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The high priestess

謎の令嬢マーリンを仲間に加えた勇者ロマノ一行は、次なる仲間を探して旅を続けていた。



「聖都は広いんだから迷子にならないようにねー。」


・・・勇者は宿を飛び出した。




「はいどうぞ、熱いので気をつけて下さいね。次の方どうぞー。」


隣の修道服とは違い、俺は黙々と飯をよそう。必要なのは愛想ではなく効率だ。しかし俺がどれだけ速くよそおうと修道服がスープを渡さなければ俺には客が来ない。

真面目にやれノロマ。そんな思いを込めて視線を送ると、修道服は編み込まれた銀の髪を揺らして満面の笑みを返してくる。


「マリアちゃん、隣の子大丈夫かい?アンタのこと睨んでるみたいだけど・・。」


「はい!この子はロマノ君です!神父様が寝込んでしまって困っていた私を助けてくれてるんです!」


助けている?違う、俺はハメられたんだ!人のよさそうな笑顔を見せやがって、俺は騙されないぞ!

家族水入らずでこの聖都とやらにバカンスに来ている俺は、マーリンへのお土産でも探そうと早朝から適当に歩いていた。

そして俺は天才なので、当然歩きながらでも色々と考える。なぜマーリンと猫はシフト制のように交互に現れたのか、あの黒猫はどこにいったのか、なぜマーリンがあんな一瞬に大量の魚を釣れたのか。魔法使いはどこにいるのか。そういった全くもって答えの分からない難問に頭を悩ませる。

そして悩んでいる俺の前に現れたこの女は、聞いてもいないのにベラベラ喋り、思考に夢中な俺は当然それにうんうんと適当に相槌を打つ。そして気づいた時にはもう遅い、ここで並んだ貧乏人共に飯をよそうハメになってしまっていたのだ!きゃー、なんて卑劣!

しかしそこは歩く勇者こと俺、生来の優しさから真面目に働こうとしているのに、この修道服がぺちゃくちゃぺちゃくちゃとお喋りするせいで!


「いつも悪いねぇマリアちゃん。」


「いえいえ!ダンおじさんにも神の御加護を。」


「マリアねーちゃんありがとー!」


「お礼言えて偉いねー、ほら、おでこだして?はい、神の御加護がありますように!」


ほらな!紙だか籠だか知らんが、コイツがこうやって無駄なお喋りをしなければとっくに終わっているのに!俺は口には出さずに叫んだ。

勇者はみんなの前で不満を口にしたりはしない。しかし心の中ならいくらでも口にしてもいいのだ。多分。








炊き出しを終わらせた俺は修道服について聖都を歩いていた。一度手伝うと口にした以上勇者として以下略。


「次は何をするんだ?」


「パトロールです!」


「は?」


「聖都を周り、困っている人を助けたり犯罪を止めたりします。一回りしたら孤児院で子供たちと遊んで授業をして、午後からは怪我をした人たちの治療をします。」


「へー。すごいね。」


長かったので聞き流した。俺が鼻をほじっていると修道服がキラキラした目で見つめてくる。


「ロマノ君こそ、見ず知らずの私をこんなに助けてくれるなんて・・とても良い人です!」


「・・そうか?」


たしかになあ。


「はい!こんなに高潔な人は見たことないです!いよっ!天下の大聖人!」


「・・・そうかそうか。いやー、困るよ、それほどでもないのになあ!フハハハハハハ!!!しかしマリアよ、覚悟をしておけよ。大天下の大大聖人たる俺が手伝うからには、お前のような美しい乙女は働かく隙もないであろう!さあゆくぞ!!ついてこい!!!」


「はい!マリア、ロマノ君についていきます!」








ハッ!お、俺はなにを・・。気付けば俺は孤児院の椅子に座って、マリアに足を揉まれていた。


「ロマノ君、今日は凄い活躍でしたね・・西に迷子がいればお母さんを探して、東に強盗がいれば衛兵さんを呼んで、それにまさか不治の病に侵されていたジョンお爺さんを・・。」


マリアが悲しげに目を伏せる。

ジョンお爺さんをどうしたんだ!気になるじゃないか!しかし聞こうとするとマリアが俺のふとももを揉み、痛みとも快感ともとれる感覚に口を閉じてしまう。


「ロマノ君にも神の御加護を・・・ふふ、こんなにも良い人には、願う必要も無いかもしれませんけどね。」


マリアは髪と同じ銀色の瞳を俺に向けて、ふにゃりと笑った。・・・俺の太ももをモミモミしながら。

変態、離せという意思を込めてモミモミする手の上から手を重ねると、マリアは驚いたように目を見開き、すぐに微笑みを浮かべて立ち上がる。


「はい、そうですね・・。いきましょう。」


は?

突然意味不明なことを言い始めたマリアに手を引かれ、孤児院の外に連れ出された。

石畳の道がが夕日に照らされ、哀愁を放っている。こんな時間からパトロールとか言い出したのかこの変態修道服は。

呆れる俺に構わずマリアは聖都の道をズンズンと迷いなく進んでいく。

しばらく進むと、何かを囲うように人集りができていた。みんな必死になって何か言っている。それを押しのけその中心へと向かうマリア。俺もそれに続く。

なんの集まりなんだこれは。露店のバーゲンセールか?ならばこの人集りも納得だ。かく言う俺も朝にここらで目にした聖都饅頭とやらが気になっていたのだ。

しかしその中心にあったのは饅頭ではなく、腹から血を流して倒れる男だった。


「ッ!しっかりして!」


マリアは血を見ると弾かれたように飛び出し、男の服を破いた。

赤黒くなっていて見にくいが、どうやら何か刃物で刺されたようだ。男の腹に切れ長の深い傷がある。

薬草やら包帯やらを取り出すマリアを見ながら、俺は隣に立っていた男に何があったのか尋ねた。


「なにがあったっつってもなぁ。コイツが腹から血を出しながら向こうからやってきてよ、ここで倒れちまったんだ。医者は呼んだし、俺たちに出来ることもねえからな。囲んで声をかけてれば、この野郎もうるさくていっちまえねえだろ?」


「そうか。ならば安心しろ。あそこにいる銀髪修道服はマリアと言ってな。死んでさえなければどんな傷でも治せると言う凄腕の修道女だ。」


多分。


「おおそうか。そういやどっかで見たことあると思ったら、いつも人助けしてるお人好しの嬢ちゃんじゃねえか。しかしありゃあ、大丈夫か?おいアンタ!せっかく医者が来てくれたんだ、くたばっちまうなよ!」


男が叫ぶ先では、マリアが巻いた包帯の上に男の血がどんどんと広がっていた。


「どうしよう、血が・・!傷が深すぎる・・!」


マリアは別の薬草を挟みさらに包帯を巻くが、出血は止まらない。時間が過ぎるごとに男の顔は青白くなり、マリアは焦燥を顔に浮かべる。


「おい、たしかに手際はいいが、今回は相手が悪いんじゃねえのか?」


気の毒そうに呟く隣の男を俺は鼻で笑う。

俺は焦らない。なぜなら俺は知っている。女神は勇者に必ず微笑む。そして勇者とは魂に正義を宿し、最後まで決して諦めないもののことである。

つまりマリアが諦めなければ、あの男は必ず助かるのだ。


「マリア。」


振り向いたマリアは、涙を流していた。俺のバカンスタイムを盗んだ憎い女だが、その誰かを思いやる心の美しさは認めてやらんこともない。


「ロマノ君・・ッ!」


「信じろ。」


そう言って悲しみに濡れた銀の瞳に笑いかけると、マリアの瞳に光が宿り、ゆっくりとした動作で倒れた男に巻いた包帯に手を置いた。

突然、その手の下が光始める。そのあまりの眩さに皆目を閉じ、あるものは跪き祈り始めた。

溢れた光は輝きを増し、聖都を包み、より膨らみ、全ての地を数秒の間昼間よりも明るくする。

そして間近で突然光を浴びた俺はびっくりして気絶した。














「ロマノ、お前の友達がきてるぞ。」


親父の声を無視して俺は布団にくるまり、寝たふりをした。俺に会いに来るようなやつなんかいない。マーリンならいつも気付いたら部屋にいるし、おおかた俺が聖都で買ったこの聖木刀を狙う悪人だろう。そんなことはお見通しなのだ。俺の優れた知性に拍手してもいいぞ。どうも。どうも。はい、拍手やめて!

しかしどんな奴が聖木刀を狙っているのかは気になる。

窓の端から外を覗くと、庭には白い全身鎧の軍団が所狭しと整列していた。

まさかここまでとは・・。敵の戦力に武者震いしながら再び布団に潜り込む。しかし勇者はどんな強大な敵にも屈しないのだ・・・ここは屈したフリをして、後で仕返しすればルール違反ではないか?

奴らを倒す算段を立てる俺の隣に、いつのまにか柔らかな感触がある。


「いいところに来た。いいかマーリン、俺に策がある。お前は–––––誰だ。」


寝返りを打って見下ろすとそこにあったのは黒ではなく、編み込まれた銀の髪だった。


「ロマノ君、もう忘れてしまったのですか?」


たしかにこの銀髪と柔らかい声、何処かで・・。


「あなたのマリアですよ。」


ああマリアか。あんな大爆発の中心にいて無事だったのか。あの後俺が意識を取り戻した時には俺は宿に運ばれていて、しかももう聖都を出る日になっていた。急いでお土産を買っている時町中が聖女だなんだと騒がしかったが、あの大爆発でみんな頭がいかれたんだなと無視してサッサと帰った。

しかし思い出せばコイツが突然爆弾なんぞ使わなければ俺はあそこで適当にカッコつけていい気分で観光を続けられたのに。なにがしたかったんだコイツは。


「あの時諦めかけた私を、ロマノ君は信じてくれました・・・。みんなは私のことを讃えてくれるけど、神様は私じゃなくあなたの清らかな心をみてくれたんです。」


まつげを震わせながら俺を見つめるマリア。何を言っているのか意味が分からん。コイツも爆弾で頭をやられたんだろう。

俺が可哀想なヤツを見る目で見つめ返すと、微笑みながら体を押し付けてくる。

その熱に浮かれたように揺れる銀の瞳が、俺の右肩で止まった。


「ここ、怪我してます。」


「ああ、昨日遊んでる時に木で切ってな。まあ名誉の負傷というやつよ。フハハハハハハハ!」


笑う俺を愛おしいそうに見た後、マリアは俺の右肩に顔を近づけ、そこに口づけした。傷から僅かな痛みと熱を感じる。

何か言葉を言う暇もなくそこから光が溢れ、光が収まりマリアが唇を離すと、肩にあった傷は消えていた。


「お前・・・魔法使いだったのか!?」


「魔法使いじゃありませんよ。これはあの日から出来る様になったんです。きっと神様が助けてくれているのです。」


なんだ、魔法使いじゃないのか。いや、仕組みのわからんすごいこと、つまりこれは魔法なのでは?いやしかし・・。

悩む俺を抱きしめて、マリアが幸せそうに笑った。

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