エトワール学園(3)
「アイリス様、こちらにいらしたのね! シャーロット様、クラウディア様、フローリア様、ご機嫌よう」
鈴を転がすような声が聞こえ、私ははっと顔を上げる。
ティールームの入り口で、リディアが可愛らしい笑顔を見せていた。
シャーロット様は急いでハンカチで目元を拭われ、クラウディア様は柳眉を逆立て、フローリア様は口元だけに弧型を作る。
「リディア様、ご機嫌よう。私からお伺いするつもりでしたのに、探して下さったのですか?」
「はい! 私、アイリス様と早くお話したくって」
ふたりきりでそれとなくご忠告申し上げようと思っていましたのに……
3人の友人たちのリディアへの悪感情は、今最大限に高まっている。
これ以上不用意に刺激したくない私は、リディアにさりげなく退出を促そうとした。
「皆様でお茶会、楽しそうですね。私もご一緒させて下さい」
が、先手を打たれる。
リディアがふわりとソファーに座る。
どうして誰の許しを得ていないのに、お座りになるの⁉︎
シャーロット様がおずおずと口を開く。
「ご機嫌よう、リディア様。リディア様はどうしてこちらに……?」
「私、アイリス様を探していたのですがなかなか見つからなくて。少し休もうと思って、このティールームに来ましたの。ここは眺めが素敵ですよね」
意図が通じず、シャーロット様は困ったように眉根を下げた。
兄から蝶よ花よと可愛がられているシャーロット様は、元々誰かに強く言えるタイプではない。
「リディア様、こちらのティールームは公爵家以上の家格の方のための場です。お招き頂いてもいないのにいらっしゃるのは、失礼ですわ」
「あら、クラウディア様。そのような規則、どこにも書いてありませんわ。せっかく美しい庭園を見ながらお茶を飲める場所なのですから、多くの方が楽しむべきだと思います」
代わりにクラウディア様がはっきりとリディアに指摘すると、リディアも負けじと言い返す。
身分制度と公平性の相反する主張。
貴族と平民ーーそれぞれの在り方に基づく正論だが、リディアが王妃となって貴族社会で生きるならば、その考え方は王威を揺るがす危険なものとなる。
「リディア様の仰ることももっともですわ」
フローリア様の言葉に、リディアが喜色満面の笑みを浮かべる。
「下々の者が楽しく暮らせるように努めるのが上に立つ者の役目ですもの。ですから、私たちもリディア様がそちらにお座りになるのを止めませんでしたのよ? 流石リディア様ですわ。王妃を志されるお方なだけあって、民の心をお忘れになりませんのね」
しかし、続くフローリア様の強烈な嫌味に唇をきゅっと噛み締め立ち上がった。
「私、楽しくお話したかっただけなのに……酷いです、アイリス様!」
私⁉︎
「お兄様とお義姉様だけではなく、私も皆様の輪から締め出すおつもりですか⁉︎ 私、お義姉様から聞きました。アナトリア伯爵家が参加する催しには、アイリス様のお母様は来ないって! だから、最近招待状がどこからも来ないって!」
「リディア様、どうぞ落ち着ーー」
私が宥めようとすると、リディアは身を翻して駆け去ってしまった。
後を追おうと腰を上げかけると、シャーロット様が私の手を握り、引き留める。
「アイリス様、どうぞお待ちになって」
「リディア様は、殿下のところへ行かれたのですわ。リディア様には時折他の方々も苦言を呈しておられるのですが、その度に殿下に泣きつかれておられますから!」
「そして、殿下を連れてお戻りになる。ですから、アイリス様ひとりで後を追われるより、私たちとお待ちになられた方が良いと存じますの」
「そう、でしょうか……ですが、皆様にご迷惑をおかけしてしまいますわ」
迷う私に、シャーロット様が微笑む。
「私、アイリス様に迷惑をかけて頂きたいのですわ。ずっと何も仰られず、黙って領地に戻られてしまわれたでしょう? 私、アイリス様からご相談を承れない我が身が不甲斐なくて……」
「ありがとうございます、シャーロット様。ーーでしたら、お言葉に甘えて、皆様にご協力頂きたいことがございますの。お聞き届け下さるかしら?」
「ええ、アイリス様、お話になって?」
クラウディア様のお返事に、私は先日王太后様と王妃様から頼まれたことをお三方に説明した。




