表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アギアケソニマガキフラ

作者: ライヒ


「ねえ…ホントにやるの?」


「あったりまえじゃん!ほら、早く〜時間来ちゃうから!」


そんな会話が、夕陽の射し込む木造校舎の、不気味な静けさを少しの間だけかき消してくれる。




私は琴無茜(ことなしあかね)。高校一年生になったばかり。


私の手を引いて急かすのは、高峯鈴(たかみねすず)


同じ高校に通う、私の親友だ。


私達は2人で、近所の廃校に来ている。


ここは桜ヶ丘小学校。


40年程前に突然廃校になったらしいが、未だに取り壊されずに残っている。


何故放課後にこんな所にいるのかと言うと…



――――



「茜、おはよ〜!早速だけど、今日の放課後の予定、空けといてね!」


「おはよう、鈴。はあ…またなの?当日に言うのやめてってば。で、今日はどこ行くの?」


鈴はいつも突然遊ぼうと誘ってくるのだ。どうせ今日も店とかだろうけど。


「ふっふっふ…今日の私はひと味違うのだよ…」


「はいはい。で?」


「今日は、学校の七不思議を検証しに行くのだよ、茜くん。」


「七不思議?」


「そう。近所に廃校あるでしょ?桜ヶ丘小学校。そこの踊り場に鏡があってね?その鏡を覗くと、鏡の世界に連れていかれるんだって。」


「へぇー…ってそれだけ??」


「うん、そうだよ。」


「あと6個は?それに廃校って…それもう学校の七不思議じゃないよね?」


「さぁ?でも一緒に行ってくれるよね!」


「はあ…分かった。付き合いますよ…」


「やった〜!!」



――――

放課後




「ねえ、鈴。結局何をどうするの?」


「あれ?言ってなかったっけ?えっとね…

『校舎の二階と三階の間の踊り場の鏡を、夕陽の射し込む瞬間に覗き込むと、鏡の中に引きずり込まれる』

だったかな?」


「何そのふわっとしたタイミングの説明」


「えーだってそう書いてあったんだもん!」


「ソースは?」


「もちろんネット!」


「はあ…もう帰ろうよ」


「そんな事言わないでさ!私だって調べるの大変だったんだよ?ちょうど鏡に夕陽が当たる角度になる時期って短いらしいし。今日晴れてなかったらしばらく見れなかったんだからね!」


「分かった分かった。お疲れ様。」


「さ、早く行こっ!」



――――



という事で、私達は廃校に忍び込むことになったのだ。


「何か不気味だよね〜」


「雰囲気あるよね」


声を落として囁く桜につられて、私も小声で答える。それなのに、周囲の静けさによって思ったより大きくきこえる。


「茜〜ちょっと怖くなってきた〜」


「じゃあ帰る?」


「やだ!早くやろっ!」


「はいはい」


私は、鈴に手を引かれながら呆れて言う。まあ、いつもの事だけど。




二階と三階の間の踊り場。


噂の鏡は、ごくごく普通の、何の変哲もないただの鏡に見える。


「とうちゃ〜く!」


普段だったら少しイラッとする鈴の明るさが、ここでは頼もしく感じてしまう。


「あと少しで、ちょうど夕陽が当たると思うんだよね」


「……」


「茜、もしかして怖がってる?」


「そ、そんな事ないから。」


「ならいいんだけど〜怖いなら鈴様の胸に飛び込んでくれてもいいんだよ?」


「遠慮させていただきます」


「むぅ」


本当はちょっと怖い。けど、鈴のおかげで少し気が紛れたかも。


そう。それにこんなのただの七不思議の一つ。学校の怪談なんて、どれもこれも作り話に決まってるんだから。




待つ事5分程。


少しずつ日が傾いてきて、窓から射す夕陽がもう少しで鏡に当たりそう。


何も起こらない。


そんな事、分かってるのに。


分かってるはずなのに。


緊張が高まってくる。


「そろそろだね」


「うん」


「……」


「……」




私達はその時を息を飲んで待つ。


瞬きもせず。


恐怖で目を瞑りたいけれど。


その気持ちに反して、何故か鏡を凝視してしまう。


窓から伸びる、黄金色に輝く橋。


その先端がまさに鏡の縁に架かる。


その瞬間―――光が弾けた。


「「うわっ」」


私達は咄嗟に目を瞑る。






目を開けるとそこには見たこともない景色が広がって―――はいなかった。


目を瞑った一瞬前と同じ。


踊り場にかかった鏡、そこに映り込む2人の生徒。


それだけ。


居ないはずの3人目が映っていたりもしない。


私と鈴が入れ替わっていたりもしない。


ただ、反射した夕陽が、思ったよりも眩しかっただけのようだ。


「な〜んだ…やっぱり何も起こらないんだ…」


「そりゃあ七不思議なんて、そんなものでしょ」


私は止めていた息をそっと吐く。少し怖かったけど、終わってみたら何でもない。ネットの都市伝説なんて作り話に決まっているのだから。


「鈴、これで満足した?」


「うん!満足した!だから一緒に帰ろ、茜!」


「そうだね」


つい5分ほど前と同じ道を逆に辿る。にこにこしながら私の手を引く鈴につられて、私も怖がっていたのが馬鹿らしく思えてきた。


そしてちょうど校舎から1歩踏み出した時、太陽が最後の光を東の空から投げかける。


「あ、月!キレイだね」


「ホントだ」


鈴につられて私も空を見上げる。


「さ、帰ろっか」


「うん!」


いつも通りの道を


いつも通りの2人で歩く


いつも通り夜空には星が瞬き


いつも通り月は西の空を昇っていく


学校の七不思議を試しても


いつも通りの日常は変わらない―――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ