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飛沫の恋

作者: ちぇるしぃ

書き出したものの長くなりそうなので途中を端折りました。

もしかしたら連載版に変更するかもしれません。

嵐の夜に運命に出会った。

それは偶然、それとも必然・・・。




私は人魚。

といってもヒレもなければ立派な二本の足もある、身体的には普通の人間と全く変わりない姿だ。

でも、海を統べる瞳を持っている。

私の瞳は海に入っている時には輝き、海を思い通りに泳げる力を持っている。



そんな私にとって、あの日のそれはほんの気まぐれだったんだ。

海の上の稲妻が綺麗だったから、私は荒れる海の上で嵐の中の光をじっと見ていた。

ずっと長い間一人で生きてきて、退屈しきっている私には嵐も珍しいショーのようで。

あんまりに光が綺麗すぎるから、どんどん近づいていって、気がつけば嵐のど真ん中で船が沈んでいくのを見ていた。


嵐の夜に船を出すなんて、なんておバカなのかしら。


人間には、海を鎮める力なんてないのに・・。


そんな風に思いながらも、好奇心には勝てなくて、近づいていった私の前に、船の破片に掴まり、漂う少年がいた。

少年は意識を朦朧とさせながらも、私を見て縋るように言った。

「お願い、助けて」

それは、きっと退屈しきっていた私のほんの気まぐれ。

私は少年を岸に連れて行くことにした。




朝になり、人のいない海岸の岩場についた私は、少年をつついてみた。


「ねえ、起きてってば」


声をかけつつ揺さぶる。

せっかくわざわざ助けてあげたんだから、少しは私を楽しませてくれなければ困る。


「おーーきーーろーー」


ゆさゆさと揺さぶっているとなんとか意識を取り戻したようだ。


「あなたは?」


金色の髪をかきあげながら、苦しそうに眉をよせ、青い瞳でこちらを見てきた。


「覚えてないの?せっかく助けてあげたのに」


はっとしたような表情をしたので思い出したのかもしれない。


「もしかしてあなたは・・」


怖れたように聞いてくるその顔を見るところ、私の正体について察しがついたのかな。

人間の中でも装飾のたくさんついた服を着ていることといい、10歳前後に見えるというのにその年に見合わない察しの良さといい、もしかしたら意外と大物だったのかも・・。


「うん、多分その想像のとおり」


ちょっと笑いながら言うと、逆に相手の方が焦ってしまったようだ。


「な、なんでバラすんですか。人魚ってバレたら危険なのはあなたの方なのに」


怒ったように言うからますます可笑しくなって、クスクス笑っているとさらに怒ってしまったようだ。


「なんで笑ってるんですか。笑ってる場合ですか?人間にバレたら狩られてしまうでしょう?」


私は笑いながら答える。


「私を食べたら若返るからね〜」


呑気に笑う私に益々慌てる少年が面白くてしょうがない。

とっても可愛い顔をしているのに、そのほっぺたが膨れているのがまた愛らしい。


「はやく海に入ってください。助けてくださって感謝していますが、危険すぎます」


背中を押されて海の方へと動かされる。でも、まだダメだ。


「まって、お礼が欲しいのよ」


だからお願いしてみる。


「お礼ですか?僕にできることでしたら喜んで。あなたのおかげで命が助かったのですから」


素直で純粋な少年にほんわかしながら、お願いを紡ぐ。


「退屈を紛らわせて欲しいのよ。2年に1度くらいでいいから一緒に遊んでくれる?」


「はあ?僕があなたを売るとは思わないんですか?」


眉をハの字にして困ったように言うこの子にまたまた笑ってしまいながら、私は頷いた。


「売るような人はそんなこと言わないよ」


「もう、危機感が全くないじゃないですか・・。でも、じゃあ1ヶ月後にまたここにきます」


律儀にそう約束すると、私を海に押し出した。


「もう、せっかちね」


笑いながら私は海に飛び込んだ。



*********



そして1ヶ月、多分居ないだろうなと思いながらも、約束の岩場にきてみると、なんとびっくり彼がいた。


「あ、本当にいる」


つい出てしまった言葉だったが、彼はプリプリと怒りだした。


「なんですか、僕を信用してなかったんですか?約束したのに」


ブチブチと怒りながら言うその姿は、1ヶ月前とは違い装飾がほとんどない町でよく見かけるような衣装だが、愛らしさは変らなかった。


「ごめんごめん、信じてなかったわけじゃないけど、またここに来るのは大変かもしれないとは思ってたんだよ」


素直にそう言うと、途端に怒るのをやめて笑顔を見せる。


「心配してくださったのなら、許します」


そう言って笑ってくれたので、こちらもにっこり笑うと途端に真っ赤になった。


「ふふ。ねえ街に行ってみたいの?わたし一人じゃ流石に怖くて」


そうお願いすると彼は呆れてしまったようだった。


「あなたって、なんて無鉄砲な人魚なの?いくら姿が人間と同じだからといって、水がかかって瞳が光ればすぐにバレるし、そんな綺麗な姿で目立つことこの上ないよ」


肩をすくめて、そういう彼のおでこをツンとつついて後ろに傾かせながら言う。


「命の恩人なのに〜な〜」


ちょっと悲しそうな顔をすると、さすがに悪いと思ったようで、困ったように言った。


「じゃあ 今度はちゃんと準備をしてきますから、今日はここで遊びましょう?あ、その前に、僕はレオンハートです。よく考えると名前さえ知りませんでしたね」


「わかった。今度まで我慢するよ。レオんハートね。長すぎるからレオでもいい?ちなみに、わたしは名前ないの」


長い人魚生の中でも名前が無くて困ったはじめての瞬間だった。


「そうなんですね。でも人魚っていうのもなんなんで、名前つけましょうよ」


「名前欲しいけどどんな名前にすればいいのかわからないし」


ちょっと拗ねながらいうとレオがにっこり笑って言った。


「エレオーラは? 海の女神の名前なんですよ?」


「エレオーラ、なんか嬉しい」


名前ができるなんて嘘みたいだ。そして名前を呼んでもらえるのはなんて気持ちがいいんだろう。


「エレって呼ぶね」


ニコニコ笑いながらレオが言うから嬉しくなって二人で手を繋いで海に飛び込んで海を操ってたくさん遊んだ。


そしてまた2週間後に今度はしっかり準備して街でひとしきり遊ぶと、また2年後に来ることを約束して海に帰った。


その後、2年ごとに会うたびに、だんだん変わっていく姿にいつのまにか恋をしていた。

背は私より高くなり、金髪の髪を後ろでくくって、腰に剣を履き、青い瞳に情熱を載せるようになった彼をいつのまにか名前で呼ぶようになっていた。


「ねえ、レオ。あなたを食べさせてくれない?」


これは私のプロポーズ。


「食べてどうするの?」


不思議そうに聞いてくるので、私にとっての当たり前を返す。


「卵を産むの」


「卵を産んだ後?君はどうなるの?」


「産んだ後? 死ぬよ」


なんでそんな当たり前のことを聞くのだろう。


「なんで?死ぬのは怖くないの?」


「卵を産むために生きてるんだから、卵を産んだら死ぬのは当たり前でしょ?」


「でも、卵を産まなきゃ死なずに済むんだよ?」


なぜかとても悲しい顔をするレオを見て、不思議な気持ちになる。


「何が問題なのかわからない。だって命を繋いでいくために生きてるんだもの。だから、卵を産めずに死ぬのは怖い」


「もし俺が断ったらどうするの?」


「どうもしない。いつか食べたくなって、食べてもいいよって返事をした人の卵を産んで死ぬよ」


「人間は子育てをして、子供が大きくなるまで一緒に思い出を作るんだ」


「それはきっと人間がたくさん卵を産まないからでしょう?私たちはたくさん卵を生むから育てる必要はないんだ」


レオは難しい顔をして黙り込んでしまった。

返事は貰えなかったけれど、その後もしばらく一緒に遊んだ後に食べていい?と聞くのが習慣になった。


約束をしてるわけじゃないけど、なんとなく気になっていつもの待ち合わせ場所の岩場に近寄っていった時、フリフリのついたスカートを着た女の子が海に向かって呼びかけていた。


「人魚様、どうか私の話を聞いてください」


そっと、海に向かって長い間呼びかけている声が気になって、近寄っていってみた。


「人魚様!」


呼びかけていたくせに近寄っていくと驚く。

不思議に思いながらも首をかしげると、相手は意を決したように言った。


「お願いです。レオンハート殿下を食べないでください」


「なんで?」


必死になって言葉を紡いでくる。


「レオンハート殿下のことをお慕いしているのです。彼はみなには内緒で、自分が消えてもいいように準備をしています。でも、彼に死んでほしくないのです。立派な方です。この国に必要な方なのです。どうか連れて行かないでください」


ボロボロと泣きながら頭を下げる子は可憐で健気だった。


「レオが食べていいって言ったら食べるよ。でも、食べていいって言わない人は食べない」


そう言って海に潜った。





ある月が綺麗な夜、そうあの嵐の夜以来の夜にレオがやって来た。

月が輝いているその光をレオの髪が反射してとてもキラキラしている。

私はその美しさに囚われて、ずっとレオから目を離せない。


「愛しい人」


そう言ってレオは私の髪をひとすくいすくい取って口ずけた。


「この月を閉じ込めたような銀の髪も燃えるような赤い瞳も。全てずっと俺だけのものでいてほしい」


青い瞳の奥に燃えるような情熱を感じて、私は心臓がドキドキする。


「レオが綺麗すぎてドキドキする」


そう言うとレオがそっと頰に手を当てて来た。


「ねえ、エレ。君がどんなに綺麗な生き物で、街に出るたびに隠しているのに視線を集めるのにどんなに俺が嫉妬しているか・・・わかってる?」


そんな風に言うレオこそ、どんな姿をしていてもその美しさと気品で周りの人を圧倒させていく力を持っている。


でも、そんな彼に特別扱いされて、こんな風に愛を焦がれるというのはなんて幸せなんだろう。

前は分からなかった、ずっと卵を産んでも一緒にいたいと言う気持ちが少しわかった気がした。


顔を傾けて唇を合わせると、レオの気持ちが流れ込んでくるような気がした。


「愛しいエレ、どうか俺を食べて」


その時の気持ちをなんてあらわせばいいんだろう。

優しい瞳で私を見つめるレオに心も体も包まれたのを感じた。

幸せでくるまれて、生まれてきたことに感謝した。


「レオ、レオ。私もあなたを食べたい」


心が喜びで溢れて、人魚としての本能が私の手を動かす。

手の先が光り、そっとレオの存在を光の中で吸収しようとしていた。


「いやーーー!やめて!殿下、殿下。お願いです。生きてくださってるだけでいいんです」


狂ったように泣き叫んでいるのはこのあいだのお姫様だった。

そしてそれは、光に包まれて思考が溶けていた私を引き戻す。


でも、そんな私の体を抱きしめてレオがそっと笑った。


「エレ、俺のエレ。どうか俺を食べて」


幸せそうに微笑むその姿に、人魚としての私がそのままレオを私の中に取り込もうとしているのに、ずっとずっと産みたいと思っていた私とレオの卵のためにはそれが必要なのに・・。


どうして、私の手はレオを離してしまうんだろう。


痛いくらいに包まれた幸せの中で、なぜ溢れていくのかわからない涙がとまらない。


「あ、わたし、食べれない」


どうしても、どうしてもレオが消せない。

いつの間にわたしの中に生まれてしまっていたんだろう。

人魚としての本能を消してしまうようなこんな気持ちが・・。


「あぁ、わたしにはレオが消せない・・・」


それは、どうしようもなく、人魚のわたしにとっては意味もない無駄な行為で。

でも、いつのまにかわたしの中に生まれていたたった一つの真実だった。


「エレ?エレ? どうしたの? 俺は君が欲しいんだ。その手段が食べられることだというなら、俺にとっては幸せなんだよ?」


まるで困った子に聞かせるように言い聞かせながら優しく抱きしめるレオに、でも、どうしようもない。


「ふふ。いつのまにかわたし、人間としての愛を育ててしまっていた。レオ、レオ。愛しい人」


涙がどんどんこぼれていくように、人魚としての核がこぼれ落ちていくのを感じた。


「ごめんね、レオ。わたし、人魚としての存在を無くしてしまった、さよなら、愛しい人。ああ卵が産めないのにどうしてこんなに満たされているのかしら」


途端にレオが必死の形相で痛いくらいに抱きしめてくる。


「どうして? どうして? 君のいない世界なんで意味がない。俺を連れて行って。消えないでくれ」


ああ、レオが泣いている。悲痛な声に、どうしようもなくて。


こぼれ落ちていく最後の力でレオを抱きしめ返す。


「レオ、あなたの心はわたしが貰っていくから」


そう言ってレオのわたしに関する記憶をすべて消した。

崩れ落ちたレオの唇に最後のキスをして海に入る。


どんどん体が消えて泡になっていく。



レオ、大好き。

わたしを愛してないあなたもすべて愛しい。


どうかわたしを忘れて幸せになって。



飛沫の中でそう願った。















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