作戦(1)
「それでお嬢様、今後どうなさるおつもりですか〜?」
「まずはレギオス帝国の情報集めね。王妃教育の一環として知り得た情報だけでは到底足りないわ。鮮血帝の人となり、軍隊の構成、経済力などが重要ね。版図拡大の意図と方法が知りたいの」
「通り一遍なら調べられますが、詳細となるとレギオス帝国の中枢に潜り込まないと調べられませんね……」
ルナの問いに私が答えると、ソルが肩を落として悩み出す。
物語の主人公なら商会のツテとかお抱えの隠密集団とか味方にいるのでしょうけど……
ルナもソルも高い能力を有しているとはいえ、あくまで個人レベルだ。
国家を股にかけるような大規模な力があるわけではない。
「ぅぅっ……そうねぇ……魔王について調べることより、レギオス帝国について調べることの方が難しいだなんて……」
「歴史と現実の違いですね〜。歴史なら学習の一環という名目が立てられましたし、お嬢様の前世の記憶という情報源もありましたから〜」
「現実でそれらの情報をレギオス帝国で探ろうとすれば、間諜と判断されて殺されますね!」
ルナの説明を継いで、ソルがきっぱりと言い切る。
かといって、私が外務大臣をしているお父様に根掘り葉掘りレギオス帝国のことについて聞いたところで、そんな他国の国家機密レベルのことを教えてくれるはずもない。
頭を悩ませ、無意識に左手の中指にはめた指輪をくるくると回していたそのとき、私の頭にとある考えが浮かんだ。
「魔王に会いに行ったんだから、皇帝にも会いに行けばいいのよ」
「は? お嬢様、何言い出すんですか⁉︎」
「この魔王城の鍵ね、どこにいても魔王城へ行けるし、魔王城から好きな場所へ行けるの。だから、魔王城へ行ってから皇帝のところまで行って、危なくなったら魔王城へ戻ればいいと思わない?」
「思いませんっっっ!!!」
「え? でも、皇帝は人間なのよ? 私、魔王に会いに行ったのよ? 皇帝の方が安全度高くないかしら?」
「お嬢様〜、それは死線を超えたら50歩100歩なだけです〜」
ルナとソルが目一杯反対する。
でも、結局は折れるしかないのも分かっているはずだ。
私の死の運命を避けるためだけであれば、もう諦めてしまえばいい。
ランティス様がエトワール学園に行かれた際、殿下が殺されるのを見捨てればいい。
魔族や魔物が民を苦しめるのを見過ごせばいい。
起きるかもしれない大きな戦争で、無辜の民が大勢死ぬのを見逃せばいい。
それだけだ。
でも、嫌なのだ。
殿下にも民にも幸せに穏やかに生きていて欲しい。
そして、ランティス様にも笑って頂きたい。
リディアにランティス様が封印されて、2度と会えなくなるのも嫌だ。
笑うと可愛いらしい方なのだ。
人間を嫌っておられるはずなのに、私に優しくして下さるのだ。
狂魔化した竜に想いを寄せる姿は、正しく王であられた。
王とは民のために生きる者。
そういう方を支えたいと思ったのだ。
ただ漫然と生きるのではなく、生きていて良かったと思って生きるためにも、私は戦争を未然に防ぎたい。
私の死亡フラグを折るだけのつもりが、いつの間にかたくさんの方々の死亡フラグを折る必要が出て来ましたわね。
私はにっこり微笑むと、ルナとソルの説得にかかった。




