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婚約破棄からの死亡フラグを折るために  作者: 焔姫
第5章〜悪役令嬢〜
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エトワール学園(4)

「アイリス!」


 怒気を孕んだ殿下の声。

 ティールームから庭園に降り、噴水の飛沫に目を細めていた私は、声の方に視線を向け、驚きに目を瞬かせた。

 皆様お揃いで……

 衝撃はあったが、王族である殿下他を迎えるため、ひとまず私はカーテシーをする。


「殿下」


「アイリス嬢」


「スチュワート様ーーフィリオ様、シュヴァルツ様、リディア様、皆様ご機嫌よう」


 宰相の息子、公爵家子息スチュワート様。

 騎士団長の息子、侯爵家子息フィリオ様。

 天才魔術師、伯爵家子息シュヴァルツ様。

 殿下とその横で瞳に涙を浮かべるリディアの後ろに並び立つ3人は、いずれも攻略対象者だ。

 時期も場所も異なるけれど、このシチュエーションは『聖乙女の祈り』第1部のエンディングシーンのようだわ。


「アイリス、そなたを見損なったぞ! リディアから全て聞いた。そなたが先導し、皆で寄ってたかってリディアを罵ったそうだな!」


 殿下の瞳が軽蔑の色をたたえ、私を睨む。

 殿下に失望されることを恐れ、完璧であろうと努めた日々が思い出された。

 そして今、私はその現実を目の当たりにして、今朝方抱いた違和感の正体を悟る。

 私、もう殿下を前にしても心が痛くないのですわね……


「アイリス嬢、殿下からご婚約を破棄された悲しみは分かりますが、あなたはもっと賢明な方だと思っていました」


「アイリス様、リディア嬢は聖乙女ですよ! そのリディア嬢に対して、不敬ではありませんか⁉︎」


「ウィステリア公爵家の名を傘に来て、優しいリディア嬢が差し伸べた手を跳ね除けるなど……はっ、アイリス様は随分と気位が高いようですね」


 優しい顔を曇らせたスチュワート様、正義感に燃えるフィリオ様、嘲笑するシュヴァルツ様の顔を順々に見、私は最後にリディアに目を留めた。

 そして、ひとつため息をつく。


「殿下、どなたも罵る、など品位を損ねるようなことはなさりませんわ」


 恐らく何を言っても聞き入れはしないのだろうが、友人たちの名誉のため一言弁明してみた。

 ゲームではこのように詰め寄られた後婚約者としてふさわしくないと婚約破棄される流れでしたが、既に婚約破棄されている場合、どうなるのでしょう?


「リディアが偽りを申したと言うのか⁉︎ 見ろ、これほど怯えて! そなたは私の前では取り澄ました態度を取っておきながら、私の目の届かないところでは横暴な振る舞いをしているのだろう! お祖母様や母上がそなたにリディアを支えるようにと仰られたそうだが、そなたはリディアの側にいるのにふさわしくない!」


 なるほど……


「殿下、それではリディア様の側にはどのような方をお望みですか?」


「はっ! 自らの行いを改めて取りすがろうとでも言うのか? そのようなことを聞く前に、リディアに謝罪せよ!」


「いえ、リディア様に謝るつもりはありませんわ。ただ、不思議に思いましたの。リディア様の側にはどなたがおられるのだろう、と」


「私がいるに決まっているだろう! スチュワートもフィリオもシュヴァルツも、俺とリディアを支えてくれている。そなたこそひとりではないか!」


「私もひとりではありませんーー皆様!」


 激怒する殿下方を冷めた目で見ていた私は、中庭に降りて来るシャーロット様たちを見て顔をほころばせた。


「アイリス様、お待たせしました」


「シャーロット、何を……?」


「お兄様、私たちアイリス様の応援に参りましたの」


「クラウディア、何してるの⁉︎」


「フィリオ、あなたは相変わらず猪突猛進ね」


「フローリア様……どうしてここに?」


「シュヴァルツ様、私もそれをお聞きしたいですわ」


 呆然とするスチュワート様、フィリオ様、シュヴァルツ様。


「皆も何をしている⁉︎」


 殿下が、シャーロット様、クラウディア様、フローリア様の後ろで優雅に一礼している十数人の令嬢方に問いかける。


「殿下、こちらにお越し頂いた皆様は、私の友人たちですの。殿下、スチュワート様、フィリオ様、シュヴァルツ様は覚えておいででしょうか? 皆様、リディア様の振る舞いについて物申されたところ、殿下方からご注意を受けた方々ですわ」


「なっ⁉︎」


「殿下ならお分かりになりますわよね? ここにいる皆様は、伯爵家のご令嬢であるリディア様に対して苦言を呈せられるほどの家柄の方々です。殿下、これほど多くの高位貴族のご令嬢方がリディア様から離れようとなさっているのです。殿下はいずれ王となられる方。隣に立つ王妃が、貴族階級の女性から支持を得られないことの重要性をどうかお考え下さい。それとも私たち女性の影響力などたかが知れている、と侮られますか?」


「いや……」


 言葉少なに、それでも否定した殿下に私はほっと息をついた。


「聡明な殿下ならお分かりのはずです。殿下がリディア様の天真爛漫な点を愛おしく思われているのも存じております。聖乙女は尊い存在ですわ。ですが、リディア様を王妃にと望まれますなら、聖乙女という象徴性だけでは務まらないことをどうかお考え下さい」


「酷いわ……やっぱりアイリス様は私を仲間外れにしようとしているのね。殿下、私をお助け下さい」


 今までずっと黙っていたリディアが涙ながらに殿下に訴える。

 可憐で華奢で、事態を理解出来ていない分何の打算もなく素直に殿下にすがるリディアは、抱き締めて守ってあげたくなるほど愛らしい。

 しかし、殿下は気づいてしまった。

 聖乙女はリディアに殿下の婚約者となる資格を与えたが、王妃となる資質までも与えてはいないのだ、と。


「リディア、アイリスたちの教えを受け入れろ」


「殿下は、私のことが嫌いになったのですか?」


「そんなことあるはずがない! そなたを愛している。だが、堪えてくれ。私のそばにいるために」


「ーーはい……」


 これで王太后様や王妃様も王妃教育を始められるでしょう。

 良かった……

 これで側妃にならずに済むわ。

 このままリディアが未来の王妃としての自覚を持たなければ、象徴はリディア、実務は私となるところだった。

 王太后様と王妃様の笑っているのに笑っていない目を思い出してぶるりと肩を震わせる。

 もしリディアが魔王討伐というエンディングを迎えていたら、最早誰も何も言えなかったでしょうけれど、ね。

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