【声劇台本】Cafe 『Lemon』
商用・無償を問わずご自由にお使いください。
報告義務はありませんが、使用の旨ご連絡いただけましたら、喜び勇んで可能な限り拝聴させていただきます。
ご使用の際は次の項目にご留意ください。
【必須事項】
・作品名、作者名、URLの明記
【禁止事項】
・セリフの大幅改変
・過度なアドリブ
・自作発言、転載
・性転換(外部配信しない場合(いわゆる「裏劇」)はこの限りではありません)
【補足】
セリフは、間の取り方・息遣いなどある程度自由に演技ができるよう、可能な限り「!!」などの感情表現を省いてあります。句読点も文章の意味が伝わる最低限にしております。冒頭にある、役柄の性格説明をまずご参照いただき、そこからは自由に演じていただければと思います。
ただし、セリフの内容や大筋は台本に沿っていただくようお願いいたします。
声劇台本【Cafe 『Lemon』】
作:久遠
【想定所要時間】約60分
【登場人物】
レイチェル ♂ 年齢不詳
Cafe 『Lemon』の運営担当。穏やかなオネエ。
淑やかさと女子力に溢れている。
アイリーン ♂ 年齢不詳
Cafe 『Lemon』の接客担当。明るいオネエ。
メイクの腕がピカイチ。
パメラ ♂ 年齢不詳
Cafe 『Lemon』の調理担当。クールなオネエ。
服やインテリアのセンスが良い。
サクラ・アオヤマ ♀ 18歳
日本人。とっても純粋。Cafe 『Lemon』のある街の学校に通っている。
転校してきてまだ1年経っていない。
エマ・ロッドフォード ♀ 18歳
アメリカ人。サクラの友達。
転校してきたサクラと最初に友達になった。
ジェイク・マッカーシー ♂ 18歳
アメリカ人。エマの幼馴染で、ごく普通の甘党男子。
守ってあげたくなるような女子が好き。
男1/2/3/4 ♂
サクラたちの通う学校の生徒。
【人数比率】
♂:♀:不問=4:2:0
レイチェル/男3 ♂ …
アイリーン/男1 ♂ …
パメラ/男2 ♂ …
サクラ ♀ …
エマ ♀ …
ジェイク/男4 ♂ …
※作中の店名・学校名は架空のものです。
※実在する地名・団体名などが出てきますが、本家とは一切関係ありません。
**********
(とある日の昼下がり)
サクラ: ここね、Cafe 『Lemon』。雑誌に載ってた、スイーツの美味しいお店…
ジェイク: 随分と乙女チックな店構えだな。
エマ: 店内もさぞかし賑わってるんだろうなあ、女の子で。ここまで来てまさか逃げ出さないよね、ジェイク?
ジェイク: 冗談だろ? 可愛いウェイトレスと美味いスイーツ、最高じゃねえか。
サクラ: えっ? エマ、伝えてないの? 雑誌に書いてあった内容。
エマ: 行けばわかるもの。それにそのほうが面白いじゃない。サクラ、あんたもそう思わない?
サクラ: ……ちょっと興味ある。
ジェイク: さて、いざ女子の花園へ――(喋りながら扉を開ける)
アイリーン: いらっしゃーい! Welcome to “Cafe 『Lemon』”!
ジェイク: おわあああああ化け物!?
アイリーン: あら、ご来店は初めてね? 新鮮な反応で嬉しくなっちゃうわ。
サクラ: すごくきれいなメイク……!
エマ: ほんと! めちゃくちゃ美人さんじゃん、カッコイー……
アイリーン: んふふ、お嬢さんたち、お目が高いわね。将来もっといい女になるわよ! アタシが保証する。
お客様は3名様ね? お好きなお席へどうぞ。
サクラ: は、はい!
ジェイク: (小声で)おい、目的地ここでほんとに合ってんのか? これでスイーツが旨くなかったら単なる珍獣見学だぜ。
アイリーン: ばっちり聞こえてるわよボウヤ。まあ期待してなさいな。
サクラ: すごく楽しみです! わたしたち、雑誌の特集でこのお店見つけたんです。
エマ: そうそう! お客さんも入ってるし、スイーツのいい香りもするし、もう間違いないでしょこれ!
パメラ: (厨房から)いいねえ、嬉しいこと言ってくれるねお嬢ちゃん。
ジェイク: 化け物二体目!?
パメラ: 勇気あるボウヤじゃないの。ロサンゼルスのクリーチャーズにアヤつけようって?
ジェイク: め、滅相も無い!!
パメラ: ふっ、冗談。むしろ大好きよ、そういうウブな反応のオトコノコ。
ジェイク: ヒッ!
アイリーン: ご注文は?
サクラ: えーと…おすすめはありますか?
アイリーン: そうねえ、レモンリコッタパンケーキなんてどうかしら。一番人気よ。
エマ: 店名と一緒か、洒落てるなあ。
サクラ: じゃあ、それで!
エマ: あたしはラズベリーパイ!
ジェイク: ……
アイリーン: ボウヤはどうする? うちのシェフ、お口は悪いけど腕は確かよ。
ジェイク: ……メイプルシフォンケーキ。お手並み拝見だ。
アイリーン: OK、ボウヤ達かわいいからエスプレッソもサービスしてあげるわ。
サクラ・エマ: やったぁー!
ジェイク: やったぁー……
エマ: もうあたしこのお店好きになったわ。店員さんが素敵。超カッコイイ。
ジェイク: 可愛いウェイトレス期待してショック受けてる俺に、何か言うことないわけ? お前ら……
エマ: 言うこと? そうねえ、面白かった。ご愁傷様。
ジェイク: 殴られたいならはっきりそう言えよ?
エマ: ところで、サクラ。もう何か考えてる? 今度のプロムのこと。
サクラ: まだ何も。ドレスもメイクも自分でやったことないもの……そもそもプロムって、どんなものなの?
エマ: そっか、日本ではプロムって無いんだっけ。
正式にはPromenade。基本的には3年生と4年生しか参加できないフォーマルダンスパーティーで、ハイスクール最大の行事だよ。ドレスもメイクももちろん大事だけど、あんた、一緒に行く男見つけた?
サクラ: え?
エマ: プロムは男女のペアじゃないと参加できないんだよ。
まだ相手決まってないんなら、ジェイクと組んだら?
サクラ: ジェイクはエマと組むんじゃないの?
エマ: 今年は別の男と組むって決めてんの。去年こいつと組んだし。なあに、ほかに気になる相手でもいるの?
サクラ: ううん、でも、ジェイクはエマと組みたいんじゃないかなって……いつも一緒だし。
ジェイク: いつも一緒なのは幼馴染の腐れ縁ってだけだ。……サクラは俺とじゃ嫌か?
サクラ: 嫌じゃないよ! けどわたしダンス上手く踊れないよ?
エマ: 大丈夫、あんたは上手い。それに、仮にどんなに下手くそでも問題になんないわ、こいつがいる限りね。
ジェイク: あれはなかなか不名誉だったな。去年、俺らのダンス、周りからなんて言われたと思う?
サクラ: え? えーと……?
ジェイク: アマゾンの部族の雨乞い。
サクラ: (吹き出す)あははははは! ぶ、部族のっ、雨乞いー……!!
エマ: 屈辱よ! こいつが族長であたしがシャーマンとまで言われるおまけつきだったんだから。
ジェイク: あれは絶対に俺だけのせいじゃねえぞ。俺のダンスだけじゃこいつをシャーマンにはできねえよ。
サクラ: あははは、だめ、くるしい……
エマ: だからサクラ、今年はあんたがこいつの面倒見てあげて。
今年のパートナーがあんたなら、アマゾンの部族にならなくて済むと思う。
サクラ: エマは、今年のパートナーはもう決まってるの?
エマ: 問題はそこよね。選り好みしてたらこんな時期よ。
最高学年のプロムは素敵な大人の男性と参加するって、前々からの夢なのに。
何でも屋に接点があれば、頼んでみるのも手だったんだけどな。
サクラ: 何でも屋?
ジェイク: この街には何でも屋がいて、文字通り何でも助けてくれるって噂があるんだよ。
エマ: もしその人たちと知り合いなら、ドレスもメイクもエスコートも、助けてもらえたかもしれないのに。
ジェイク: エスコートはどうだろうな、お前を相手取るにはゴリラじゃなきゃ無理だろ。
エマ: 殴られたいならはっきりそう言いなよ。
レイチェル: (笑いながら)お待たせしました。
ジェイク: ばっ、化け物三号っ!?
エマ: わあ、……素敵な人、カッコイイ……!!
レイチェル: お褒めにあずかり光栄ですわ。こちら、ご注文のお品です。
サクラ: ありがとうございます! (食べて)ん、……さわやかでふわふわで、美味しい!
エマ: んんー、パイもサクサクだしベリーも甘酸っぱくて、サイッコー……!
ジェイク: …………
レイチェル: お客様、うちのシフォンケーキ、お口に合ったかしら?
ジェイク: ……なんだ、このふわふわ加減……口に入れたらシュワっと溶ける……
甘すぎない生地にメイプルの香り、添えてある柔らかな生クリーム……なんて繊細なハーモニーだ……!
またこのエスプレッソの苦みが、奥ゆかしい甘さをぐっと際立たせて……!
レイチェル: うふふ、お気に召したようでよかったわ。
ジェイク: ……俺が悪かった、謝る。化け物なんかじゃねえ、この人たちは神だ。
エマ: 豹変したよ。
ジェイク: だってそうだろ? 店の雰囲気にインテリア、食器にスイーツにドリンク、どれもこれも凄いじゃねえか。
よくよく見たらユニフォームだってシンプルに見えて凝ってる……
レイチェル: ありがとう。うちのユニフォームは厨房のあの子がデザインしたのよ。
サクラ: メイクは、みなさんご自分で?
レイチェル: いいえ、最初にみなさんをお迎えした子が、私たちにもメイクしてくれているの。
エマ: すごく、……すごく似合ってる。ていうか根本的にめちゃくちゃカッコイイ、キレイだけど。うう、うまく言えない…
レイチェル: ふふ、ありがとう。貴女の心、ちゃんと伝わっているわ。
サクラ: (小声で)ねえ、エマ、ジェイク。
エマ: (小声で)うん。
ジェイク: (小声で)ああ。
サクラ: ……あの、お姉さん。
レイチェル: どうかなさって?
サクラ: 折り入ってお願いがあります。わたしたちのプロムの準備を、手伝っていただけないでしょうか……!
(Cafe 『Lemon』 応接室)
レイチェル: あらためて、私はレイチェル。この「Cafe 『Lemon』」のオーナーよ。
アイリーン: 接客担当、アイリーンよ。あとはメイクもやってるわ。
パメラ: パメラ。調理とデザイン系全般。
サクラ: サクラ・アオヤマです。カメリア・ハイスクールの最高学年で、今年18歳になりました。
エマ: あたしはエマ・ロッドフォード。18歳、サクラの同級生よ。
ジェイク: ジェイク・マッカーシー。右に同じ。
レイチェル: 早速本題に入りましょうか。
サクラだったわね。プロムの準備を手伝ってって、具体的には何をしてほしいの?
サクラ: わたし、転校生で、プロムに参加するの初めてなんです。プロムがどんなものなのかはエマに聞いてなんとなくわかったんですけど、そもそも自分でメイクしたことがあまりなくて……ドレスなんて選んだこともなくて。
アメリカではプロムのドレスを母親が見立てることもあるって聞いたんですけど、両親ともプロムの経験が無くて……
パメラ: お嬢ちゃん、日本の子よね。ドレスの件は納得だけど、向こうの学生はメイクもしないの?
サクラ: してる子はしてるんですけど……あの、わたしは、あんまり。学校の規則でも禁止されてたので。
アイリーン: んふふ、真面目ちゃんだったのねぇ。
パメラ: エマだったっけ、あんたはサクラのドレス見立ててあげたりしないの?
エマ: いや、それが正直あたし、自分のセンスに自信なくて……
自分のセンスにすら自信ないのに、アジア系の子に似合うドレスなんてもっとハードル高いなって。
アイリーン: 確かにねえ。エマちゃん結構ボーイッシュだもんね。オシャレもあんまりこだわったことないでしょ?
エマ: お、仰る通りで……
ジェイク: 男とつるむほうが多いもんな、エマは。
それも彼氏候補とかじゃなくて、男の俺らもこいつのこと男だと思って接してるし。
アイリーン: あら、それはダメよジェイク。ボーイッシュでも女の子は女の子なんだから。舐めてると足元掬われるわよ。
それにプロムなら男だってある程度キメてかないと、パートナーに恥をかかせることになる。そのあたりの準備は万全なのかしら?
ジェイク: 抜かりなし、……って言いたいけど正直俺も不安……
アイリーン: 宜しい。オトコもオンナも素直が一番よ。
さて、じゃあパーソナルカラーから考えていかないとね。髪や目や肌の微妙な色合いで、同じ人種でも似合う色が変わるから。
サクラ: えっ、じゃあ、アイリーンさん……!
アイリーン: アタシは引き受けるつもりよ。任せて、飛びつきたくなるような極上のレディにしてあげるわ。
パメラ: まあ、三人とも魅力的な素材だもんね。確かに仕込み甲斐はありそうだわ。
わかった、アタシも引き受ける。
レイチェル: 極上のレディになるには、ドレスとメイクに見合った立ち居振る舞いも大事よ。もちろん男性のエスコートもね。
引き受けるからには妥協はしないわよ。3人まとめて「マイ・フェア・レディ」といきましょうか。
ジェイク: イエッサー!
パメラ: やり直しよボウヤ。このレディ三人を前にイエッサーだって?
ジェイク: れ、レディ……?
パメラ: ボ・ウ・ヤ。
ジェイク: いッ、……イエスマム!!
パメラ: よろしい。……あー、平和な依頼ってサイコーよね。
レイチェル: パメラ。
パメラ: おっと、失礼。
サクラ: あとはエマのパートナーだけね。
アイリーン: パートナー? まだ決まってないの?
エマ: うん。でね、……もしよければ、レイチェル、あたしのパートナーになってもらえない?
レイチェル: え? 私が?
エマ: 去年のプロムで、最高学年の先輩がすっごい素敵な大人の男性と参加してたの見て、それからずっとあたしの夢だったの。
レイチェル、すごく大人っぽくてスマートでカッコイイから、是非エスコートしてほしいなって!
アイリーン: あらあらレイチェル、若い子にこんな熱烈なアプローチもらっちゃうなんて隅に置けないわね。
レイチェル: でも、ハイスクールのプロムは人生の一大イベントよ? 私で手を打っていいの?
エマ: レイチェルが良いの! お願い!!
サクラ: スイーツを運んできてくださったときから、エマはレイチェルさんがお気に入りだったみたいなんです。
エマ: サクラ! 恥ずかしいってば! ……本当のことだけど!
パメラ: ふふん。オトコのレイチェルを見るのも久しぶりね。
いいわよ、ボウヤと一緒にスタイリングしてあげる。
アイリーン: 安心なさい、エマ。レイチェルは女性に恥をかかせるような無粋な野郎じゃないわよ。
ドレスにしろメイクにしろ、現場でお直しが必要になった時にも、レイチェルなら一通りお任せできるしね。
レイチェル: ……本当に、私でいいのね?
エマ: レイチェル「が」いい!
レイチェル: わかったわ。ではあらためて、エマ、私にエスコートさせていただける?
エマ: うん! ありがとうレイチェル!
アイリーン: そうと決まれば早速準備ね。
カメリア・ハイスクールの今年のプロム、アタシたちが総ナメするわよ!
サクラ: はい! よろしくお願いします!
パメラ: (小声で)ところでジェイク。あんた、サクラと組むんでしょ。あの子に惚れてるの?
ジェイク: !
パメラ: 厨房からも聞こえたわ。あんたたちの会話。
あの子、とってもピュアで鈍そうだから、もっとはっきり攻めないとたぶん気づきもしないわよ。
サクラは可愛いし、日本人らしく奥ゆかしいから、ほかのボーイたちも黙ってないかもね。
ジェイク: ……ああ。
パメラ: 男見せな、ジェイク。
ジェイク: わかってる。……よろしく頼む。
(プロム当日)
アイリーン: さて、いよいよ本番ね。腕によりをかけたアタシたちの最高傑作よ!
パメラ: 我ながらいい出来だわ。話題総ざらいは間違いないわね。
アイリーン: 金髪ではっきりした顔立ちのエマは、性格の明るさをぐっと強調して、イメージは向日葵。
ナチュラルでヘルシーな肌色のクリームファンデを乗せて、落ち着いたベージュのチークと自然な眉。
アイメイクもブラウンで統一感を出して、目尻に差し色ではっきり明るいイエローを置いて目力アップ。
マスカラは強めにガッツリ乗せたら、睫毛の端にもイエローのアクセントで花びらみたいな印象を追加。
目元に視線を集める分、ルージュは控えめなアプリコットを引いて、さしずめ花の妖精ってところかしら?
パメラ: メイクがかなりはっきりした仕上がりだから、ドレスはメイクより大人しめな同系色のAライン。
色味のベースはメイクの差し色を基準にペールイエロー。その上に、光の当たり方でほんのりグリーンに見える透かし生地で緩やかに襞を取って、シンプルだけどゴージャスに見えるデザインを追加。
髪は緩くパーマを付けて向日葵モチーフのピンをいくつかあしらって、首元に深いブラウンのチョーカーで大人感アップ。メイクを引き立てるスタイリングにこだわってみたわ。
アイリーン: サクラは日本人らしい黒髪と白めの肌が特徴的だから、白雪姫をイメージしてみたわ。
ベースはラベンダーの下地で血色をよく見せて透明感もプラス。ファンデは薄付きのリキッドタイプ。
白い肌を際立たせつつケバく見えない、コーラルピンクのジェル・チーク。眉は気持ち太めで緩やかに。
アイメイクは控えめにブラウン系のシャドウ、目尻にほんのりローズカラーを差して、マスカラも薄め。
とどめは瑞々しくて赤いルージュで、清楚なのに色気をたたえたプリンセスの完成よ!
パメラ: メイクに合わせてドレスもイメージは白雪姫でプリンセスライン一択。
けどアニメ映画そのままの信号機みたいな配色じゃ芸が無いからもっと品よく、ルージュの色に合わせたアップルレッド一色で勝負。髪にはドレスと同色のリボン、ウエストにはブラックのリボンで差し色。
ジュエリーは付けすぎるとむしろ清楚さを損なうから細いシルバーチェーンのペンダント、そのトップは白雪姫にちなんでアップルモチーフと洒落こんでみたわ。
アイリーン: さて、ガールズ。アタシたちの腕はお目に適うかしら?
サクラ: ……これが、わたし……こんなの、初めて……
エマ: あたしだって初めてよ、こんな気持ち……わくわくする……!
パメラ: 最上級の誉め言葉ね。ドレスアップは心を高揚させるものよ。
アイリーン: レイチェル、そっちの準備はどう?
レイチェル: お待たせ、完了よ。如何かしら?
サクラ: ……
エマ: ……
レイチェル: 放心してるわよこの子達。
アイリーン: たぶんあんたに見惚れてるのよ、レイチェル。
パメラ: 久々に見るとやっぱりいい男よねえ。有り物のスーツ着て少し髪をいじっただけなのに、輝いてるわ。
レイチェル: いやだ、私おでこテカってる?
パメラ: 安心なさい。そういう意味じゃないわよ。
アイリーン: 私物でシルバーのスリーピースが出てくるあたりも、さすがはレイチェルよね。
ジェイク: ……俺これからこの三人と一緒にプロム行くのかよ……確実に見劣りすんじゃねえか……
アイリーン: シャキッとなさい、ボウヤ。せっかくのプリンスルックが泣くわよ。
ジェイク: いや、でも、まさか白タキシードが来るとは思わなくて……
パメラ: あんたはサクラをエスコートするんでしょ? プリンセスの手を引くのはプリンスって相場が決まってるの。こんだけガッツリキメてるプリンセスのエスコートがノーマルタキシードじゃ単なる付き人が関の山よ。
ほら胸張って姫を迎えに行きなさいな。
ジェイク: あ、ああ……サクラ、お待たせ。
サクラ: 大丈夫よ、ジェイク。緊張してる?
ジェイク: してる。その……綺麗だ。
サクラ: ありがとう! 本当に素敵なスタイリングよね。アイリーンさんとパメラさんに感謝しなきゃ!
ジェイク: あ、いや、えーと……スタイリングもだけど、お前が……綺麗だって。
サクラ: ふふ、気を遣ってくれてありがとう、ジェイクもすごくかっこいいよ!
ジェイク: 気を遣ってなんて……
エマ: プリンスへの道のりは遠いねえ。
レイチェル: 本当ね。エマ、貴女は緊張してないの?
エマ: してるよ、こんなカッコイイ人にエスコートしてもらうってだけで心臓が壊れそう。
レイチェル: ふふ、こんなに素敵な花の妖精さんに恥をかかせてはいけないもの。
貴女も胸を張って堂々となさい。……凄く、綺麗よ。
エマ: レイチェル……
レイチェル: 今夜は、私は貴女だけの王子様よ。お手をどうぞ、プリンセス。
エマ: ……あー、もう、カッコよすぎてどうにかなりそう……!
アイリーン: 着いたわよ、カメリア・ハイスクール。
サクラ: ありがとうございます! 行ってきます!
パメラ: ジェイク、しっかりやるのよ。
ジェイク: ああ……!
(カメリア・ハイスクール 学内)
男1: おお、なんだあの集団……!
男2: なんかあの一角だけ空気違うな……
男1: あの子めちゃくちゃ可愛くねえ? 赤いドレスのアジア系の子。
男2: 俺の好みはあの金髪の子だな、ふわふわでキラキラしてて妖精みたいだ。
男1: 声かけてみるか?
男2: 勇気あんなぁお前。でも俺も行くわ。
男1: なあ、そこの白雪姫! あんた、すっげぇ可愛いよな!
男2: そこの向日葵の子も、すごく俺好みで綺麗だよ。
ジェイク: なっ……!
レイチェル: やあ、良い夜だね。向日葵の妖精は私の連れなんだけど、何か御用かな?
男2: うわ、……い、いえ! 失礼しました!!
男1: じゃあ、このプリンセスのパートナーは……?
ジェイク: (威圧)俺だけど、なんか文句あるか?
男1: ジェイク!? え、お前こんな可愛い子と付き合ってたの!?
ジェイク: あ、いや、
レイチェル: (被せて)そう、そこのプリンセスは彼のものだ。姫に手を出したら王子様が黙ってないと思うよ。
男1: しっ……失礼しました!!
ジェイク: (小声)れ、レイチェル……!?
レイチェル: 今日の貴方はサクラの王子様でしょう? 何も間違ってはいないと思うけれど。
ジェイク: う……た、確かに。
レイチェル: これは思った以上に注目の的のようね。
サクラ、エマ、なるべく私たちから離れないほうが良いかもしれないわ。
サクラ: え、どうしてですか?
エマ: せっかくモテモテな気分味わえると思ったのにー。
ジェイク: お前ら、自分が思ってる以上に男どもの目を惹いてんだよ。
サクラ: えっ、わたし、何か変な振る舞いをしちゃってる……?
レイチェル: いいえ、全く。可愛い子は狙われるから危険というお話よ。
……あら、ちょうど私の好きな曲だわ。一曲お相手いただけますか、私のプリンセス?
エマ: ええ、でも、あたしダンス上手くない……けど……
レイチェル: 大丈夫。私に全部ゆだねてくれればいいの。
エマ: う……うん。
レイチェル: (小声)それにそろそろあの子たちを、二人にしてあげたいしね。
エマ: ! それは、そうだね。……えと、ダンス助けてね?
レイチェル: 任せなさい。
(エマ・レイチェル、ダンスフロアへ去る)
ジェイク: ……行っちまったな。
サクラ: そうだね。なんだかあの二人すごく大人っぽくて、綺麗。
ジェイク: (小声)お前のほうが綺麗だ。
サクラ: ジェイク?
ジェイク: なんでもない。俺たちはどうする?
サクラ: わたしたちも、踊ってみたいな。
ジェイク: いいのか?
サクラ: なにが?
ジェイク: 言ったろ、俺のダンスは……
サクラ: いいの。ジェイクと一緒に、楽しく踊れれば、それで。
ジェイク: ……お前、それ、天然?
サクラ: ?
ジェイク: いや、いい、なんでもない。……行こうか。
(プロム会場、数時間後)
エマ: はぁー踊った踊った! 楽しーい!
レイチェル: こら、エマ。気持ちはわかるけれどそんな大股開きでダラけちゃダメよ。
エマ: えー、どうせロングドレスで見えないでしょー?
レイチェル: 見る人が見ればわかるものなの。せっかくお花みたいに綺麗なのにもったいないわ。
それはそうと、貴女、ダンス苦手だって言ってたけれど、とても上手だったわよ。
エマ: そうかな? 去年のプロムは散々だったんだけど……
レイチェル: お店で話してたわね。アマゾンの部族だったかしら。
エマ: わああやめて! 無かったことにしたいのに!
レイチェル: 良いじゃない、それも大事な経験よ。
エマ、貴女は、パートナーに影響を受けるタイプなの。踊れる人がお相手なら綺麗に踊れるけれど、得意でない人をお相手したときはその人に引きずられてしまうのよ。
エマ: だから、今日のダンスは楽しいのか。
レイチェル: ジェイクも同じ。お相手が踊れる人なら十分に踊れる受け身タイプ。だから、同じ受け身タイプの貴女と組んだ去年は、大変なことになったんだと思うの。
その点サクラは、自立して踊れる子だわ。そのうえで相手をリードすることもできる。今日の二人のダンスは、なかなかのものだったわよ。
エマ: それ、直接あの二人に伝えてあげたいなあ。
ジェイクはダンスが苦手だって思いこんでるし、サクラは自分に自信が無いみたいだし。
レイチェル: そうね、休憩がてら二人も呼んでゆったり過ごしましょうか。
エマ: ……? 見える範囲には居ないみたいよ。
レイチェル: お花摘みにでも行ってるのかもね。私も少し失礼しようかしら。
エマ: あたしも行く。離れるなって言われてるもんね。
レイチェル: ふふ、いい子ね。でもお手洗いの入り口までよ?
エマ: わかってるもん!
レイチェル: (電話)アイリーン、私よ。車回して頂戴、カメリア・ハイスクール北門付近。パメラも一緒に、応急手当用品持ってきて。
(大声)エマ! いらっしゃい、手伝って!
ジェイク: ……う……
エマ: ジェイク!
ジェイク: ん……? っ、痛って……!
エマ: よかった、気づいた!
レイチェル: おはようジェイク。矢継ぎ早で申し訳ないけれど、何があったか覚えていることを話してもらえる?
エマ: あんた、トイレの床に倒れてたんだよ! レイチェルが見つけてくれなかったらどうなってたか!
ジェイク: ……ああ、そうだ……用を足しに来たら後ろから襲われて、振り向いた途端にもう一発殴られて……
……そっから記憶が無い。悪い……
レイチェル: 犯人の具体的な特徴とかはわからない?
ジェイク: ……男が、何人か……そうだ、「腰抜けのプリンスを仕留めた」……とかなんとか……
レイチェル: ジェイク。学内で人目につかなさそうな場所は思い当たるかしら。
ジェイク: え……?
レイチェル: なるべく早く思い出してもらえると助かるわ。サクラが危険よ。
ジェイク: !?
アイリーン: レイチェル、お待たせ! エマ、あんたは無事なの?
エマ: アイリーン! あたしは大丈夫、けど!
パメラ: 大体の話は把握してる。ジェイク、手当てするわ、こっちへ。
ジェイク: あ、ああ……
パメラ: 一日通して最後まで平和、とはいかなかったか。
アイリーン: まさかこんな日にこんな場所で、アタシたちの出番が来るなんてね。
レイチェル: 嫌な予感は当たるものね。今日のサクラはとびきりの美少女だったもの。
学内を軽く歩くだけでも、相当の視線を奪っていたわ。
エマ: レイチェル、それって、サクラを気に入った奴らが、
ジェイクが傍を離れるタイミングを狙って、あの子を攫ったってこと……?
レイチェル: 察しがいい子は好きよ、エマ。
ジェイク: ……レイチェル、一か所だけ思い当たる場所がある。
最高学年の学生寮の奥に、古い倉庫がある。いつもなら物が詰まってるけど、今日のプロムで使ってるから倉庫は空いてる。
エマ: そうか、プロム中は学生寮ももぬけの殻だから、そもそも今日は、あっちに人は寄り付かない……!
レイチェル: なるほど、行く価値はありそうね。
エマ: あたしも連れてって。
レイチェル: 駄目よ。
エマ: (被せて)駄目って言われても行く。絶対ついてく。親友と腐れ縁に手出しした奴ら、マジ許さない。
パメラ: 放置して無茶されるよりも、連れて行ったほうが安全かもよ。
エマ: さすがパメラ、わかってんじゃん。
ジェイク: レイチェル、俺も行く。
アイリーン: (被せて)あんたはさすがに駄目よ怪我人のボウヤ。
ジェイク: でも! サクラは、俺のパートナーだ!
アイリーン: 良く言った。その気概で、あんたは正当な方法でサクラを助けるのよ。
ジェイク: 正当な方法……!
パメラ: そういうこと。汚れ仕事はこの、ロサンゼルスのクリーチャーズに任せときな。
……さて、本領発揮といきましょうか。
(学生寮裏・倉庫)
(サクラは手を縛られて、猿轡を噛まされている)
サクラ: ん……? んん、んーっ!!
男1: ああ、お目覚めかい白雪姫。
サクラ: んん、んっ、んー……
男4: 暴れんなよ、大人しくしてりゃ痛い目には遭わせねえ。
男3: 痛い目には、な。
男1: あらためて、つくづく可愛いよなお前。
男2: 思い出したぜ。お前、去年転校してきた日本人だよな。
男4: 日本人の女ってのは、お淑やかで従順だっていうじゃねえか。
男3: ああ。ベッドの中でも従順なのかずっと試したかったんだよなあ。
サクラ: ん、んん!
男4: お前の場合は単純に、アジア系の女の具合に興味があるだけだろ?
男3: ああ……小さくてほんと可愛いぜ。
男2: おいおい、なんて顔してんだよ。野獣みてえだ。
男3: 欲望に忠実なんだよ。この邪魔なドレス、さっさと剥いでやりたくてしょうがねえ。
男4: わかったろ、俺らは飢えてんだよ。暴れるのは得策じゃねえ。理解できるなら猿轡だけは外してやってもいい。
サクラ: んんっ……!
男1: おい! 正気か?
男4: お前はこいつの声聞きたくねえの? 俺は聞きたいね、真っ最中にこいつがあげる声。
男1: それは……確かに。
男4: もう一度言うぞ。暴れるな、デカい声も出すな。守れるか?
サクラ: ん……(頷く)
男4: 良い子だ。……ほら、もう喋れるだろ。名前は?
サクラ: 貴方がたに名乗る名前など持ち合わせていません。
男1: へえ、見かけによらず強気なんだな。ますます俺好みだ。……ぐちゃぐちゃにしたくなる。
サクラ: 触らないで。
男2: 物分かりはあんまり良くないみたいだな。
男3: 今はプロムの真っ最中だ。こんな倉庫にわざわざ人なんか来ねえ。大人しくヤられるしかないんだよ。
サクラ: 助けが来ます、必ず。
男4: 誰が来るんだ? ああ、お前のパートナーの王子様か? 残念だな、そいつなら便所でぶっ倒れてるぜ。
大事なお姫様を独りにして、あんな隙だらけじゃ狙えって言ってるようなもんだ。
サクラ: ……彼に、怪我を負わせたの?
男3: まあ生きちゃいるだろうけどな。あんな腰抜けのプリンスより、俺らのほうがイイ思いさせてやれるぜ?
サクラ: わたしの大事な友達に、痛い思いをさせたのね。
男1: もういいだろ。今ここにいない奴のことを考えるより、この後の自分の心配でもしろよ。
……忘れられない夜にしてやるぜ。
(ドンドンドン、と扉をたたく音)
男1: あ? クソ、これからいいところだってのに……
男2: 雑音に構うなよ。鍵かけてんだろ?
(ドンドンドン、と扉をたたく音)
男3: ああもう! うるせえな!
男4: ……ちょっと追い払ってくる。
(ドアを開けるとアイリーンがいる)
男4: うるせえな、なんか用かよ。
アイリーン: (被せて)あらやだちょっといい男発見よー!!
男4: はあああ!? なんだお前ら!?
アイリーン: やだなにこのピチピチのお肌! やっぱ学生は違うわね、もうー可愛いっ!
男4: おいマジ止めろ触んな! 俺はゲイじゃねえ!! おい、助けろ!!!
男3: お、おう! てめえ何勝手に入ってきてんだよ、ここは俺らが先約だ!
アイリーン: (被せて)うそまだ居るの!? ちょっと、いい男まだ居るわよー!
パメラ: マジでー!? あらほんとイケメンじゃないの! やだ可愛い食べちゃいたい(舌なめずり)
男3: うおおおおお増援かよ!?
パメラ: ああもうほんと美味しそう……ほどよく引き締まったこの筋肉とかもう最高じゃない……
男3: どこ触ってんだふざけんなよゲイ野郎!! おい助けろよ!!
男4: お前この状況見えてる!? 無理に決まってんだろむしろ俺を助けろ!!
アイリーン: もう声まで張りがあるなんて最高の極みよねえ、もっと叫んでいいのよ聞かせてぇ!
パメラ: 声もお肌も張りがあるとかご褒美じゃない……このお尻なんかもう芸術よ……
男3: 待って俺汚される!! ほんと待って! マジで待って!!
おいお前らもなんで黙って見てんだよ! 加勢しろ!!
男1: やだよ巻き込まれたくねえもん! 俺は女が好きなんだよ!
男4: 俺たちだってそうだよ!
男2: だって加勢しろって言ったじゃねえか!
男3: なんでゲイ野郎に加勢するの前提なんだよ! 俺らを助けろっつってんだろ!!
サクラ: (小声)この声……パメラさんと、アイリーンさん…?
(裏口からレイチェルとエマが侵入)
エマ: サクラ!
サクラ: エマ!?
エマ: 見つけた……! よかった、サクラ!
レイチェル: サクラ、無事ね? 何か変なことされてない?
サクラ: レイチェルさん……ありがとうございます、大丈夫です。
レイチェル: よかったわ。ジェイクも無事よ。
サクラ: ああ、……よかった! 二人とも、ありがとう……!
エマ: 悠長にしてる時間は無いよ。今自由にするから!
サクラ: うん!
エマ: オッケー、縄ほどけた。ほら、もう腕動くよね?
サクラ: うん、大丈夫!
男4: あっ! お前ら、どこから!!
エマ: やば、気づかれた!
レイチェル: 時間稼ぎが不十分よ、貴方達。
パメラ: あら、もっとガツガツ攻めればよかったかしら。
男1: このゲイ野郎どもはお前の仲間で囮か、白雪姫。
サクラ: 差別的な呼び方はやめてください。わたしの大事な友人です。
男2: こうなっちまったらしょうがねえな。せっかく平和的に済ませてやろうと思ったのに。
エマ: 人気のない倉庫に四人がかりで女連れ込んで、これのどこが平和的よ。頭沸いてんじゃないの?
レイチェル: エマ、よしなさい。煽ってどうするの。
……けれど、私も同感よ。こんな野蛮な振る舞いでは、プリンスになれる日は遠いわね。
サクラ: レイチェルさんも煽ってます……それは煽ってます……!
男3: お前らに言われる筋合いはねえんだよゲイ野郎。
男4: キレたわ。お前ら全員、その顔、誰だかわからなくしてやるよ。
アイリーン: サクラ、エマ、下がってなさい。
男2: カッコつけてんじゃねえ! オラ!!
エマ: きゃあっ!!
アイリーン: 退きな、屑野郎!!
男2: ぐっ、……てめえ!!
エマ: すごい身軽……!
アイリーン: ありがと。見かけによらず、ってね!
パメラ: あはは、負けてらんないわね!
男3: なんだこいつら! なんでゲイ風情がこんな強えんだ!
パメラ: チンピラは喧嘩も頭も弱いのねえ。語彙力が足りないわよ。
ドラァグ・クイーンって呼びな!
男1: 舐めんなよ、4対3だろ! なんだかんだ数がものを言うんだよ!!
パメラ: その数の論理でジェイクもフクロにしたってわけね。ほんと卑怯な野郎だわ。
サクラ: !
エマ: ……サクラ?
サクラ: エマ。何か棒のようなもの、近くにある? できれば細めで軽めだと嬉しいんだけど。
エマ: 棒? 一応あったけど、……あんた何する気?
サクラ: 参ります。
エマ: サクラ!?
サクラ: ハッ!
男1: ぐえっ!
レイチェル: サクラ!?
サクラ: 申し遅れました。北辰一刀流・玄武館所属、アオヤマ サクラ三段です。
レイチェル: まさか、剣道の有段者……!
男2: け、KENDO!?
エマ: マジで!?
サクラ: これで4対4です。わたしの大事な友人たちを傷つけた報い、受けていただきます。いざ!
アイリーン: ヒュウ! 白雪姫が蓋を開けたら女騎士だったなんて、洒落てるじゃない!
サクラ: 試合以外で披露するのは初めてなんです。
防具が無いから、下手をすれば大怪我させてしまいますね、気を付けなきゃ。
パメラ: 他意は無いと思うんだけどね、サクラ。今のも相当な煽り文句よ。
男4: くそ……! 調子乗ってんじゃねえぞ!!
(男4、エマを捕まえて人質にする)
エマ: きゃああっ!!
サクラ: エマ!!
男2: おい、手荒に扱うんじゃねえぞ! 俺の推しなんだからな!
男1: そういう状況じゃねえだろ!!
エマ: やだ、放してよ!!
男4: うるせえ、これ以上好き勝手させてたまるかよ。こいつは人質だ。
アイリーン: 人質か、やってくれるじゃない。
パメラ: 卑怯者の考えそうなことね。
レイチェル: その子を放していただけないかしら。
エマ: レイチェル!
男4: ハッ、てめえもゲイ野郎だったのかよ。ハロウィンには早いぜ? さっさと墓場へ帰れや。
レイチェル: ボウヤ……お勉強の時間よ。
男4: 近づくんじゃねえ!!
レイチェル: 女装していたり女言葉で喋っていたからって、必ずしも同性愛者とは限らないの。それと、
男4: 近づくなっつってんだろ!!
レイチェル: 男の力は、誰かを守るために振るわれるべきものだ。私の姫に、汚い手で触られては、困る。
アイリーン: やっぱりいい男が言うと映えるわね、その手の台詞って!
男4: ほざけ、化け物!
パメラ: 弱い奴ほどよく吠えんのよね。情けない。
男4: 黙れ!!
男3: 加勢すんぜ!
男2: よそ見してんなよ!!
男1: くらえ!!
サクラ: 邪魔です、下がりなさい。はぁっ!!
男1: ぐあっ!
男2: 痛ってぇ!!
男3: 嘘だろ、三人がかりだぞ!?
アイリーン: ヘイ、サクラ! ナイスアシスト!
パメラ: もう一発食らっときな!
アイリーン: おねんねの時間よ!!
男4: お前ら何やってんだよ!!
レイチェル: エマ、今よ、伏せなさい!
エマ: OK!
男4: 何っ!?
レイチェル: オラァ!!
男4: ごぶっ!!
サクラ: 吹っ飛んだ……!!
アイリーン: ヒュウ! さすがチーム随一のハードパンチャー!
エマ: レイチェル、もう最高にクール!!
レイチェル: あまり美しくない雄叫びを上げてしまったわ。反省点ね。
男2: な、何だよ……なんなんだよお前ら……!!
アイリーン: あらぁ、聞いたことない? 街を守る何でも屋の噂。
男3: 街を守る……何でも屋……
男1: もしかして、「エージェントR.I.P.」のことか……?
パメラ: その名前が出てくるなんて、さすが小悪党。ねえ、レイチェル、アイリーン?
レイチェル: そうね、パメラ。
男4: れ、レイチェル……アイリーン……パメラ…………R、I、P……!!
パメラ: 安心なさい、アタシたちは殺しはやんないわよ。
あんたたちみたいな害悪に、正義の鉄槌を下す、ロサンゼルスのクリーチャーズなんだから。
アイリーン: そろそろ到着する頃よ。あんたたちが本当にお世話になる人がね。
(ジェイク、警官隊を引き連れて到着)
ジェイク: お待たせ! 連れて来たぜ、スクールポリス!
エマ: 遅い! デートだったら怒って帰ってるところよ。
ジェイク: 仕方ねえだろ、プロムの巡回で出払ってたのを探し回ってたんだよ!
パメラ: プロム巡回のこと考えたら、このタイムはむしろめちゃくちゃ早いわよ。
正当な方法で、ちゃんとやってくれたわね、ジェイク。
サクラ: スクールポリス……?
レイチェル: LAのハイスクールには警官が駐在してるのよ。こういうトラブルを解決してくれるためにね。
(警官に)さあ、悪い子達を連れて行ってくださいな。よろしく。
アイリーン: やっとひと段落ね。とりあえず全員無事でよかったわ。
サクラ: みなさん、助けてくださって本当にありがとうございました。
パメラ: なーに、この程度お安い御用よ。
まあ本当ならアタシたち部外者だし? 女が着飾ったら一部の男の視線がどう変わるか、言い寄られたり迫られたらどう対処するか、パートナーの男は女をどう守るか、本来ならそれもお勉強なんだけどね。
アイリーン: 今回は少し場合が違ったものね。
アタシたちの正体を知らなかったとはいえ「プロムを手伝ってほしい」というご依頼を頂いていたわけだし。
サクラ: それ、詳しく聞いてもいいですか? さっきの人たちも「エージェントR.I.P.」って口にしてましたけど……
ジェイク: 噂だけは俺も聞いたことがあったんだ。街を守る何でも屋がいるって。でも名前までは知らなかった。
レイチェル: そうね。その名前は私たちが名乗り始めたわけではなくて、成敗した悪党が呼び始めたものだから。
エマ: え、悪党が名付け親なの?
パメラ: そうよ。なんなら何でも屋って名乗った覚えも無いわ。
アイリーン: 特注のお菓子のご依頼から始まって、今回のあんたたちみたいにスタイリングのご要望とか、ケータイ見てあげたりテレビ直してあげたこともあったわね。なんだかんだ言ってもオトコだから、アタシたち。
パメラ: ある日、チンピラに絡まれた女の子がお店に逃げ込んできたのよ。
で、チンピラも彼女を追ってお店に入ってきて、お客様に迷惑かけまくってインテリアもぶっ壊しやがったから。
レイチェル: パメラ、お口が悪いわよ。
パメラ: あら、失礼。
レイチェル: まあその子たちを追い払ったところから、私たちの名前をもじって「エージェントR.I.P.」には気を付けろ、って悪党の間で広がったみたいね。
ジェイク: そのネーミングセンスにも、チンピラどもの恐れ具合を感じるよな。よりにもよって「R.I.P.」とかさ。
エマ: 「安らかに眠れ」……確かに名前だけ見ると、なんかサクッと殺されそうよね。
サクラ: だからあの時パメラさんは、「その名前が出てくるなんて、さすが小悪党」って仰ったんですね。
その呼び名が浸透しているのは悪人の間だけだから。
パメラ: そういうこと。
レイチェル: サクラ。
サクラ: はい、レイチェルさん。
レイチェル: 今回の件、私たちに声をかけたこと、後悔してない?
サクラ: とんでもないです! 美味しいスイーツに素敵なスタイリングとエスコート、そのうえトラブルまで助けてもらってしまって、むしろご迷惑かけ通しだったなって、申し訳ないくらいです。
アイリーン: そこは素直に感謝してもらえたほうが嬉しいわ、サクラ。
サクラ: はい! もう、感謝してもしきれないくらいです!
……あの時お店に行って本当に良かった。この出会いは、わたしの宝物です。
パメラ: あんた、本当に素直というかなんというか、照れくさいことさらっと言うのね。
ジェイク: そこがサクラの魅力だろ。
パメラ: 言うようになったじゃないの、ボウヤ。
アイリーン: さて、そろそろプロムもラストダンスのお時間なんじゃない?
行ってらっしゃいな、可愛い子たち。
サクラ: はい、行ってきます!
ジェイク: あらためて、……ありがとう、感謝してる。
エマ: あたしもすっごく感謝してる! 本当にありがとう!!
レイチェル: ふふ。じゃあ、行きましょうか。
(4人、ダンス会場へ)
サクラ: 今日は、いろんなことがあったね。
ジェイク: ああ。濃い一日だったな。
サクラ: 良いことばかりじゃなかったけど、すごく素敵な一日だった。
わたし、今日のこと一生忘れない。
ジェイク: ……サクラ。俺がパートナーで本当に良かったのか?
サクラ: ジェイクとじゃなきゃこんなに楽しくなかったと思う。すごく、感謝してる。
ジェイク: サクラが攫われたって聞いたとき、血の気が引いた。それから、自分を不甲斐なく思った。
少しの間でもお前を独りにしたこと、レイチェル達と一緒に助けに行けなかったこと、すごく悔しかった。
……お前のことが、大切だから。
サクラ: わたしも、ジェイクが怪我したって聞いたとき、許せないって思った。
……わたしの大切な人を傷つけたんだもの。
ジェイク: サクラ……
サクラ: エマも一瞬人質に取られたし、レイチェルさんたちも危険な目に遭わせた。
それで、自分を抑えられなくなって、防具もつけてない人に剣道で立ち向かっちゃった。
いくら相手が危険な人でも、丸腰の相手に剣を振るうべきじゃなかったのに……反省しなきゃ。
ジェイク: 相手がどんな奴であれそうやって気遣えるのは、サクラの魅力だと思うよ。
……そうじゃなくてな。えーと、サクラ。俺のこと、大切に思ってくれてる?
サクラ: もちろん。大切な人よ。
ジェイク: エマのことは?
サクラ: 大切よ。
ジェイク: ……レイチェル達は?
サクラ: 大切。
ジェイク: ………………あ――――うん。納得。だよな。大切だよな。うん、わかった。
サクラ: ジェイク? どうしたの?
ジェイク: なんでもない。……俺も、エマとレイチェル達、みんな大切だ。
サクラ: ふふ、一緒だね!
ジェイク: ……おう。
サクラ: ね、踊ろう!
ジェイク: ああ。
エマ: ねえ、レイチェル。
レイチェル: なあに、エマ。
エマ: まどろっこしいの嫌いだからストレートに言っちゃうね。あたし、レイチェルのこと好きになった。
レイチェル: エマ。
エマ: ほんとはすぐにでも彼女になりたいけど、そういうふうに言ったらたぶん、レイチェルが困ると思って。
でも、好きなんだ。……迷惑、かな。
レイチェル: 迷惑なものですか。こんなに可愛らしい女の子に好かれて、迷惑がる男なんていやしないわ。
エマ: じゃあ、
レイチェル: エマ、貴女はとても魅力的よ。この先いろんな人と出会っていろんなことを経験していくうちに、もっともっと素敵な女性になる。
貴女が大学に進学して、卒業して、就職して、その頃になっても今の気持ちが変わらなければ、もう一度聞かせて。
その時は、私も本気で覚悟を決めるから。
エマ: 今のあたしはまだ、経験値不足ってことね。
レイチェル: 有り体に言えばそうなるわね。
エマ: わかった。頑張る。頑張ってイイ女になって、どうしようもないくらい惚れさせてやるんだから。
レイチェル: うふふ、楽しみ。積極的な女の子は大好きよ。
エマ: さしあたっては、あたし「Cafe 『Lemon』」の常連になる。もちろんサクラもジェイクも連れてく。
で、レイチェル達の持つ女子力、あたしのものにしてみせる!
レイチェル: ふふ、ご来店、いつでもお待ちしてるわ。
アイリーン: ねえパメラ。ちょっと賭けをしましょうよ。
今夜、ジェイクはサクラを射止められるかしら?
パメラ: 無理だと思う。
アイリーン: うふふ、どうして?
パメラ: サクラが鈍い子だから。ジェイクが少し積極的になったとしても、生半可なやり方じゃ気持ちは伝わらない。
今夜のジェイクに「I Love You」がはっきり言えるかしら。
アイリーン: そうね。同感だわ。
じゃあ次。エマはレイチェルに惚れたと思う?
パメラ: 思う。
アイリーン: 即答ね。
パメラ: エマは単純で直球な子よ。そもそもルックスからツボだったみたいなのに、そこに窮地を救われたとくればむしろ惚れないほうが不思議だわ。今頃告白でもしてるんじゃない?
アイリーン: そうね。同感だわ。
じゃあそのレイチェルは告白を受けると思う?
パメラ: 無いわね。もっと大人になってからねって躱してると思う。
アイリーン: そうね。同感だわ。
じゃあ最後。あの子たち、後夜祭に参加すると思う?
パメラ: いいえ。みんなまとめてお店に戻ってくると思うわ。
アイリーン: そうね。同感だわ。
……んもう、これじゃ賭けにならないじゃない。
パメラ: アタシが悪いんじゃないわよ。あの子たちが純粋で読みやすすぎるの。
アイリーン: そうね。もう、ぜーんぶ同感。……みんな可愛いんだから。
パメラ: アイリーン。その可愛い子たちのために、お店で特製スイーツ作って待っててあげようと思うんだけど。どう?
アイリーン: 最高ね。いいわよ、乗った。
了
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