13 幼馴染のキャロライン
アホ王子に案内させて王の寝室へと向かう。
ノック……などはせず、そのままずかずかと入った。
わたしたちに気付かず言い争っている男女の声が聞こえる。
「そなた、魂の契約をすれば、わしの願いを叶えると言ったではないか」
「まだ挽回は可能ですわ」
「王都が火の海だぞ」
そこにはトグ国王と、わたしの幼馴染の悪魔のキャロラインがいた。
やっと私たちに気付いたようだ。
「ジョン王子、我が息子よ。まさかこんな謀反を起こすとは」
「やむにやまれずです。謀反を起こした以上は成功させます。命まではとりません」
そう、アホ王子はジョン王子というのだ。
「さあ、父上、一緒にお越しください」
その間に悪魔のキャロラインが入った。
「そうはさせないわ。魂の契約は必ず果たしますわ。人間どもが悪魔にかなうわけがないと知れ」
ちょっと待て。彼女はわたしの存在に気付いていない? 髪型も服も悪魔とは程遠いけど。
キャロラインが指を立て、そこに息を吹きかけると炎がすごい勢いで噴き出した。
悪魔の魔法に詠唱はいらないのだ。
「そうはさせないわ」
わたしは手のひらを炎に向け、魔法を無効化した。
しかし、わたしとターレント王子、それにキャロライン以外は全員が気絶してしまった。
「人間の魔法使いにしてはなかなかやるではないか」
いや、そうじゃなくって。なんで幼馴染なのに気付かないかな。
仕方がないから、髪型を元通りにした。
これで気付くはずだ。
「これでわかったでしょ?」
「なにが?」
ふざけないでよ。わたしがいくら悪魔っぽくないからって。しらばっくれてるのかしら。
羽織っている服を脱いで、ノースリーブになる。そしてせなかの翼を広げた。真っ黒な悪魔の翼だ。
「同じ悪魔? リリア?」
「やっとわかってくれたのね。キャロラインはこんなところで何してるの?」
「わたしは二つの王国を統一したいっていうこの国王の願いを叶えたのよ」
ということは、一連の戦争はすべてキャロラインが引き起こしたのか。道理でやってることが悪魔学校の教科書的なものばかりだったわけだ。
「じゃあ、統一したし終りでよくない?」
キャロラインは返答に困った顔をした。
「完全に支配できるまでが統一ですって言われちゃって」
なんだその“家に帰るまでが遠足です”的な言い方。
「それよりもリリアは何してるの?」
「わたし?わたしも契約のためよ」
詳細は恥ずかしいからはぐらかそう。
「そう、リリアは私とけっこ……」
「わーっ!わーっ!」
ターレント王子が変なことを口走るので急いでごまかす。
求婚されたなんて恥ずかしすぎて言えない。
「けっこうな契約を結んだのよね」
「へえ、どんな?」
「そんなことより、国王をこちらに渡してほしいの」
話をごまかしつつ本題に入る。その場に緊張が走る。
「それはできないわね」
「悪魔同士が戦っても決着はつかないわ」
「それはどうかしら」
そういうと首にかけてあった小さな笛を吹いた。急に窓が暗くなった。
外にはドラゴンが飛んでいる。
窓ガラスを割って頭を突っ込んできた。
ガラスの破片があちこちに飛び散った。
ガンガンと何度も体を窓枠にぶつけ、石の壁を砕きながら部屋の中に入ってきた。
「リリア、私に勝てる気でいるの?」
彼女は不敵な笑みを浮かべ、ドラゴンの鱗をさすった。
「あいつらを焼き尽くしなさい」
ドラゴンは大きく息を吸ったかと思うと、勢いよく炎を吐き出した。
これはやばいやつだ。
小結界を急いで作る。でも勢いに押されて結界が消えてしまいそうだ。
「リリアでも勝てそうにないのか?」
ターレント王子が聞いてくる。
「悪魔同士は攻撃を打ち消すことができるけど、魔物相手にはできないの。約束を果たせないかもしれない。ごめんね」
「契約はリリアとの結婚だから気にするな」
「そうね、ありがと」
とりあえずは結界の中で耐えるしかない。
キャロラインの得意げな顔が視界に入ってきてうっとうしい。
と、ポケットの中のピピがもぞもぞしながら這い出してきた。
「今出たら危ないよ」
しかし聞く耳を持たないようでゆっくりと歩いてゆく。
ドラゴンが息継ぎするため、炎が途絶えた。
かといって、生身の体でドラゴンと戦っても一瞬で八つ裂きにされるだけだ。
再度結界を作るが、こちらから攻撃をかけるわけでもなく、じり貧だ。
ピピは結界から出てのそのそと歩いて行った。
悪いけどこの非常時にあの子のことは守れないよ。ごめんね。
そのままピピはドラゴンとキャロラインの近くまで歩いて行った。
キャロラインは大笑いしている。
「リリア!あんたの使い魔、今ここに来てるよ!あっはっはっ。こんなちっぽけな使い魔にまで見捨てられちゃって。笑いすぎて息が苦しいわ」
キャロライン、最後まで嫌味な奴だな。
そのとき、ピピがピーピーピーと叫びだした。そこから名前を付けたんだけど。
ピピがゆっくり動いている。
むちゃくちゃゆっくりだ。
ん?キャロライン、動きがのろくなっている。
のろいなんてもんじゃない。ピピと同じくらい遅くなっている。
ドラゴンも同じだ。翼を動かすのものろすぎて、動いているかどうかもわからないくらいだ。
「リリア、これはどういうことだ?」
「ピピの能力なのかしら?わかっていることは……」
「「チャンスだ」」
わたしたちはまずキャロラインを縛った。
彼女の表情がゆっくりだが驚いた顔に変わっていく。そして首にかかっている笛を取り上げた。
「このドラゴンをわたしの使い魔にするの」
そう言ってドラゴンの頭に手をのせた。ドラゴンが普通に動いていたらとてもできないことだ。
手が一瞬光った。
「これでドラゴンとの契約は済んだわ」
視線をトグ国王に向けると、兵士たちに縛られていた。
ピピの自慢気な顔。ボク、こんなに役に立つんだよ!そんな顔をしていた。
「ピピは偉いね。わたし、すごく助かっちゃったよ」
何度も何度もなでてあげた。
王宮を掌握した以上、反乱軍の勝利は約束されたも同然だった。
「王子、しっかりつかまっていてね」
わたしとターレント王子はドラゴンにまたがり、反乱軍の様子を見に行った。
イグザット領の反乱軍は敵の駐屯地を見事襲撃し、ほとんどの敵は敗走していた。
ドワーフたちは国境門を破り、当初の目的を達成できた。各個撃破すればよく、有利な情勢であった。
「国が亡びるときはあっけないな」
「歴史はこれの繰り返しですわ」
何か忘れている気がするが、眠くて仕方ない。さっさと王宮に戻って横にならせてもらうことにした。
ピピがしきりにピーピー鳴いている。
もう私が手を貸さなくても大丈夫なはずだ。
15時過ぎか21時過ぎに投稿することが多いです。16話まである予定です。