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龍の目玉  作者: 馬之群
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盲目の龍

 「なんで起こしてくれなかったんだよ!僕は日直だって言っただろ。遅れちゃうじゃないか。」走馬は苛々している。

 「目覚ましでも掛けろよ。馬鹿馬鹿しい。」灯馬は口ではそう言うが、食べやすいトーストを急いで作っている。

 走馬は高校の制服に荒々しく腕を通す。俺も走馬が悪いと思う。自転車に跨ると、山道を駆け下りる。男にしては長めの黒髪が風になびく。

 「悪い、寝坊した。」走馬は頭を下げる。

 「大丈夫ですよ。全部やっておきましたから。」朗らかに笑う。

 いくら幼馴染とはいえ、何時でも笑顔で嫌な顔一つ見せないから、申し訳ない。

 「帰りの仕事は僕が全部するから。余計なお世話かもしれないけど、千里さんは働きすぎだと思うよ。その歳で隈ができるのは異常じゃないか?」

 「走馬、女子にそんなこと言うのは流石にないぞ。」横から口を挟まれる。

 「お気遣いありがとうございます。隈は元々ですよ。」

 嗚呼、退屈だ。早く放課後になってくれ。俺は暇つぶしのために走馬をからかおうかと思ったが、今日はただでさえ朝から不機嫌だから止しておいた。本気でキレられたら放課後でさえ自由にならないかもしれない。

 「ただいま。疲れた。」走馬はベッドに直行する。

 『走馬、眠るくらいなら代わってくれ。』俺は慌てて頼み込む。

 走馬は面倒そうに目隠しを着ける。走馬の黒髪は翡翠色に変わる。体を動かせる。主導権が移った。

 『一時間だ。宿題をしておいてくれても構わないぞ。』走馬は本当に眠るつもりらしい。

 「誰がするか。自分でやれ。」

 二重人格とはいっても、普通のそれとは違いすぎる。いや、そもそも二重人格の時点で異常な気もするが…。

 まずは…何だ?地面が揺れる。物が倒れる音がする。気配が読めない。怖い。目隠しに手を掛ける。

 『走馬、起きろ。代わってくれ。地震だ。』

 「これは大きいな。走馬、大丈夫か?」灯馬が駆け寄る。

 怖かった。そう、俺は目が見えないのだ。走馬が見えるのだから目には問題がないのだろうが。目隠しのせいでなく、瞼を開くことが出来ない。俺らの主導権の切り替えは目隠しの取り外しで行われる。このせいで俺は安全な家の中でしか体を手に入れられない。

 「うわっ。」走馬が声を上げる。

 「走馬燈と代わってくれ。懐中電灯は一階にある。」灯馬は冷静に指示を出す。

 『停電か?不便だな、俺がいて良かったな。』

 揺れは収まっているので物の気配がはっきりと感じ取れる。この時とばかりに役立つ様を見せつけてやろう。これか。カチッ。うん?電池が切れているじゃないか。灯馬もこんな凡ミスをすることがあるんだな。

 『家の中だからあれを頼むよ。』走馬は意外と怖がりなのだ。

 俺は懐中電灯の電池を取り出すと、電池のあった箇所に指を入れる。強さは加減して…このくらいだろう。懐中電灯は白い光を放った。…はずだ。灯馬の元に向かうと懐中電灯を渡す。灯馬は礼を言ってくれる。家の外で使うことは決して許してはくれないが。

 超能力者?そんな単純な話ではない。俺は人類とは違う。翡翠色の髪、電気を操る能力、そして人にだけ…生きている人にだけ向けられる食欲。まだ一度も俺は食事をしたことが無い。基本的に走馬に生活してもらっている主な理由はこの食欲にある。

 俺らには母親がいない。灯馬曰く母が人間ではないと言う。因みに俺らと灯馬は生き写しだと言うから、灯馬が父親なのは本当なのだろう。童顔な上に三十代に差し掛かったばかりの灯馬はよく兄と間違われる。

 「付近の様子を見てくる。待っていろ。」灯馬は家を出る。

 一人にしないで欲しいとは流石に言えない。まあ、大丈夫だろう。余震があったとしても走馬に代わればいいさ。ドサッ。物音がする。

 『おい、外に出てくれ。父さんに何かあった。』

 走馬は慌てて外に出て行った。道端に灯馬が倒れている。息がない。心音が聴こえない。走馬燈も何かが異常事態だと気付いた。

 『どうなっている?』

 「心臓が止まっている。救急車を呼ばないと。」

 それでは手遅れだろう。ここは辺鄙な山の上だし、大地震の直後だ、直ぐに来られるとも限らない。もっと確実な方法がある。

 『俺に代われ。電気ショックを与えてやる。早くしろ。』

 走馬は、家の外では何があっても走馬燈と代わるなという灯馬の強い口調を思い出すが、目隠しをする。

 俺は灯馬の上半身の衣服を手早く脱がせる。それにしても心臓発作を起こす歳でもあるまいに、誰かに襲われたってことはないよな?

 失敗すれば灯馬は死ぬ。慎重に、平気だ。…成功だ。息を吹き返した。俺は落ち着いて救急車を呼んだ。

 「ねえ、時忘(ときわすれ)さま、ぼんやりなすってどうしたの?今は他の女の子は忘れて、あたしだけを見て下さいな。」

 「すまない、急用だ。後で何か埋め合わせはしよう。ねだりたいものを考えておいで。」

 男は手早く着物を着ると、不満そうな女の唇を強引に自分の唇で塞いで出て行った。銀髪にヘーゼルナッツの瞳。どこか陰のある佇まいは見る者の心に強烈な印象を落とす。

 「よく持った方だな。久々に宿敵の顔を拝むとしますか。」時忘は宙に飛び上がり、猛スピードで何処かに向かう。

 「微かに妖怪の気配がするから来てみれば、本命はそちらか。イイね。半妖だろう。一口味見させろよ。」老人が舌なめずりをしている。

 何だ、この狂人は?心当たりがないわけでもないが…。逃げないと。

 みるみるうちにそれは巨大に膨れ上がっていく。本当だ。本物の妖怪…殺される!電撃を放つが、あまり効いてはいないらしい。そのまま踏み潰そうとしてくる。動けない。怖い。父さんを、走馬を護らないと。

 「ぎゃあぁ。」それは唐突に悲鳴を上げた。体中に裂傷が出来ている。

 「五月蠅い。騒ぐな。誰かの命令で来たのか?全部話せばこのまま死なせてやるぞ。」

 竜巻に乗って現れたのは時忘だ。楽しそうに妖怪を切り刻む。

 この隙に逃げよう。どう見ても後から来た化け物の方が格上だ。窮地に変わりはない。何処に行けばいい?何処なら安全と言えるんだ?俺が言いつけを破ったから。俺のせいで。

 『走馬燈、落ち着いて。父さんを家に運んでくれ。』

 「少し騒ぎすぎたな。これ以上増えると面倒だ。走馬燈…走馬?私と共に来い。ここは危険だ。灯馬は無事だから。」

 何故俺らの名を知っている?信用出来ない。実力行使はしないみたいだし、このまま逃げたい。救急車は呼んであるし、誰かしら助けに来るに違いない。

 「私のことを信頼してもらう時間はない。今は君の母君の使いだと言っておこう。灯馬、次に会う時は積もる話もあるが、今は眠っていろ。」

 時忘は手を差し伸べた。空気が動く。敵意は感じない。走馬燈は恐る恐る手を取った。時忘は微笑んだ。

 「ありがとう。一旦走馬に代わってくれ。君では目立ちすぎる。」

 「僕は貴方を信用していませんよ。そこまでお人よしじゃない。」走馬は睨みつける。

 「寧ろ安心したよ。走馬燈はあまりに危機意識が低すぎる。私は走馬燈とは戦闘になると覚悟していたのに。」

 時忘は銀のたてがみの大きな龍になって、背中に乗るように合図した。走馬はそれに従う。何処に行くのか訝しみながら。

 「元来私はこの案には反対だった。何も情報を与えず、親と引き離して、こんなのは後から辛くなるだけの一時凌ぎだ。気休めに他ならない。」

 何の前触れもなく目の前に江戸時代のような街並みが広がった。今日一日で色々なことがあったが、ここまで不思議な出来事は予想外だった。俗に言う異世界か?妖怪の世界なら確か…。

 「妖界へようこそ。君にとってはお帰りかな?」

空には天狗だろうか?川に居るのは河童なのか?自分がこんなところの出身だなんて何の冗談だというのだろう。

時忘は中でも一番大きく立派な屋敷に降り立った。美しい庭だと眺めていたら、椿と桜が一時に咲いている。常識などここでは意味もないようだ。

「私の屋敷に住んでもらおう。君が嫌なら私は別邸に暮らすから心配無用だ。身の回りの世話は君もよく知る人物に任せよう。取り敢えずは休みなさい。話は明日する。」

「待って、その…ありがとう。助けてくれて。」

時忘の瞳はとても明るいので、見つめていると自分の姿まで映っている。真っ白な肌に白魚のような指。黒地に朱く花弁の散っている着物がよく映えている。走馬は堪えきれずに目を逸らした。

「君は灯馬に瓜二つだな。私は褒められるような人物ではないが、素直に受け取っておくよ。」

『どうなった?今何処にいる?』走馬燈が喚き始める。

そうだ。風呂に入ろう。もう限界だ。僕にだって訳が分からない。この古風な風呂は…まさか薪割りから始めないといけないのか?

『…なあ、風呂場に人魂?がいるんだが、どういう意味だと思う?』

『え…それで風呂を沸かせと?』

そう思うよな、やっぱり。同一人物に訊いた僕が阿保だったよ。でも隣に火箸があるから当たっているはずだ。他に湯を沸かせそうな物もないんだよなぁ。

最高に阿保な風呂が完成した。ちょっと熱いし、そこはかとなく不安だが、案外まともなのが腹立たしい。

もしかしたら母さんに会えるかもしれない。どんな妖怪なんだろう。せめて人型でありますように。僕は人間だから息子として認めてくれないかな?十五年もほっとくくらいだから嫌われているかもしれない。

「ええい、なるようになれ。」

走馬は勢いよく湯船から立ち上がる。その瞬間、木戸が開いて裸の千里が現れる。

二人とも顔を赤らめて固まっていたが、先に走馬が逃げる。目隠しをグイっと引いた。

「どうした?急に代わって。」俺は状況を呑み込めない。

「走馬君、なんでここのお風呂に入っているんですか?」

…は?おい、『走馬、説明なしに修羅場に放り込むなよ!何で初対面の同級生に変態と勘違いされなきゃならないんだ。全部お前のせいだろうが。』

『いや、見ちゃいけないと思って。と言うより、完全な事故だろう。向こうも僕の服に気付いたうえで入ってきたんじゃあないのか。』

開き直るなよ。こいつも天然っぽいし。まずは出て行ってくれないかな?

取り敢えず二人とも服を着て居間に移った。当然の如く着物が二着あったのが気になる。第一何故この屋敷に居るんだよ。かなり慣れた風だったし。

「初めまして、若様。走馬様から聞き及んでおいででしょうが、千里と申します。妖狸の一族です。時忘様のご命令で今まで逐一ご報告しておりました。」

狸かよ。十数年友達だと思っていた女の子に狸だと告白されましたよ。本名は千里で合っているみたいだし。狸の名前の相場なんて知らないけどさあ。

『うちに帰るぞ、走馬。もう辟易した。』

ふかふかの布団の中で俺はまんじりともせずこれからのことを考えていた。父さんは無事だろうか。物心ついてから知っている唯一の肉親。父さんもここに来たことがあるのか?

「おはようございます。朝げには何をお召し上がりになりますか?」

「ご飯と味噌汁があればいいよ。」

走馬は大きく欠伸をした。案の定あまり眠れなかった。うん?千里さんが困ってるな。

「あの、若様にお食事を差し上げたいのですが…。若様はどんな動物を召し上がるのでしょう?遠慮なさらないで下さいな。」

「待って、何故動物を食べる前提なの?ここでは皆そうなのか?」

千里は驚いたような表情を浮かべる。時忘様に訊いてくれと言って逃げてしまった。自分からは情報を伝えないように命令されているのか。

『千里がお前に食事を出したいってさ。まさか食べないだろう。』

『カニバリズムになるからな。お前が食事すれば死なないんだからいいよ。』

朝食は普通に焼き鮭とほうれん草の胡麻和え、根菜の煮物、ご飯、ビシソワーズだった。何故他は凝っている割に最低限提示した味噌汁はないんだよ。明らかに異彩を放っているだろうに。無駄に旨いのが癪だな。

「走馬燈、走馬、いるか?時忘だ。」

『昨日の男か?そういえば名前を聞かなかった。』

客間に通す。どっちが上座だかよく分からない。こっちの方が入口から遠いけど、ひょっとしたら上座か?今更直せないし、確信も持てない。別に支障はないに違いない。

「お茶です。」

変な香りがする。人間の飲める代物なのだろうか?

「最初に言っておくが、君の母君は高貴な方だ。『三の方』と呼ばれている妖力の強い方だ。私は本来、君にお仕えするべき身分だが、故あって対等な口を利く。気を悪くするな。君も私のことは時忘と呼び捨てにして欲しい。」

「その方がこちらも気が楽ですから。」

時忘はお茶を一口啜った。動作が一々絵になる人だなぁ。飲んでいるお茶の香りさえまともなら。

「君は、と言うより走馬燈は龍と人の半妖だ。さっきも言ったが、君の母君は高貴な方なんだ。灯馬や人間について私はとやかく口幅ったいことは言わない方だが、身分や世間体にばかりしがみつく者は多いのさ。君とあの方が共に暮らせないのはそういった訳だ。」

「では母には会えないと?」

あまり会いたいとも思わないが、走馬燈は家族思いだから。一目会いたいだろう。

「多忙な方だからな。そのうちいらっしゃるだろうさ。」時忘は少し目を伏せる。

「まあ、もう一つ重大な障害があってね、走馬燈は盲目だろう。盲目の龍の目を抉ると膨大な妖力を結晶として得られるのさ。このために隠しておいたと言える。何かのはずみで眼が見えるようになれば大丈夫なんだが。」

『意味が分からない。犯罪だろう。何で急に命の危機に晒されなきゃいけないんだよ。グロすぎる。』

俺のせいじゃないか。走馬は関係ないのに。いつもこうなんだ。

「私がなるべくは対処するつもりだから、そう気負わないで欲しい。然し四六時中張り付いてもおれないし、最低限の自衛は出来るようになってもらわねば困る。そんな顔をするなよ。余程のことが無ければ私よりは強いはずだ。」

『なあ、バスケットボールを顔面でキャッチするのは余程のことに含まれると思うか?』

「僕は走馬燈のことを誰よりも分かっています。あの…絶望的にセンスの欠片も持っていない奴ですよ。父さんにも劣るのに。あ、目が見えないからだとは思いますが。」

失礼だな。そもそも俺は小さな家の中、日に数時間の自由時間があればいい方だという人生だったんだぞ。囚人未満だ。半分くらいは自分で言い出したことだが。

「一度手合わせ願おうか。走馬燈、全力で掛かってきてくれ。」

『走馬、俺は嫌だって…言っているだろ!今。聞いてくれ。』

人の話を聞かない連中だな。時忘も隙だらけだ。舐めやがって。直接触れないと狙いを定められないんだよ。

ピシャッ。何とか雷くらいは落とせたか。やりすぎてはいないよな?人間なら無事じゃすまないに違いないが、せいぜい髪が焦げた程度だろう。

「悪くないと思うがな。続けてくれ。」涼し気な声がする。

今のが全力なんですけど。不死身なのかこいつは。

「来ないならこっちから行くぞ。防御も気になる。」

無理無理、電気でどうやって防げと?絶対楽しんでいるだけだろう。

時忘は小さな旋風を起こして走馬燈に放った。当たった所で大したことないように威力は調整してある。

「想像以上だな。いや、すまなかった。」

参ったな。器用に全部当たってしまうなんて。逆にわざとかと思ったぞ。膝もつかないから体力だけは一般の龍に匹敵する水準だが。私の方が先に参るぞ。鍛える前に襲撃されたら覚悟が必要だな。

「時忘様、ひとまず若様の手当てをしても構いませんか?」千里が救急箱を持って現れる。

時忘は黙って頷いた。着物の襟を正しているが、そもそも乱れていない。

「明日辰の刻から訓練を始める。暫くは不便でもこの町内から出ないでもらう。」

早朝とかでなくてホッとした。それにしても我ながら酷い。集中しなければ。時忘にも迷惑をかけ通しだ。時忘の帰った後の邸内で走馬燈は一人物思いに耽っていた。

「時忘さま、例の件、上手くいったわ。確認して頂戴。」

何となく反射的に走馬は目隠しを着けた。鼻にかけるような甘ったるい声。時忘の恋人だろうか。自分が会ってはいけない予感がする。

「あら、何方?その着物は小間使いではないわね。お客様?」

『絶対に正直に答えるなよ。敵でないとも限らないからな。上手く誤魔化しておいてくれ。』走馬は急いで釘を刺す。

「時忘は、別邸の方にいると言っていたけど。少し離れてくれない?鬱陶しいから。」

『走馬燈、何でそんなに偉そうなんだよ?時忘は身分が高いんだからそんな呼び方をしたら怪しいだろう。』走馬は自分が出なかったことを後悔した。

「昨日の急用は貴方のことね。大天狗の一族の私にそのような口の利き方…どんな名家の出か知らないけど、時忘さまの特別にはなれないわよ。貴方も私もね。覚えておくことね。」

含みのある言い方だな。今の言い方だと、時忘はとんでもない人物なんじゃないか?あの女め。どう見ても俺とあいつがそんな関係なはずないだろう。女だと思われたのか?

『走馬が応対しろ。俺では相手の顔すら分からないんだから。』

『ごもっともなんだが、人間がいる方が後々問題にならないか?最悪その場で文字通り喰われてたかもしれないじゃないか。』

賢明だな。元はと言えば時忘が悪いだろう。

「まさかキャッチボールから始めることになろうとはね。久々に童心に返れたよ。いやはや君といると退屈しないな。茜をつっけんどんに追い返したって?」

おかしいな、ボールの気配は分かるのに捕れない。時忘の言うようにこれではまるで使い物にならないくせに。時忘に見放されたらお仕舞いだ。

「意地悪な言い方だったな。念のため君のことが見つからない工夫はしてあるし、焦るなよ。万一の時は私がいる。何があっても傍に居るから。信用ならないかもしれないが。」

時忘は走馬燈の肩を軽く叩いた。灯馬とは違って自分から壁を作って手の内を明かさないような人だ。傷付くのを過剰に恐れているみたいだ。“信用しないで欲しい”って言っているように聞こえてしまう。考えすぎならいいのだが。

『走馬燈、大丈夫か?僕も妖術が使えたら良かったんだが。お前一人に苦労を掛けるな。』

『少し町中に出てみるよ。気分転換だ。目立つと思うか?』

走馬に気を遣われてはやってられないな。人通りの多い所を一周して街並みを把握しておこう。厄介だな、全く。

『左手の先にヴェールみたいな物があったはずだ。被っていけ。』

『打ち掛けのことじゃないだろうな?習ったばかりだと思ったが?』

『悪い、知らないかと思ってさ。』

俺は大声で千里を呼び寄せる。これは女性の被り物だろうが。恥をかかせるつもりか?千里は嬉々として虚無僧の籠を渡してくる。こいつに訊いたのが間違いだった。走馬は過呼吸になりそうなほど笑っている。実際、体があったらそうだったかもしれない。

俺は諦めて頭から打ち掛けを覆った。千里に手を引いてもらって町を巡った。ちょくちょく異様な気配が混ざっている。誰もこちらに注意を向ける者はない。周りがあまりに変わっているものだから。

「速いですか?」千里は相当ゆっくり歩いている。

「大丈夫だよ。楽しいな。また頼んでもいいかな?」

旨そうな匂いがする。と言うことは血生臭い臭いなのだろう。走馬はここに来るべきじゃないな。喧騒も人の声に聞こえるものがほとんどない。物によっては言葉も日本語ではない。

「そこのお兄さん、耳寄りな話があるんだけど、聞きたくはないかい?」

「結構だ。」

声の調子が高い。そのくせこちらの一挙手一投足に警戒している。他人を騙そうとしている者にありがちだ。それにしても体温が低い奴だな。

「お兄さん、龍の目玉が一個いくらで取り引きされるか知っているかい?俺なんか一生かかっても払えやしないさ。ましてや盲目の…。」

「気が変わった。是非お前の話が聞きたい。そこの茶屋に入ろう。千里、先に帰っていてくれないか?」

これで気を利かせて時忘を呼んでくれたら助かるが、まあ時忘は勘が良いから悟ってくれるだろう。

「お前は何者で目的は何だ?知っていることを全部話せ。」

男は何を飲むか尋ねた。要らないと言うと注文しなかった。店の者に白い目で見られる。男だけでも注文すればいいのに。

「俺は薄氷(うすらい)。雪女だ。情報源は明かせないが、あんたが先日時忘様に連れられてきた盲目の龍でその目を狙われているということくらいは知っている。急にこんな所に連れられて心細くはないかい?俺があんたの目になってやるよ。タダでとは言えないけどね。」

『胡散臭い。きっと僕らを恐喝して大金を巻き上げて、他の奴に情報も売る手合いの人間だぞ。断るんだ。』

「一つ訊きたい。」

「何なりと。」

走馬燈は息を整えて深刻そうな雰囲気を醸し出した。

「男なのに雪女なのか?」

一瞬の沈黙の後、薄氷はゲラゲラ笑い転げた。付近の通行人がぎょっとしたように振り返る。薄氷の笑い声は暫く響いていた。

「英語でもWitchって和訳したら魔女だろう。でも男もいる。そんなもんさ。俺たちの種族は女だけが人間界で人を凍らせて男はその熱を喰らっている。体が凍てつかないようにね。見返りに他の妖怪から守っているんだよ。分かったかい?」

『何馬鹿なこと訊いているんだ。時間稼ぎにしても酷いぞ。帰ろう。』

案外丁寧で分かりやすい説明に毒気を抜かれた。英単語を知っているのかと言うのはこの際野暮だろう。

「画竜点睛を欠くという故事成語があったね。蛇の母親が自分の目玉で子供を育てる昔話もあった。龍にとっては瞳が魂のようなものだ。それを奪われるのは死活問題だよ。」

『走馬、俺はこいつと話してた方が楽しいよ。友達も欲しかったところだ。』

『そんな理由で信用するなよ。おい、お前の金でもないのに勝手なことするな。せめて時忘に相談しろ。』

「もし俺が断ったら?俺はお前くらい簡単に捻りつぶせるけど。」

勿論はったりだ。完全に相手のペースに呑まれるのだけは避けたい。

「目立ちたくないからその格好なんだろう。止した方が良い。俺にそこまでの人望はないが、治安を乱せば無事じゃいられないよ。ここで直ぐに戦わないならこっちに地の利がある。あんたくらい撒けるさ。その後情報は別のお得意様に売る。これは好意なんだよ。」

機転は利くみたいだ。こちらの方が金払いが良いと踏んでの賭けに出たのだろうが…度胸も良い。この場で契約する価値はある人物だと見るね。

「詳しい条件をまだ聞いていないから何とも言えないな。」

「金五十両であんたの敵味方や妖界の基本知識まで提供しよう。特に時忘様の情報は必要に違いないよ。」

一両がいくらだか知らないのだが。まあ客観的な時忘の情報は欲しい。巷で聞き込みをするのは危険だし、金で買った情報なら安心出来る。だが小遣いにと貰った巾着ごときでは手が届くまい。

「話にならない。今のところお前以外に身の危険は迫らなかったし、時忘に訊けば済む問題なのに、大枚をはたいてまで見ず知らずの者の手を煩わせる意味はない。」

『よく言った。このまま帰って直ぐに時忘に報告しよう。』

「俺だったらあの方の元に長く留まりたくはないな。妖界の陰の支配者だからね。相当に後ろ暗い所があるさ。あんたも利用されているとしか思えないけどね。」

そこまでの影響力を持っているとは。本当なら俺を保護するより売り飛ばした方が圧倒的に得するはずだ。俺に執着する理由を探った方が賢明かもしれない。

「分かった。こちらからも追加の条件を一つ。俺の友達になって欲しい。」

走馬燈が盲目じゃなかったら薄氷の、明いているのかいないのか分からないような目が品定めするように見つめてくるのに気が付いたことだろう。薄氷は真っ白な長髪を後ろで結わえていたが、さっと肩から払い除けた。安っぽい水色の着物の上の黄色い雪の結晶の刺繍が露わになる。

「気に入った。あんたはどうやら身分なんざ拘らない類の妖怪なんだろう。」

『僕は知らないからな。勝手にしろ。話しかけるな。』

「お前だって終始敬語を使おうという素振りも見せなかったじゃないか。あまり恭しくされると息が詰まる。」走馬燈はニヤリとして席を立った。

ふん、世間知らずのお坊ちゃんめ。いいカモだ。値切ろうともしないと来たよ。お目付け役は真っ先に帰しちまうしさ。さしずめ箱入りだったんだろうが、年齢が近しいからって簡単に信用しちゃあ痛い目に合うぜ。

「おーい、ここに活きのいい人魂が居たろう。二、三持ってきてくれ。」

店主は薄氷の服を見定めて、おあしを持っているか尋ねてくる。薄氷は当然懐が温かいので小判を見せびらかす。頭は切れてもまだ若いゆえの不用心だった。

若い子だったんだろうかねぇ。ご愁傷様。旨かったよ。

薄氷は表通りを抜けて横道に入った。つけられていることにすら気付かずに。ハッと後ろを振り返ったときには鈍器で殴られてしまった。雪女は人間並みに体が脆い。即座に気を失った。ずるずると引きずられて消えていく。

「お客さん、さっき雪女の坊主と一緒にいた方でしょう。」息を切らせて走馬燈に声を掛けるものがいる。

この声は…先ほどの茶屋の店員か?

「ええ、それがどうかしました?」

辺りを窺って声を潜めている。何かあったな。

「お連れさんが路地裏で誘拐されましたよ。がらの悪い連中でした。くれぐれも用心なすって下さいな。」

「何処です?薄氷は何処に連れて行かれたんですか。」

走馬燈は懐から銀を取り出すと、言いにくそうにしている相手の掌に押し付ける。相手も渋々口を開く。

「どの道近くに用があるから、送っていきますよ。でも場所を確かめたら一旦帰って人を呼ぶんですよ。」

『走馬燈、一人で乗り込もうなどと思ってくれるなよ。僕の体でもあることを忘れないでくれ。』

「ここです。それでは失礼しますよ。」店員は慌てて立ち去る。

白粉の香りと嬌声、まあそういう所なんだろう。

『気配を読むのは得意だからな、応用して気配を消すことも出来る。安心しろ、少し探ったら帰るから。』

自信満々に言い放つ走馬燈を見て走馬はこの先の展開を粗方予測した。言うまでもなくそれは的中することとなる。

『凄いな、本当に天井裏まで無事に来られるとは思わなかった。もういいよな?』

『まだだ、薄氷を見つけてから帰る。』

ここだな。俺の聴力なら会話まで聞き取れる。もう少し様子を見て次の行動を考えよう。人数も九人もいるし。

「万年貧乏だったテメーが急に羽振り良くなるなんておかしな話じゃねぇか。うまい儲け話なら教えろよ。分け前はやるからよぅ。」

どすの利いた声だな。リーダー格に違いない。薄氷が話すようなら時忘に頼んで先制攻撃しないといけないな。

「金三十両だ。前金でね。成功すれば儲けは軽く千両は下らないぜ。」

「したたかな野郎だ。嘘だったらテメーのことを売り払ってやる。覚悟しろよ。」

…当然だよな。ここで啖呵を切って俺に義理立てるならそれは自殺行為だ。数時間しかいなかったんだ。情も移っていない。大丈夫だ。慣れないと、こういう世界だ。

「なんてな。悪いが俺はもう契約済みだ。ここであっさりと情報を吐いたらこの業界での信用は消え去っちまう。…昔のよしみでこのまま殺してくれ。」

薄氷は目を閉じた。驚いたように空気が凍り付く。走馬燈は決意を固めた。走馬は説得する気すら消え失せた。九対二か。走馬燈は戦力外だろうに。

「配下に欲しかったぜ。あばよ、地獄で会おうぜ。」男は薄氷の首に手を掛ける。

「待て!そいつは俺の友達だ。返してもらおうか。」

走馬燈は天井裏から飛び降りると口上を述べる。薄氷の鎖を電撃で粉砕する。必要以上に派手な壊し方だったが。

「一人か?気違いじゃねぇの?そんなで敵うわけねえだろ。」

時忘は一つだけ役に立つ技を教えてくれたよな。

「薄氷、俺に掴まっていろ。」

全範囲攻撃。最大出力だ。あちこちから悲鳴が上がる。死んでいないといいのだが。あまり悪人にも思えないんだよな。時忘に言わせるとこれは目くらましらしいのだが。

「道案内頼む。」

まさかその場で助けてくれるとはな。熱源探知で天井裏のこいつに気付いた時は時忘様には敵わないから、情報を聞き出すまで殺さないであろうこちらを敵に回すのがまだ助かる見込みが高いくらいにしか思っていなかった。想像以上に人のいい奴だな。

「前方二時の方向に敵。二人だ。貉とろくろ首。」

走馬燈は出鱈目に電撃を放つ。当たらない。

「下に当てろ、足場を崩せる。」

『死んだら一生お前を怨むからな、末代まで祟ってやる。ほら、集中しろ!』

何でこのタイミングで次々ボケるんだよ。どの辺りを狙ったもんだかさっぱりなんだよ。何か使えるものはないか?

『何か粉状の物質はないか?出来るだけ大量に。薄氷に氷で自分たちの周りに盾を作れないか訊くのを忘れるな。』

成る程。物騒な案だが現状それが最上だろうな。俺は即座に薄氷に伝える。

「白粉の元なら腐るほどある。どうすればいい?」薄氷は余計な質問はしなかった。

「合図したらぶちまけろ。出来るだけ敵が集まってから頼む。」

これで無事なら俺の出る幕じゃない。時忘は龍が特別タフなだけだと言っていたし、足止めにはなるはずだ。戦意喪失すればこっちのものだ。

「今だ!」

木造の平屋で大規模な粉塵爆発を起こすとこうなるのか。二度としたくない経験だけどな。氷は思ったより耐久性に優れている。死屍累々と言った光景だが致し方無い。

「何が起こったんだ?あんたの能力か?」

「説明は後だ。取り敢えず時忘の所まで行こう。」

俺は時忘が別邸と言っていた場所に向かう。薄氷は警戒を強めている。母屋からそう離れていなくて助かった。

「時忘、走馬燈だ。紹介したい人がいる。時間はあるか?」

返事はない。留守なのだろうか。屋敷が広大なせいで中の様子まで分からない。勝手に入るのも問題になりそうだ。

「走馬燈か。何故こちらに来たのだ?急用か?」

薄氷は体を強張らせた。時忘だ。今帰ってきた所らしい。時忘は薄氷に目を止めた。空気が張りつめていく。

「その童はどうした?敵か?」心なしか冷たく聞こえる。

「薄氷と申します、殿。走馬燈様の友人です。」

「まずは何があったのか訊こう。上がれ。」

時忘は躊躇せずに上座に座る。それを見て薄氷は走馬燈が時忘の息子なのだと勘違いした。その訳は一旦置いておこう。

「成る程。初めに言っておくが、二度とこんな無謀な真似はしないと誓え。疑わしきは罰するのが基本姿勢だ。今はそれよりも後始末だな。案ずるな、貴様は後回しだ。」

これが時忘か。間近で見るのは初めてだが、とてつもない威圧感だ。俺の能力では敵わない。このままだと身の危険が迫る。走馬燈に助け舟を出してもらわないと。

時忘は薄氷の袖を掴むと二人で出掛けようとする。薄氷の恐怖を感じ取った走馬燈は叫んだ。

「俺も行く。俺の友達に何かあったら赦さない。」

『走馬燈、代われ。お前では優しすぎる。僕が説得する。』

走馬燈は目隠しを外し、走馬が時忘の瞳を見据えた。薄氷はこんな顔だったのか。時忘は表情が読めないな。

「僕の一番の弱点ですから、晒さないとフェアじゃないでしょう?貴方は僕を飼い殺しにしようとしている。僕は貴方と同じくらい彼を信用しています。奪わないで下さい。」

嗚呼、真っ直ぐで迷いのない瞳だ。灯馬もこんな風に私の目を見据えていたな。私に忌憚なき意見を言う者は久しい。

「その通りだな。思いを無視される辛さは私もよく分かっている。童よ、良い友達を持ったことに感謝しなさい。但し余計なことは言わないように。分かっているな?」

「時忘様、牛姫がお出でです。」一反木綿と思しき何かが知らせる。

「走馬燈も走馬も明朝話がある。屋敷で待つように。今回の件で私も決断しなければならないようだ。」

時忘は立ち上がり屋敷を去った。後には二人取り残される。走馬は薄氷に自分の屋敷に来ないか尋ね、屋敷に案内する。

『走馬、ありがとう。』

『一つ貸しだ。今度は僕の言う事も聞いてもらうからな。』

「色々と言いたいことはあるけど、あんたが三の方だったとは。それでもこんな無礼を許してくれるのは理由があるの?」

三の方?何処かで聞いたことがあるような気もする。何だっただろうか。

「…三の方ね。今一つ分からないんだけど、つまりはどういう意味?」

薄氷は呆れたように笑った。

「あんたの名前、走馬燈だろ?漢字三文字で走・馬・燈。こんな風に龍族で特に妖力の強い、龍神と呼ばれるような部類の者にはそれと分かるように漢字三文字の名を付ける習わしがあるのさ。その方たちの総称が『三の方』というわけ。それ以外は一文字か二文字だから。通りで時忘様を呼び捨てにするわけだ。身分上は時忘様の方が低いからね。」

「身分上は?」走馬は薄氷の言い方に引っ掛かった。

「誤魔化そうってったって無駄だよ。さっき時忘様は三の方であるあんたより上座に座った。これが許されるのは立場上時忘様が上、つまり実の父親だってことだろう。」

頭が回るなぁ。時忘がそれを知っていながら上座に着いたとしたらどういった狙いがあってのことだろうか。

「それより今の疑問は何で急に目が開いて、妖力が人間のようになくなったのかの方が疑問だな。」

『言っていいのか?走馬燈。』

『余計なことは言うなって釘を刺されたわけだけど?』

恐らく説明しだしたら僕らが半妖であることまで悟られる。それは果たして大丈夫なのか僕らには判断出来ない。言いにくそうにしていると、薄氷は気を遣ってこう言った。

「無理して話さなくてもいいさ。今日一日で何回も危ない所を救ってもらったし、恩があるからね。友達だってことだけで充分だよ。」

「…ごめん、明日の時忘の話次第で話していいか決まるから。今日は無理だ。」

走馬は視線を逸らす。薄氷の目的の一つは果たせた。走馬燈に貸しを作ることだ。

「若様、お帰りが遅くて心配していたんですよ。今すぐにお着替えをさせて差し上げ…あれ?走馬さ…。」

千里が口を滑らせる前に走馬は口を手で覆って、廊下に連れ去った。

「一寸事情があるんだよ。少しだけ別の部屋に行ってくれないかな?ね、直ぐに済むから。」

千里は頷いた。走馬は部屋に戻る。薄氷は軽蔑したような表情だった。

「何て言っても所詮お坊ちゃんはお坊ちゃんなんですね。お邪魔しましたね。どうぞ小さい子相手に甲斐甲斐しく世話をしてもらって下さい。ただの友達は帰りますから。」

「え、いやいや、違う。千里は走馬燈の目が見えないから世話係としているだけで、そういう事じゃないって。本当に。そもそも千里は同い年だから。」走馬の顔は真っ赤になる。

『狼狽えるなよ。余計に怪しいじゃないか。』走馬燈は保身に回る。

走馬は慌てて誤魔化すためにお茶を啜り、直ぐに噴き出した。むせて咳き込む。センブリ茶もここまで苦いか疑わしいと思えるほどの強烈な苦みだ。香りからしてこの世のものとは思えない。

「また後日遊びに来るさ。どうもお疲れのようなんでね。さっきの女の子に介抱してもらいなよ。」薄氷はまだ素っ気ないようにも見えるが、機嫌は直ったようだ。

走馬は一人床に寝っ転がって天井を見ていたが、縁側に出て星空を眺めようと思い立った。先客がいた。千里だ。

「走馬様、もう用事はお済みになったのでしょうか?」

千里の茶髪はふんわりと風になびいている。

「悪い、まさか外で待たせてるとは思いもしなかった。中に入ろう。冷えるよね?」

千里は走馬を見てクスリと笑った。袖で口元を隠して笑う様は愛くるしかった。走馬は何も気の利いた台詞が思い付かず、口を閉ざしている。

『仲睦まじいことで。』

『走馬燈、お前は僕の味方だと思っていたんだが?ほっといてくれ。』

俺の体でもあることを忘れないで欲しい。千里は俺の世話係だ。と言うのは流石に嫉妬深いだろうが。そもそも俺は色恋沙汰には点で興味がない。寧ろ走馬が俺から離れていくのが怖い。

『心配するな。僕は距離感を弁えている。お前も千里に特別な感情を抱いているなら兎も角、このままでいい。』

走馬燈は胸が痛んだ。俺らは…この状態はどちらのためにもならない。不自然だ。走馬が普通の人間だったら、俺なんかいなかったら。こんなにもいい人なのに、俺のせいで。

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