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11 反乱の開始

 旧イグザット王国領に戻ったわたしはアホ王子へのお礼の手紙を書いていた。


「われわれ旧イグザット王国の者たちに目をかけていただき感激いたしております。殿下が事を起こすときは忠誠心がどれほどのものかご覧に入れて差し上げます」


 こんな感じの内容だ。


「この手紙をアホ王子の屋敷に届けてください」


 中身をターレント王子とゴワンドに見せながら伝えた。


「ふむ、これでアホ王子の謀反の疑惑が高まるな」


「リリア殿の手腕は見事でございますな。ほれぼれしますぞ」


 いやぁ、それほどでも。褒められ慣れてないから照れてしまう。


「私の手下にトグ王国へと潜入させて、届けさせましょう」


 この手紙を堂々とアホ王子の屋敷へと届けた。


 彼への手紙は事前に側近が開封して確認するであろうし、当然トグ国王へも報告が上がるはずだ。


 悪魔学校の勉強って本当に役に立つわ。テストの点数はともかくとしても。



 種を蒔いた後はしばらくは待つ時間だ。


 待てる心は強い心、そう教わった。


 そうはいっても何事も待つと長い。


 やることがないのでベッドの上でごろごろしていた。こういう時は使い魔のピピも本領発揮で一緒にごろごろする。



 ……あれからターレント王子と何もないんだよね。忙しいからかなぁ。


 時間があると、あの日にキスをしたことばかり考えてしまう。


 頭の中がターレント王子のことでいっぱいになる。


 どうしていいかわからないのでベッドの上でぐるぐる回る。



 ちがう! 私は悪魔だから王子と魂の契約をしなきゃ。


 いつもはぐらかされてる気がするけど。そろそろ契約してもらわないとね。


 王子に会う口実を見つけたので、少しやる気になった。



 水晶で、例のアホ王子の状況を確認する。例によって映像だけで音声はない。


 優雅に朝食を食べているね。おいしそう。


 反乱軍の食事は質実剛健、甘さが少ないし硬いのよね。


 おなかが空いてくるのを我慢しながら水晶の映像を見続けた。


 屋敷の窓から外を見ると、近衛兵が集団で列を作って近づいてくるのがわかった。


 やっと来たよ。待つのは長かった。


 なにやら命令書らしき紙を屋敷の者に見せ、そのまま突入している。


 動揺するアホ王子にも同様に見せていた。


 このまま連行するかと思ったが、近衛兵たちは屋敷のあちこちにとどまっている。王子を軟禁するようだ。



「機は熟したわ」



 ターレント王子に報告して一緒に行動できるチャンスだ。


 ちがう、悪魔式王国再興サポートの素晴らしさを実感してもらって契約するチャンスだ。


 さっそく王子に報告してこよっと。



「ターレント王子、手はずは整いました」


 水晶を見せながら説明した。


 アホ王子の配下のふりをして救出のため屋敷に突入すれば、アホ王子の謀反の完成だ。彼はもう後戻りできなくなる。


 わたし、たぶんすごく得意げな顔だったと思う。


「反乱軍とドワーフ軍との連絡もしっかり取れている。兵力としても問題ない。屋敷への突入はわたしとリリアでやらねばならんだろうな」


「それでね、そろそろ契約をしてもらわないと困るんだけど?」


「ああ、もちろんだ」


 王子はあっさりと認めてくれた。


 契約はしてもらえることになった。


 ただ、一点確認したいことがあるから、再度潜入してそのときに正式に契約しようと言われた。


 これで今回の長い旅も終わりね。さみしくはあるが仕方のないことだ。自分にそう言い聞かせた。



「殿下自らが乗り込むなど、無茶です」


 ゴワンドが額に青筋を立てながら反対した。


 ごもっともな話である。ターレント王子を失ったらすべてが終わりだからだ。


「リリアがいれば私の身の安全は守られる」


「しかし……」


「指揮官が全体を見渡せるところにいるのは当たり前のことだ。アホ王子の謀反の指揮は私が取らねばならないのだ。心配するな」


 やはりターレント王子と私は旅商人夫婦に偽装してトグ王国に潜入することとなった。


 前回と設定が違ってもおかしいしね。



 さて、前回潜入時に工作をした門番たち。


 見事に堕落しておりました。


 門についたら王子に気づいたのか親しげに話しかけてきた。



「また遊びに来てくれよ」



 酒臭いし衛兵の控室から女の人の声がする。



「仕事が片付いたら遊びに行くよ」



 王子はそう答えていたが、誰が行かせるものか。


 別の馬車がやってきたが、馬車の荷物の点検なんてしない。目的を聞くことも無い。


「俺たちは忙しいんだ!さっさと行ってくれ!」


 仕事が適当になってる。


 奥の方から女の人の笑い声が聞こえてきた。


 そりゃ忙しいでしょうな。



 宿屋のご主人もわたしたちのことを覚えていてくれた。


「おや、先日いらっしゃった旅商人のご夫婦ですね。前回は気が回らなくて失礼しました。今回はちゃんと二人部屋がありますので、どうぞ」


 いや、いやいや、ちょっとまって。ちゃんとって何よ、ちゃんとって。


「ああ、わざわざありがとう」


 王子は当然のように受け入れた。


 そしてわたしは今、王子と同じ部屋にいる。どうしようどうしよう。


 ベッドはダブルベッドだ。そう、大きなベッドに二人で眠る……。



 無言の時間が長い。


「夫婦に偽装して潜入してきている以上、断れるはずないから」


 王子が沈黙をやぶった。


 そんなこと言われても。


 私だけでなくて、王子だって緊張してぎこちなくなってるじゃないですか。


 わたしが荷物の整理をして物音をたてると、王子がちらちらこちらを見てくる。


 王子が立ち上がると、その動きが気になってわたしも王子をちらちら見てしまう。


「さすがにイグザット王国再興がかかっているいま、妙な気を起こすつもりはないから安心してくれ。もうちょっと普通にしててくれ。それに、本気になれば悪魔の方が強いだろ?」


 それはそうだよね。そうじゃなくって、私の方が意識しすぎて問題なんだけど。


「明日は夜明け前に宿を出発するから、もう寝よう」


 王子はベッドで横になった。使い魔のピピがポケットから飛び出してベッドに向かった。

 ピーピー鳴いている。


「この生き物は?」


「わたしの使い魔でピピっていうの」


「使い魔ってどんなことができるの?」


「……わたしの使い魔はマスコット的なかんじかな?」


 近くの山で捕まえた正体不明のもこもこな魔物なのは秘密にしておこう。


「リリアらしい使い魔だね……」


 ターレント王子はピピを撫でながらさっさと寝てしまった。


 夏なので布団はかけずに寝ている。


 すぐに寝息を立てて眠るタイプか。


 さっきまで鳴いていたピピもそばで眠ってしまっている。



 しかしかっこいいよね。


 そっと王子の頬を触ってみる。


 体も鍛えられていて筋肉がしっかりついている。


 ぺたぺたとさわってみる。


 そして……ほほう! ほほう! 妙に興奮してしまって目がさえてしまった。



 結局一睡もできなかった。



「リリア、よく眠れたか?」


「ほとんど眠れませんでした」


「今日が反乱開始の日だから、心が高ぶって眠れないのも仕方がないことだ」


 王子には本当のことは言えない。




 例のアホ王子が軟禁されている屋敷へと向かった。


 昨日は一睡もできなくて、頭がぼーっとする。


 反乱を成功させることだけに集中しなくては。



 さて、屋敷の目の前まで来たわけだけど。


 厳重に警備されている。



「警備が厳重で、とてもアホ王子を連れだせるとは思えないぞ」


「アホ王子を手に入れるだけなら簡単ですよ?それよりも、打ち漏らさないように気を付けましょう」


 眠いのをこらえながら魔法をかける。


「ほい、これで結界を張れました。だれも逃げ出せません」


「いや、だからこんな人数の相手を倒せるのか?」


「警備の人数はたかだか30名ですよ?」


 事前に水晶で見て兵士の数や屋敷の配置は確認している。


「王子が前衛、わたしが後衛です。後ろから回り込まれたら困るんで、壁を背中に戦った方がいいでしょうね」


「戦わずにアホ王子だけを連れ出すとかできないのか?」


「見つかったら厄介ですし。王子は剣を構える。敵が来たらわたしが魔法ですべて倒す。それだけですよ?気楽にいきましょ」


 わたしは王子の背中をぐいぐい押して屋敷の入り口へと向かった。



「おまえら、何者だ?」


 見張りの兵士が尋ねてきた。


 その瞬間にわたしが電撃で倒した。


「ほら、簡単でしょ?」


 屋敷の正面から突入してターレント王子の剣と私の魔法で相手を次々と倒していった。


「これで全員です」


 一人たりとも屋敷から逃さなかった。


「派手にやりましたねぇ」


「これでもうアホ王子も後戻りできないさ」


 アホ王子は眠っていたのでたたき起こして連れ出した。


「これは謀反を始めてしまったことになるのではないか?」


「仕方ないことです。我々が全力でご助力いたします」


 私たちが疑惑の種をまいておいて、さらに無理やり謀反の形に仕上げておいて仕方ないっていうのも妙な話ではある。


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