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迷子のゾンビ

吾輩はゾンビである。


名前はあったような気がするが、頭の中が紫の煙でいっぱいになっていて、なんだかよくわからない。よくわからないが、とにかく吾輩はゾンビでゾンビらしくうめき声をあげ、こうしてよく知らない道の、よくしらない電柱に頭をぶつけ続けている。こうなる前には兄弟がいたような気がする。しかしそれもたぶん喰ってしまったかなにかで、どこにもいないし、おまけにさっきから雨がしとしと降り始めてどんどんみじめな気持ちになってきた。迷子だ、と吾輩はおもった。いやもっと考えるべきことがあるように思うのだが、一度迷子だと思うともうそれしか考えられない。心細く、寂しい。ゾンビは寂しい。そんな気がする。たとえ目的地がわかっていて、そこにぐんぐん向かっていけるゾンビであっても、やっぱり寂しいと思う。しかし、吾輩はどうしてゾンビになってしまったのだろう。全くもってわからない。道理がとおらない。雨が強くなって気がする。雨に濡れたゾンビを迎え入れてくれる家などあるだろうか。おや、人の気配。見なくてもわかる。男が二人近づいてくる。


「おい、甘木くん」


「はい、せんせ」


「これ、なんだろうね」


「はい、酔っ払いではないですか?」


「ふむ、そうかもしれないが」


一人の男が吾輩の顔を覗き込んだ。その瞬間、とてつもない衝動が吾輩を捕らえた。噛みつきたい。しかし、足がうまく動かない。電柱に頭をぶつけたまま、歯をカチカチならすのが精いっぱいだった。


「甘木くん」


「はい、せんせ」


「これ、持って帰ろう」


「え」


「見てみろ」


「あ」


「な」


「でも、せんせ。雨ですよ。二人で抱えたら濡れてしまいますし、第一危ないのでは?」


「なに、まだまだ人に近いじゃないか、君の琉球なら大丈夫さ」


「あまり気が進みませんが、やってみましょうか」


「そうこなくては、傘は私がもっていよう。さあ、頼んだぞ」


とまあ、こういう会話が吾輩と関係ないところで進んでいた。しかし、彼らが吾輩をどうにかしようというなら、そこに吾輩と彼らの関係性が生じるはずで、そうなると吾輩は一概に迷子とは言えないのではないか、とぼんやり考えていた。そしてそれはずいぶん喜ばしいことに思えた。


「じゃ、せんせ。いきますよ」


「んどーんとやってくれ」


そして吾輩はどーんと頭に衝撃を受け、雨の音が急に止んだのだった。

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