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1.その門をくぐる

 


 運命って、信じるか?


 一般的にどういう答えが返ってくるかはわからないが、少なくとも俺は存在すると信じている。


 ……いや、信じていた。












 後根光あとねひかるが夕日ノ丘高等学校の門を初めてくぐった日から、もう二年が過ぎた。


 三年生になった今日、光はそんなことをぼんやりと考えながら登校している。


 いつもの通学路はこの時期ならではの桜が満開で、光はなんとなく新しいことが起きるような予感に少しばかり胸をときめかせていた。



「よっす、光〜!」


「ああ、鉄也か。おはよう!」


 光に駆け寄ってきた中崎鉄也なかざきてつやは眉をひそめ、顔を近づけて呟く。


「知ってるか?転校生のウ、ワ、サ!」


「転校生?」


「そ、なんでもスゲー美人でスゲーかわいいらしくてさ〜オマケに成績優秀、スポーツ万能、まさに絵に描いたような女の子なんだってさ!」


(……転校生ってことは、誰もそんなことまで分からない筈では?)



 光は首を傾げて、噂なんだしまあいいかと思い直す。


「なんか新学期!って感じするだろ?転校生と同じクラスになりてぇよな〜」


「はは、そうだな」


 そんなたわいもない話をしながら光と鉄也は学校の門をくぐった。


 今、高校生活三年目の春が始まろうとしている。










(まさか、そんなことってあるのだろうか)


 光はあんぐりと口を開いたまま彼女を見つめる。


 ザワザワとしていた教室が、一瞬にして静寂に包まれる。クラスメイト全員が彼女に目をやり、そしてその目線は釘付けになる。


「転校生を紹介するぞ」


 やる気のなさそうな3-A組の担任、小宮智こみやさとしがそう言うと、彼女はすらすらと黒板に名前を書き始めた。



 間違いない、と光は思う。あの燃えるように赤くて長い、毛先のはねた髪。切り揃えられた前髪。キリッとした瞳に宿る深い緑。なによりあんな珍しい名前、間違えるはずもない。


 光はこんがらがる頭を必死に動かした。



(だって、だって彼女は……)




神前無花果こうさきいちじくだ。これから一年間、よろしく頼む」


 凛とした顔で、無花果が微笑む。






(だって彼女は、俺の初恋の……!)




「それから、もう一つ」


 無花果はコホン、と咳払いをして人差し指を立てる。



「私には六人の妹がいる。その中の誰かひとりでもいいから、嫁に貰ってくれる男を探している最中だ。理由はまあ、ここで話すことでもないから省略するとして……」




(初恋……の……ん?……)



「そう言うわけだから、興味あるやつは休み時間にでも話しかけてくれ。以上だ」


(…………)


 教室が、別の意味で静寂に包まれる。


(……えー、と)


 理解することをやめた光は、遠い記憶に想いを馳せることにした。



 無花果。小学生の頃の思い出。



(俺の、初恋の相手だ。)






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