RE:作戦(2)
「ーーというわけで、この魔王城を中継地及び緊急避難先として利用させて頂きたいのです」
「はっはっはっはっはっ!!!!!」
アイリスが涼しい顔をして言葉を結ぶと、ウィキニアが腹を抱えて笑い出した。
インペンティスが3つの目を瞬かせながら、口を開く。
「お前は人間の中でも一際愚かだな」
「失礼ですよ、インペンティス。アイリス嬢より愚かな人間は大勢います」
ディフェンシオがフォローしているように見せかけて、インペンティスの言葉を肯定する。
魔力を帯びた水で出来ているインペンティスの髪の緩やかな動き方を見る限り、機嫌は悪くないようだが。
反面、アイリスの後ろに控えた赤髪の少年が怒気を、青髪の少女が冷笑をそれぞれ浮かべた。
しかし、賢明にも口を開くような愚は犯さない。
「アイリス……そなたはいつも俺の意表を突いてくるな。なぜ紆余曲折を飛ばして、いきなり災禍の中心地へ行こうとするのだ?」
だが、俺もため息を隠せない。
現在の人の世の情勢など知らないが、人間界で王を自称する輩は常に唯我独尊の傲慢な存在だった。
後ろ盾を持たないアイリスが何を話そうと、耳を傾けることはないだろう。
困ったように俺を見るアイリスのため、何とかしてやりたいとは思うが……
「そうだよな〜。アイリスには何の力も無いもんな〜。よしんば情報が手に入ったところで、それを活用出来るような立場に無いもんな〜。それくらいなら当たって砕けたって同じだよな〜」
ウィキニアが歌うようにアイリスを揶揄する。
「あら、ウィキニア、私、当たって砕けるつもりはありませんわ。確かにエリューシオン聖王国のウィステリア公爵家の第1女であるアイリス・ウィステリアには何の力もありませんの。もし、婚約破棄されずに将来王妃となれば話は違ったかもしれませんが。でも、私には力が無くてもランティス様にはありますの」
「貴様! 陛下にレギオス帝国とやらを滅ぼせとでも言うつもりか!」
「インペンティス、落ち着きなさい。アイリス嬢は、皇帝と話すために魔王城を利用すると言いましたが、陛下の力を使うとは言いませんでした」
婚約破棄とか将来王妃とか引っかかる言葉はあったが、俺はアイリスの煌めく瞳を見続ける。
インペンティスが激昂して剣を抜きかけても、ディフェンシオが髪でインペンティスの右手を抑えても、俺は何も言わなかった。
アイリスが、俺のーー魔王の力を国を滅ぼすものとして振るうはずがない。
俺に褒めて欲しい、悲しい想いをしないで欲しい、そのために戦争を止めると言ったのだから。
まぁ、便利屋のように俺の力を使われている感は否めないが……
「はい、その通りです。レギオス帝国は今、西へ西へと領土を広げています。エリューシオン聖王国とレギオス帝国との間にある小国は1年と保たないでしょう。その次に狙われるのが、エリューシオン聖王国です。大陸中央部随一の大国で、交易路の中心地として栄えているエリューシオン聖王国は強大な軍事力を有していますが、皇帝のカリスマとその指揮下にある軍部の戦闘力、そしてこれまで連戦連勝を重ねて来た士気の高さで、エリューシオン聖王国にも宣戦布告して来るはず、でした」
「でした?」
ウィキニアが翡翠色の瞳を細めて首を傾げる。
レギオス帝国が宣戦布告をためらう要因?
なるほどーー
アイリスが俺を召喚したとき、尋ねて来た事柄はこれを警戒してのことだったのか?




