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The empress

問題です。ここはどこでしょう。


「ふむ・・。揺れないでください。手元がぶれます。」


正解は、王女様のお尻の下でしたー。

四つ這いになったロマノの背に、黒いドレスの美しい少女が足を組んで座っていた。

少女は薄暗い部屋の中に紅の瞳を輝かせる。手入れの行き届いた美しい金の髪は、その上に乗せた黄金のティアラに劣らない輝きを放っている。

王女が指を椅子の背中に滑らせると、その椅子は悶えながらも手と膝を床につけた姿勢を維持する。

健気な椅子に、王女は嗜虐的な笑みをうかべた。


「いい子ですよ。私は献身への対価を惜しみません。あなたが椅子として責務に励めば、思うままの褒美を取らせましょう。」


ロマノは勇者(自称)である自分を椅子にして本を読む、暴虐なる王女に激怒した。必ずやなんたらと誓った。

しかしだ。ロマノは顎の下をくすぐってくる王女を無視して視線を王女の部屋の壁に向ける。そこにはここ王都の街並みを描いた美しい風景画があり、その隣には黄金の剣が飾られている。

傷一つないその刃はゾッとするほど鋭利で、持ち手には様々な種類の宝石が埋め込まれている。

王女は思うままの褒美と言った。つまりあのいかにも伝説という風な剣も、王女に尽くすことで褒美として貰えるわけだ。

やはり俺はツイている。

街で歩いていたところを、通りがかりの馬車から伸びてきた手で捕らえられた時はこの身の不幸を嘆いたが、全ては回り回って我がためとなるのだ。


「ふはは。」


唯我独尊で物事を自分の都合の良いように捉える素晴らしい頭を持つ自称勇者は椅子になりながら笑い、王女もまた笑顔でそんなロマノを馬鹿な飼い犬を可愛がるように撫でた。

ペット、奴隷、乗り物、枕。王女の頭には様々な言葉が駆け巡ったが、物欲しそうに剣を見つめるロマノをみて、名案を考えつく。


「ふふ・・あなたは素晴らしいご主人様を持ちましたよ・・。」


王女は呟く。静かな部屋に2人の笑いが不気味に響いていた。









「お父様、先の男、かの者を我が騎士としていただきたく。」


私はこの国の王であるお父様のもとへ、昨日拾った少年を私の近衛騎士として推薦していた。通例では王女の近衛には貴族の娘から腕が立ち、信頼できる者が選ばれる。しかし望む者がいればこのように王女自らが選ぶこともできる。市井で一目見て私はあの少年を気に入った。私と同じくすみのない金の髪、平民とは思えない整った顔立ち。そしてこれは拐ってから気付いたが、なにより王女である私を歯牙にもかけないように自由で反抗的な青の瞳は素晴らしい。あの目で見られると背筋に電流のような快感が走る。

彼は私の部屋にあるあの剣を物欲しそうに眺めていた。アレを授与し騎士にすると言えば従うだろう。そして私の騎士として側につける。花も宝石も飽きるほど望まずとも手に入ったが、私は今日、望むモノをこの手で掴むのだ。


「ほう。王家の剣に相応しき者であるというのか?」


「いえ。今はまだ私と同じように歳若く実力はありません。しかし、だからこそ我が騎士として今から共に歩めば、高い忠誠と力を持った優れた騎士となるでしょう。」


お父様は玉座で頬杖をつき悩むような姿勢を見せているが、いつも何も欲しない私がお父様を頼っていることがよほど嬉しいのだろう。娘だからなのか、お父様の隠された深い喜びが感じられる。

こうして私は、私だけの騎士を手に入れた。














「ロマノ。貴方は我が騎士として、その生涯を捧げることを誓いますか。」


跪く俺の肩に剣が置かれる。剣を持つ王女殿下、改めヴィクトリア殿下には、問われたことにはいと言えばいいと言われている。どうやら俺は騎士になるらしい。騎士か・・悪くない。騎士になったら勇者になれないわけでもないし。これからは勇者騎士を目指そう。

そうと決まれば、この騎士号授与にも本気で挑もう。

ここは王城内の儀礼用の場所で、俺とヴィクトリア殿下が儀式をしている俺の後ろには貴族が並び、殿下の後ろに王族が並んでいる。

やるからにはこいつら全員を楽しませるようなパフォーマンスがしたい。


「我が剣と魂、愛と忠誠、永遠に貴方へと。」


劇団員のように声を張る。どうだ、カッコいいだろう。しかもまだある。

俺はアドリブに驚くヴィクトリア殿下の剣を握っていない左手を取り、その甲に口づけした。ちゃーんちゃーんちゃちゃーん!脳内で音楽をかける。

会場も盛り上がってきたぜ!DJVちゃんぶちかませYO!


「騎士ロマノよ。これより貴方を我が剣、我が鎧となり、いかなる邪悪も打ち倒す、近衛騎士に任命します。」


イエーー!マジでバイブスブチ上がりだぜ!!

ヴィクトリアはロマノが自分の言葉で忠誠を誓ったことに目頭を熱くし、見守っていた者たちは王女が連れてきた平民を騎士にすると聞いた時にはどうなることかと持っていた不安を拭い、若き騎士の誕生に惜しみない拍手を送り、ロマノはバイブスをブチ上げた。


ロマノが拐われてから2日、騎士となった翌日の朝。彼は剣と魂と愛と忠誠を捧げた王女のベッドに寝転がり、同じように頬杖をつきながら隣に寝そべる王女に葡萄を食べさせてもらっていた。


「愛しいですね、我が騎士は。はい、あーん。」


ロマノは騎士とは王女に甘えさせてもらえて美味い果物も食える素晴らしい職だったのか!と喜びながらヴィクトリアの手から葡萄を食べた。


「はい次ですよ。あーん。」


「あーん。」


「殿下。」


ヴィクトリアがロマノへの餌付けを楽しんでいると、扉の外から女中が声をかけてきた。食事の時間らしい。


「ロマノ、そろそろ朝食です。今日はお父様も一緒にとられるようですので、私も出席します。」


「そうすか。わいはお留守番得意やで。」


「?。貴方も共に来るのです。」


変ななまりをつけるロマノにヴィクトリアは首を傾げながら言った。














俺はメイドに正装とやらの着付けをされていた。鏡には眠たげな美少年こと俺と、それにせっせと服を着せるメイドがうつっている。それをしばらくボーッと見ているとようやく終わったらしい。メイドは俺の胸に銀の星形のバッチをつけて、満足げに頷いた。


「どう?」


鏡の中の俺は相変わらずカッコいいが、一応聞いてみる。


「とてもお似合いですよ。」


やっぱりな。

正装したロマノがメイドの案内で廊下を進んでいくと、赤いドレスを着たヴィクトリアが丁度目の前の扉から出てきた。

ヴィクトリアはロマノを見ると微笑み、メイドを下がらせてロマノの一歩前を歩いた。


「似合っていますよ。・・・お返事が聞こえませんことよ?」


「・・ヴィクトリア様も。」


渋々といった様子でロマノが返答するとヴィクトリアはそれで良いのだと頷き、ロマノは不満そうに唸る。彼はペットのように葡萄を食べさせられることになんら抵抗は無いが、服を褒めさせられることは嫌に思うらしい。

そんなやりとりをしているうちに2人は大きな扉に着いた。扉の前に立っていた背の高い騎士がヴィクトリアに敬礼してから扉を開くと、中は王城の庭が覗ける広場のようになっており、その中心にある芸術品のような石のテーブルに王と王妃に3人の王子と2人の王女が座っていた。

ヴィクトリアは優雅に家族に挨拶してから席につき、ロマノは中には入らずに扉を閉めた騎士に並んで立った。


「昨日の騎士の儀、見事であった。」


立たせるだけならなんでついてこさせたんだとロマノが思っていると、隣の騎士が喋りかけてきた。ロマノが確かに見事だったと頷くと、騎士は興奮で顔を赤くしながらまくし立てる。


「平民が騎士に、それもヴィクトリア第一王女殿下の近衛となると聞いた時には騎士の誇りも落ちたものだと思ったが、昨日の貴殿の姿は誇り高き騎士そのものであった。私は生まれで会ってもいない君を侮辱したことを本当に恥ずかしく思ったよ。」


ほう?中々目の付け所のいい男だ。誇り高き騎士そのもの?その通り!大正解!100点あげちゃう!


「謙遜はしないがな。まあ主人は違うが騎士としてお互いに頑張ろうでは無いか。」


ロマノは鼻を天まで伸ばしながらふてぶてしい言葉をはいた。背の高い騎士は中々言うなと笑いながらロマノの肩を叩く。











王家への忠誠と誇りを持ちそれに対するプライドの高い職である騎士と特に意味も無くプライドの高いロマノ。その二つは奇跡的な相性で仲良くなり、ヴィクトリアが食事を終えメイドに開かせた扉の向こうで騎士とロマノは肩を組んで大笑いしていた。

ヴィクトリアとメイドが2人を冷たい目で見るとそれに気付いた騎士は慌てて胸に手をやって敬礼し、ロマノは扉を抜け部屋へ帰ろうとするヴィクトリアに続いた。


「あいつはローランと言ってな。騎士というのは傲慢で好きではなかったが、話してみるとなかなか気のいい奴だった。今度ここの騎士団で俺の歓迎会をしてくれるらしい。だからヴィクトリア様、歓迎会の時間がわかったら休暇をもらうぞ。」


ヴィクトリアは何も言わずに進み、部屋に入っていった。ロマノが続いて入るなりヴィクトリアはロマノの手を掴んでベッドへ投げ飛ばし、起き上がろうとする所を上から組み伏せる。


「ロマノ。貴方は私の騎士です。この部屋に2人の時は構いませんが、一歩でも踏み出したならそこは公の場です。丁寧な言葉を使いなさい。休暇については、許しましょう、他の騎士とも友好を育んで来なさい。しかし。」


ヴィクトリアは額をロマノの額に合わせ、赤い瞳を冷たく光らせながらロマノを見つめた。吐息が互いの唇を震わせる。


「貴方は私の騎士です。それを忘れないよう。」


ロマノは不機嫌そうに鼻を鳴らし、お腹が空きました、ご主人様。と嫌味な声音で言った。

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