2.飴玉
これは、昔の記憶。
「またいじめられたのか?」
「いちちゃん……」
夕暮れ時の公園。
無花果は背負っていたランドセルを放り投げ、ベンチに座ってめそめそ泣いている光のもとに駆け寄る。
隣に座り、光の背中を強く叩く。
「泣くな。男だろう。お前がそうやってすぐに泣くから、面白がられるんだ!」
「だって、ぼく……」
「そうだ!」
無花果はポケットに手を突っ込み、飴玉の包みを取り出した。それをギュッと力強く、光の手に握らせる。
「こんなものしかなかったが、お前にやろう。私の妹が私にくれたものだが、特別だぞ」
光は目をぱちぱちさせて、手の中の飴玉を見つめる。
飴玉は夕日に照らされてきらきら輝いていた。
「あ、ありがとう……あの、いちちゃんには妹がいるの?学校で見かけたことないけど……」
「ああ、妹は別の学校に通っているんだ。今は住んでる場所も違うしな。この前、久しぶりに会う機会があって、それで貰った」
無花果は、少し寂しそうに笑う。
光には、そんな無花果の笑顔が大人のように思えて、少し頬が熱くなるのを感じる。
「あのさ、いちちゃん……」
「なんだ?」
「ぼく、もっと強くなるから……いじめなんかに負けない、強い男になるからさ……!だから!」
光は口籠もり、手の中の飴玉を左右に転がす。
「だから、ずっと一緒に……」
「一緒……」
無花果は、うーむ、と呟き目を閉じた。
「ずっと一緒は無理だな。私は明日引っ越すんだ」
「……へ?」
それが、光の思い出の最後に残る無花果の姿だった。