勇者召喚が解禁されたが各国の王達は乗り気でない
1000字弱。オチなし。三人称練習1
世界のどこかで魔王が生まれた。
時を同じくして神からのお告げがあり、勇者召喚が解禁された。
およそ数百年ぶりのことである。
ただ、解禁とか言われても各国の王達にはよくわからない。
最後に行われたのがずいぶん前なので、当時を知る者はゼロ。
文献等もあまり残っておらず、慌てた王達は中立国に集まり緊急会議を開いた。
――それで、本当に勇者とやらを呼んでいいのか? 危険は?
――わからん。というか、呼ぶのは可能だが帰す手段がないらしい。
――なんだそれ……無責任すぎるだろ。
――控えめに言って犯罪だな。
――全力で言うと?
――人類史における汚点。
――提案する。勇者召喚ではなく勇者誘拐と改めるべきだ。
――いいね。でも、どうせなら略してユーユーでどうよ?
――悪くない。支持しよう。
――ふむ。で、そのユーユーはどの国がやるんだ?
――我が国はユーユーしたくない。
――こっちも後生だからユーユーだけはしないでくれ、ってママンが。
――おいおい、どっかがユーユーしないと魔王倒せないぞ……。
王達は頭を抱えた。魔王討伐によるメリットと、ユーユーによるデメリット。
両者はワンセットだが、とても釣り合っているとは思えなかった。
勇者に魔王を倒してもらえるのなら、それは助かる。実に有り難い。
ユーユーを行ったその国は、こういった場でも大きな発言力を得ることが出来るだろう。
だが、その恩人を元いた世界に帰す手段がない以上、恨まれるのは必至。
そのことを考えると、王達は胃のあたりが痛くなってしまうのだ。
だからといって、嫌がる他国に無理矢理ユーユーさせるのも気が乗らない。
そんなことをするぐらいなら、いっそ全ての国でユーユーを――。
誰かがそう提案しようとしたそのとき。
他の王達に遠慮でもしていたのか、会議開始からお茶ばかり飲んでずっと沈黙を守っていた、とある小国の王がヒョイッと挙手をした。
――うん? 茶のおかわりか?
――いえ。うちでやりますよ。その、ユーユー。
まさかのユーユー宣言に王達は目を瞬かせた。
近年、この王が治める小国では魔物の被害が激化していた。
今はまだ騎士団や冒険者達の尽力でなんとかなっているが、それも時間の問題。
縋れるものがあるならば、藁でも勇者でも縋ってしまいたい。
たとえ犯罪者だ誘拐犯だと罵られようが、国が滅ぶよりはマシなのだから。
――最終確認するぞ。本当にいいのか?
――ええ。どっちみち、このままじゃ滅んじゃいますし。
小国の王はニッコリ笑い、任せてくれと自分の胸板を叩いた。
ただ思いのほか勢いがついてしまったのか、「ごほっごほっ」と少々むせてしまう。
その姿はお世辞にも頼りがいがあるようには見えない。
本人は真面目なつもりのようだが滑稽ですらあった。
だが各国の王達は誰一人として笑わなかった。
それどころか帰り際、頼みもしないのに数々の援助を申し出て、小国の王を困惑させた。
魔王誕生。その影響による魔物の活性化。
冬の到来を思わせる厳しい時代ではあったが、各国の仲はそれほど悪くなかったという。