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伝える者

作者: 洋輝

「な〜んで逃げるかな」


溜め息一つに、胸の内の不機嫌を全て込めて吐き出す。残ったのは…やっぱり不機嫌だけ。


「私ってそんなに怖く見える?」


背後にゆっくりとした足取りで現れた気配にそう尋ねる。


「お前が怖くないなら怖いものなんてない」


「…成る程ね」


その返答に納得したわけじゃない。でも私の相棒は、こういう時嘘を吐かない。それは唯一の美点であり、最大の欠点だ。

ということは…私納得してるってことか。


「で、どうするんだ?追いかけたらまた逃げるな、あれは」


無愛想、というよりは表情が酷く希薄な顔で淡々とそう言う相棒。これで小さな子供には人気があるのは、私の中の七不思議の一つだ。子供以外には普通に怖がられ避けられているが。


「まぁね。でも追いかけるよ。私ってばお節介だし」


パキパキと拳を鳴らす姿に、殴り込みに行くのですか?と問いたくなる。


「見た目のその怖さが無ければ、いいお節介さんなんだがな」


見つめられるだけで男女問わず固まりそうな視線で、相棒は私を見る。その視線に幾らか優しさがあれば固まるのは女だけで済むだろう。もちろん私を除いてだけど。


「あんたが言うかな、あんたが…」


また溜め息一つ。今度はただ空気を吐き出しただけだ。別に相棒に不満はないから。


「知らないまんまじゃ、あの子可哀想でしょ?」


「知らない方がいいこともある」


ちゃんと会話をする気があるのかどうか。路地から覗く四角い空を見上げる相棒。


「あんたね…本当に知らない方がいいと思ってんの?」


絶対に知った方がいい。誰が見ても私はそう思っているととられるはずだ。


「俺に判断出来るとでも?」


質問に質問で返される。ちゃんと話は聞いているようで何より。


「あんたは出来るけどしないの」


「お前は出来ないのにしようとする」


口は達者だ。だから困る。私は口じゃ相棒には勝てない。


「どっちも最悪だよね?」


相棒は肩を竦めて見せる。それが肯定の意味を持っていると知っているのは私だけだ。


「あの少女には諦めてもらおう。俺とお前に目をつけられたのが運の尽きだとな」


「な〜んか私とあんた、悪いことしようとしてるようにしか聞こえないんだけど…」


別にその少女を捕まえて食おうというわけじゃない。ただ真実を伝えるだけなのだ。


妹は死んだ、と。


「俺達が捕まえて話せば、あの少女は悲しみに暮れる。そして何故教えたのだと叫びながら、憎悪の視線を俺達に向けるだろう。もちろん俺達は何も気の効いたことを言えない。少女の叫びにも表情一つ変えない。それを見た少女は怒りと悲しみで自棄になり、その場で自らの喉をナイフで」

「切り裂かさない。淡々とした口調で恐ろしいこと言わないの。だから女が出来ないんだって」


笑うでもなく、だが真剣にでもなく淡々と喋るから余計怖い。


「この口調で恐ろしいことを言うのをやめれば女が出来ると?」


「あ〜……出来ないかな?」


頭の天辺から顎の上までを見てそう告げる。この相棒に女が出来ない原因は口だけではない。


今度は相棒が溜め息。そこに何が込められているかは私が知る必要はない。


「まぁそれは置いといて」


「動作付きとは年寄りみたいだ」


「あんた黙れ」


ニッコリと太陽のように眩しい笑みとは対称的に、暗闇とお友達のようなドスの効いた声。


「あの子はそれを知らないまんまだと、いつまでも時間を無駄にしちゃう。死んだ妹の分まであの子は生きなきゃいけないの」


「それはお前の考えの押し付けだ。そのせいであの少女が壊れたらどう責任をとる?」


腕を組み、背を壁に預けながら相棒が反論する。


「私がそう決めたんだから、あの子には受け入れてもらうわ。責任?なんで私が責任とらなきゃいけないの?壊れたらそれはあの子が弱かっただけ。私の責任なわけないでしょ」


強気な発言の裏に隠れる感情。それを見抜くことが出来るのは、世界広しと言えどこの相棒だけだ。


「伝える者としての責任はある」


「幻を追って、自分を騙して生きる方がいいって言うの?人生一度だよ?時間には限りがあるんだから」

「その時間をどう使おうと、個人の自由だ」


「だったらあんたはあの子には何も伝えないって言うの?じゃあ伝えない者の責任は?知らないまま無為に過ごす時間をあの子が望んでるとでも言うの?」


喧嘩腰、ではない。だが端から見れば険悪な雰囲気には違いないだろう。しかしこれは私と相棒には必要なこと。


「かもしれない………だが違うかもしれない」


「はっきり言いなさいよ。あんたはどっちなの?」


「…俺には難し過ぎる問題だ。他人の思いをあーだこーだと勝手には判断出来ない。だから俺はお前の判断に追従しよう」


いつもそうだ。相棒は私の判断に追従すると言い、迷う私の背中を後押しする。相棒の後押しがあるから私は安心して判断を下せる。出来もしない判断を無理矢理させる相棒は相当な悪だ。私はいつだって自分で判断を下したい。だけどそれは簡単じゃなくて、未だに出来ない。


怖いから。


だから私は相棒の後押しを望む。迷わず判断が出来るのに、表立って判断を口にすることを拒む相棒は、私を通して判断を下す。


怖いから。


私と相棒はどちらかなしには生きていけないのだ。


「私はあの子に伝える。妹は死んだんだって。でもまぁ…あんたがうるさいから、伝える者の責任はちゃんと負うわよ。あの子を一人にはしない。憎しみも悲しみも一緒に背負う。これでどう?」


わざと、仕方ないなといった口調で私は判断を下す。もちろん本心じゃないけど、回りくどい私と相棒には必要なこと。それにこれはもう決定事項だ。私と相棒で出した最終結論。


背負うのだ。伝える者としての責任を。憎しみ悲しみ寂しさ怒り…一人じゃ押し潰されそうになる強敵を。


「好きにしろ。俺はお前の判断に従う。お前が憎しみも悲しみも背負うと言うのなら、追従する者として俺も背負おう」


怖がりな私達はいつもそうだ。回りくどいやり取りを通して、そして確認する。伝える者としての責任を負うことを。それがどれ程辛く、想像を絶するものであっても投げ出さないことを。


「じゃ、さっさと追いかけよ!見つけたら挟み撃ちだからね!」


「お前は余程あの少女を怯えさせたいらしいな」


言いながらも反論の意は示さない相棒。私達は路地を抜け、伝える為に少女を探す。それが私と相棒の限りある時間の過ごし方。




私達は伝える。


私達は背負う。


伝える者の魂を。


こんにちは。もしくはこんばんは。はたまたおはようございます。最後まで呼んで下さってありがとうございました。『夢に救いを』では後書き忘れましたが、今回は忘れてません。『伝える者』如何でしたか?言葉と言うものは思っている以上に凄い力があります。ましてや人に大事な事を伝えるとなると、その凄まじさや恐ろしや。そんな難しさを表してみたかったのですが…いや、やっぱり言葉って難しい(笑)。短編は相も変わらず苦手で、話の構成が甘かったり、文体に難があるかも(これは短編に限らず…かな)しれません。あとジャンル分けとかも苦手。そんな著者ですがご意見ご感想、雑談、なんでもござれなので、気軽に話して下さい。ではでは…一読ありがとうございました。

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