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婚約破棄からの死亡フラグを折るために  作者: 焔姫
第3章〜邂逅〜
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最後の呼びかけ

 エトワール学園での建国祭から帰宅すると、お父様とお母様、そして5歳離れた弟のラルクが私を迎えてくれた。

 婚約破棄の知らせは既に届いていたのだろう。

 お父様は複雑そうな顔を、お母様は泣きそうな顔を、ラルクは怒ったような顔をしている。


「ただいま帰りました。この度は私が至らぬばかりに、ウィステリア公爵家の家名に傷をつけてしまい、誠に申し訳ございません」


「アイリス、お前のせいではない。聖乙女が顕現なされたのだ。殿下が我が国のために下されたご決断だ」


「そうよ、アイリス。あなたは何も悪くないわ。ただ……」


 お母様が言葉を詰まらせる。


「ありがとうございます、お父様、お母様。ですが、婚約破棄された以上、私に嫁ぎ先はありません。私は、エトワール学園を卒業後、修道院に入ります」


「姉上が、可哀想だ!」


 ラルクの真っ直ぐな言葉に、私は口元に小さな笑みを作る。

 幼い頃から私を慕い、どこへ行くにもついて来た可愛い弟。

 気がつけば大きくなり、ウィステリア公爵家の継嗣として優れた才覚を示すようになった。

 この子がいれば、ウィステリア公爵家は大丈夫。


「ありがとう、ラルク。お父様、お母様、私はしばらく領地で過ごしたく思います。今はまだエトワール学園で皆様の前に顔を出すことが忍びなくて……」


 このまま王都の屋敷とエトワール学園を往復していたのでは、王廟に行く時間も作れない。

 ウィステリア公爵家の領地は王都の北方にあり、王廟に近い。

 婚約破棄に傷ついた心を癒すという名目で領地へ戻っても、違和感は無いだろう。


「そうだな。王都にはいづらかろう。しばらく領地で静養するといい」


「はい、お父様。今日はもう部屋で休ませて頂き、明日早速領地へ発とうと思います」


 その後2、3言葉を交わし、私は部屋に戻った。

 ドレスを脱ぎ、入浴し、ベッドに横たわる。


「ふっ……ぅっぅっ……」


 ひとりっきりの暗い部屋。

 それでも私は声を殺して泣いた。

 この1年、足掻いて足掻いて、悩んで苦しんで。

 なんで、なんで私だけがこんなに辛い想いをしなくてはならないの?

 初恋だったし、一目惚れだった。

 ずっとずっと愛していた。

 今でも愛している。

 隣に立つのにふさわしい女性でいようと、どれほどの努力を重ねたことか……

 リディアが何を頑張ったというの?

 思うがままに振る舞っただけ。

 ただ聖乙女に選ばれただけ。

 それなのにリディアは愛を手に入れ、これから先も生きていける。


「リディアなんか、大嫌い!」


 口に出せば、私の醜さが浮き彫りになる。

 これは単なる嫉妬だと、理性が告げる。

 あの方とリディアが近づくのを邪魔したかった。

 聖乙女が必要なら、あの方以外と結ばれて欲しかった。

 死にたくない。

 また死ぬのは嫌だ。

 怖くて怖くてたまらない。

 あのだんだん冷たくなっていく感覚。

 世界から少しずつ切り離されていく恐怖。

 それが誰より分かるから、誰にも押し付けられない。

 ましてあの方には決して感じて欲しくない。


「カーティス様……」


 今夜が最後。

 お名前を口にするのは、今夜が最後。

 そうしないと胸が痛くて耐えられないから。

 明日から生きるためにまた頑張るから。

 今夜だけは名前を呼んで、泣かせて欲しい……

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