脱走
第一章ー脱走ー
ー2078年8月15日ー実験サンプル1227脱走ー
施設内の警報は鳴り響き、脱走した者捉えるために配備された無数のアンドロイドが施設内を走り回りとある1人の少年を探し回っていた
(俺は逃げて逃げて逃げて逃げおおせて、絶対に自由になってやる)
少年は自分が普通とは異なる事を理解していた、しかし何故に自分が追われなければならないのか捕えられて、ヒトでは無く実験動物として扱われなければならないのかを理解出来るはずなかった、なぜなら彼自身数年前までただの一般人であり普通に暮らしていたただの少年だったのだから、だからこそ捕らえられることよりも"自由"を求めた
一方、そのころ施設内の監視室のモニター前では研究員たちが集められ彼の行動を観察していた
「モルモットの分際で脱走なんぞ図りおって!!貴様を捕えるのにいくらかかったと思っている!!」
「あら、あの子の身体能力なかなかに高いわね、これも彼の能力に関係あるのかしら」
「はぁ、今回の損失はかなり大きいな、上になんて言われるか」
白衣の研究員たちが不穏な空気を出す中、黒いスーツの男が疑問げに口を開いた
「この施設に扉なんてものは存在しない、やつが走っている通路の先は行き止まりだ、これは捕らえたも同然なのでは??」
研究員の1人が嘲笑うかのように答えた
「行き止まり??サンプル名1227がそれで確実に捕えられるという確証はない、あの最新型のアンドロイド達だって形として出しているに過ぎない」
それでも黒スーツの男の疑問は深まるばかり問答が続く
「なぜ??」
「あのクソガキはそういう能力を持ってる可能性があるからじゃ」
「能力??能力とはなんですか」
「さぁな?分からないからこそ解明するための施設とワシらじゃ、まぁ分かっていることで確実に言えるのは能力には先天性と後天性があり更に今現在確認されている能力の系統は出力型と再現型と変化型じゃ」
スーツの男は疑問が晴れきらないまま再びモニターを眺目始めた
その頃当の本人はこの追われるという状況を少し楽しんでいた
『何週間ぶりだろうか自分の足で走るというこの感覚!!すばらしい!!捕まるのは死ぬほど嫌いだけど逃げ回るこの緊張感がたまらねえな!』
少年は楽しく駆け回っていると目の前が行き止まりになっていることに気づいた、すると少年は壁のおおよそ5mくらい前だスピードを落としゆっくりと歩き始めた。この光景をモニターで見ていた黒スーツの男は目を疑った、なんと少年が行き止まりの壁を通り抜けた
「こ、これは、どういうことでしょうか!」
驚きを隠せぬまま研究員に尋ねた
「ほほぉ!やはり能力持ちじゃったか!!」
研究員たちはそんなことよりも実験体の少年に逃げられた瞬間の映像が取れたことそのものの方が重要だった。
「確かに逃げられはしたが、これはいいものが見られたな」
「こちらが先程逃げた対象のデータの一部です」
(実験サンプル名1227 個体名 天元京介 体重58kg 身長170cm 血液型はO型 出身 日本 年齢16歳 )
「弱冠16歳にして、あそこまで能力と適応し使いこなすとはなかなかに惜しいサンプルじゃな」
「あれは1227が使った能力はあれは恐く同化、変化型の後天性能力です。」
「同化とはまた珍しいもんを発現させたのぉ何があったのか過去が気になるわい」
「しかし、逃げられたことをどう上に報告しようか」
研究員たちはみな黙り込み俯いた
1人の子供のように小さい白衣の女の子のような顔をした少年(?)が呟いた
「まぁ、安心しなよ、僕の能力で彼を見張っといてあげるから、上には監視継続中って伝えればいいよ」
「なんでこんな所に子供が、、いてっ!!」
「子供扱いするんじゃない!!これでも僕はここの研究員でここで一番偉い所長なんだぞ!」
少年(?)は黒スーツの脛に蹴りを入れた
「イテテ、、、監視するって言ってもどうやって監視するんですか!」
男は半泣きで言った
「質問の多いやつだな君は!僕も能力者なのだ」
「?!のうりょく、しゃ??」
「いかにも!」
「なぜ収容されていないしサンプルにもなっていないのですか!!」
周りの研究員に聞くように言い放つ
「だ!か!ら!!僕の実験施設だって言ってんだろ!!」
さっきよりも強く脛蹴りをかました
「ぬああああああっ!!」
男は不意な激痛に倒れた
「疑問の多いクソスーツ!いいかよく聞け!その疑問を抱くという研究員にとって欠かさない素晴らしい考え方に免じて教えてやろう!僕の能力は監視であり、後天性の出力型能力だ」
「そ、それはどういった能力なんですか」
半分睨みながら半分泣きながら唇を噛み締めるように黒スーツは質問する
「僕の能力は僕が対象を触れたと1度以上認識し、その対象の写真等の鮮明な画像データを目視した後対象が居るであろう場所が記されている図面に対して僕が触れることで対象を点で示すことが出来る能力だ」
『つまり、GPSみたいなものですか??』
「僕の能力は衛星なんて必要ないけどな、、ん??」
所長の目の前にサンプル1227天元京介が現れた
「おやおや、誰かと思えば脱走を試みた実験体君じゃないか」
黒スーツが何も無い場所から現れた少年に驚き混乱しながら声を出した
「な、なにが、どうなっているのかわからない!!」
「自分からわざわざ戻ってきてくれるなんてバカなのかい??君は??こっちとしては好都合だが」
『いやさ?道に迷っちゃってさ行く宛てもないし声が聞こえたから来てみたわけよ』
両者睨み合いが続く
「まぁ、と言っても君の能力は拘束出来そうにないから手足をバラすことはほぼ確定だがね」
『おお怖い怖い!この国はとうとうこんな子供が残酷な言葉を使う国になっちまったのかあ』
「バカにしてるのか?やはりバラそうお前は」
『そうカリカリすんなって、俺は話がしたくてここに来た部分もあるんだ』
「ほぉ?遺言はそれでいいのか?慈悲深いし興味を多少そそられるので話は聞いてやろう」
『俺の能力についてだ、あんたが能力者だという話を聞いてここに来た』
「で、何が聞きたいんだサンプル1227」
『サンプル1227って俺の事かい?まあいいけど、俺の能力の発現理由ってわかりますかね?』
「ほぉ、それは興味深いし我々が突き止めようとしてはいる一つだ、しかしまだ完全には分からない」
『俺の能力は同化か』
「ああ、後天性の能力であり変化型だと分析した」
『そこでなんだが、俺もこの能力についてはよく知っておきたいんだ確か15くらいまではこんな能力はなかった』
「ほぉ?つまり実験には付き合うから結果を教えろと?」
『さすが所長さん頭の回転が早い!あとは俺の身の安全の保証と自由をよこせ』
「自由とは??」
『え??外出かけたりしたいじゃん!!もう縛られるのうんざりなんだよ!!あと痛いのも嫌だし!"監視"されるのも嫌だ!』
「甘えたことを抜かすな!その間に今回のように逃げ出さないとどうして言いきれる!」
『俺も自分のことを知りたいから、それまで逃げださない』
「ほお..なるほどな、だが、信用しきれんな」
『それと、俺さこの能力の発現条件、多分だけど少しわかるんだよね』
「ほぉ、話してみろ」
『ここの施設にいるヤツらの素性は知っているか??』
「我々が研究対象のプロフィールを持たないわけなかろうどんな能力を持ってるかわかっているやつは何人かいる、過去と血統が関係しているのかやはり」
『ほんとに鋭いな、ちびだけど所長名乗るだけはあるな、でだな、過去にあったトラウマが能力に関係してるんじゃないかって俺は能力を使ってて感じた、そう感じたことはないか?』
「過去のトラウマが後天性能力の発現原因だと?」
『そー、俺の場合は狭いとこにいることが怖いんだ、小学生の時にかくれんぼしててロッカーに隠れてたら地震が来て倒れて出られなくなったことがあってさ』
「ほぉ、閉所恐怖症かたしかにそういう意味では、僕は視線恐怖症だな」
『つまりだ、俺らの能力は自分の心の中の恐怖心や恐怖を抱いてる対象そのものを心で具現化して現実世界に影響を与えているんじゃないかって言いたいわけ』
「ふ、ふははは!!!お前面白いな!!でも、そうすると素朴実在論そのものがありえなくなり、この世そのものがオカルトめいたものになってしまうな!まぁ我々の能力そのものがオカルトなんだがな」
『そ、だからつまりなこの施設で何人が犠牲になったのかは知らないけど、ばらばらにする必要もな.....い...』
言いかけた言葉は幼い声に遮られた
「なぁ、貴様らは所詮サンプルなんだよ」
『なんで....どうして......』
俺の手が研究員のひとりに掴まれて腕には謎の注射針が刺さっていた
「やはり、所詮は同化能力か、気づいていないようだから教えてやろう」
そう言うと天使のような面を被った悪魔が言った
「..サンプル1227よ、貴様の同化能力は確かに強力であり普通は貴様の体を拘束することは不可能であろう、しかしな、貴様の能力には致命的な弱点がある」
『.....弱点...??』
意識が朦朧とする中おれはその言葉に耳を傾けた
「それはな、貴様の能力の性質上人間には同化できないという点だ、貴様は他の物質に体を変化し合わせることが出来たとしても元の体は人間だからそれ以上変えることはできないのであろう」
(俺は、また自由を奪われるのか...)
そう思ったのを最後に俺の意識はゆっくりと沈んでいった