友達
「ほぉ?」
情報によると、鮮血帝ーーシリアス・ユースティティアは今年で27歳。
先代レギオス国王が娼婦に産ませた子どもだ。
当時のレギオス国王は遊興にふける無能力者で、親戚関係にある正妃と側妃たち一族の専横を許し、政治は腐敗していた。
忌子として疎まれていた皇帝は妃一族に幼い頃から何度も殺されかけたが、その都度生き延び、14歳のときに金狼騎士団を中心とした軍部の後ろ盾を得て謀叛を起こす。
そして、国王、王妃、側室たち、その息子や娘を皆殺しにし、時の重臣たちを粛清した。
その後、荒れ果てた国内を整えつつ、謀叛を好機と捉えて攻め入って来た周辺諸国を次々と撃破。
東の半島を統一する。
その勢いのまま大陸へと進出し、東の大国フィディシス神王国を征服したのを機にレギオス王国をレギオス帝国と改め、皇帝を称す。
そして、先日またひとつ、小国がレギオス帝国の支配圏へと落ちた。
皇帝の後宮には攻め滅ぼされた国々の王族の女性が入れられたが、未だ子は無い。
若く見目麗しい皇帝は戦争の度に前線で指揮を執り、基本的に国内の政治は銀狼と呼ばれるブレーントラストによって行われているようだ。
「なるほど。神聖結界すら撃破した黒狼たちの攻撃を容易く防いだのだ。それほどの結界を張れる魔術師であれば、魔王も召喚出来るかもしれないな。その男も、ただの身体強化を超えた速度で動いていたしな。それで? お前の目的は何だ? こうやって挨拶するからには、俺の命が目的じゃないんだろ?」
この状況下で冷静に分析し、笑って椅子に腰掛けるほどの余裕を持てる皇帝。
くぐり抜けた修羅場の数が伺えますわね。
「皇帝陛下、私魔術師ではありませんわ。魔王の加護を受けた神魔術師ですの。このふたりは私の眷属ですわ」
目線、座り方、話すときの抑揚。
それら全てを計算し、威圧感を発する皇帝は、この場の主導権を握ろうとしている。
だから、皇帝の質問にすぐに答えてはいけない。
「召喚者は魔王から加護を受けられるのか? 面白いな。神魔術師は、魔術師より上位の存在というわけか。この部屋には神聖術師たちが結界を張っているにも関わらず転移して来たことを考えると、神聖術師をも超えるのか。お前、俺に仕える気は無いか?」
独り言が多いですわね。
実は不安なのかしら?
いえ、表情や仕草を観察する限り、不安というより興奮状態にあるようですわ。
「皇帝陛下は、なぜ次々と他国を支配圏に置かれるのですか? 戦争がお好きなのかしら?」
「俺の周りは大陸制覇の夢を見ているような人間ばかりだから、そういう質問は初めてされたな」
氷のような美貌に思案気な表情が浮かぶ。
目線を落とし少し考え込んだ皇帝は、私を見つめると微笑んだ。
「知らない世界を知りたいからだ。俺の夢は旅人だったからな。戦争は、俺の道に部下たちが望む夢を乗せた結果だ。だから、俺はお前にも興味があるぞ。お前みたいな人間は知らないからな」
無邪気で残酷な子どものような人なのだ、と私は思った。
戦争によって数多の犠牲を生み出すことに、何の痛痒も感じていない。
自分の夢を叶えるために部下が戦争という道を望むならそうしよう、というそれだけの理由でたくさんの命が喪われた。
私は怒りを鎮めるために小さく静かに息を吐く。
「私、戦争は嫌いですわ」
「ふっ、それならなぜ魔王を召喚した?」
「私が生きるために。戦争が起きれば、私死にますの」
「ふむ? お前の身形や振る舞いを見る限り、戦火に巻き込まれて死ぬような下層階級じゃないだろ? どこかの王族か? それなら、俺の後宮に入ればいい。亡国の姫君というのがごろごろいるぞ?」
ここまで他人に無頓着なのは生い立ちが関係しているのでしょうが、サイコパス気質もありそうですわ……
皇帝の命を握っている立場の私に、仕えろとか、後宮に入れとか、自然と自分の方が上の立場にあると認識させる言い回しをするのは怖いですわね。
「皇帝陛下、私と取引しませんこと?」
「何だ? ああ、俺の命と引き換えに、などとつまらぬことを言うなよ? 俺を即座に殺さなかった時点で、お前は俺に利用価値があると思っているのだろう? お前が俺に提供出来る利益があるのか?」
「ええ。戦争を止めて頂く代わりに、お友達になって差し上げますわ!」
私の言葉に皇帝は絶句するとーー
大爆笑した。
お腹を抱えて、息も絶え絶えに大笑いする鮮血帝。
涙まで滲んでますわ……
「と、友達か! はっはっはっ! いいな、友達! 面白い! そうだな、戦争にも飽きて来たところだ。いいだろう、友達。なってやろうじゃないか。アイリス、お前は今日から俺の友だ!」
「ええ、シリウス。あなたは今日から私の友ですわ」
こうして、私に新しいお友達が出来ました。




