはその事実を噛み締めるかのように呟き、そして訊ねた。


「ソフィア嬢本人は犯行を認めているんですか? 噂通りの方であれば、かなりの騒ぎになったんじゃないかと予想しますが」


 そう微笑を浮かべるユウに、シグルドは顎を撫でながら困惑げに答えた。


「私もそのことには多少なりとも危惧していたんですが、どうも様子が違ったんです。彼女は終始落ち着き払った様子で、我々の言葉に何一つ反論することなく耳を傾けていらっしゃいました。犯行を認めているわけではないのですが、否定もしていません。ただずっと、黙ったまま、我々の指示に従い馬車に乗車されました」

「認めてはいらっしゃらないのですね」


 ライラが小さく呟く。しかしそれをシグルドは力強く説き伏せる。


「確かにそうです。しかし、これはもう認めているようなものではないでしょうか。違うのなら違うと訴えるでしょうし、普通ならばもう少し取り乱すはずです。思い当たる節があるからこそ、彼女は落ち着いているのでしょう」

「でも、何も言っていない以上は……。ユウさんはどう思われますか?」


 助けを求めるライラに、ユウは何も答えず、目線を下げてじっと地面に植わっている芝生を見つめていた。

 そして徐に顔を上げると、


「オスカー侯爵はソフィア嬢と、どういうご関係なのでしょう? やはり父親、なのでしょうか」


 ユウの問いにシグルドは答える。


「ええ。オスカー・ブルクハルト侯爵はソフィア嬢の実の父親に当たります。おそらく娘に殺人容疑がかけられたために、急いでお二人に連絡なさったのでしょう。ソフィア嬢をお連れする際も、彼女本人は冷静だったのですが、あの方はひどく暴れられ、落ち着かせるのに苦労させられました」


 シグルドはハハッと笑うと、最後にはため息をこぼした。

 そして再びユウの顔を見直すと、


「どうされますかユウさん。犯人は確定しましたが、それでもオスカー侯爵に会われますか?」


 やや挑戦的な口調でユウを煽った。

 ユウは一つ深く唸ると、


「会ってみるしかないでしょう。転移券までいただいた上、帰りは実費だなんて、ごめんです」


 そう言って肩をすくませた。

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