RE:魔王城の鍵
「我のそばにいたいと申したな? だが、我は魔界へ帰るぞ? 人の世への道が出来たとは言え、我は人の世になど興味がない」
「では、私も共に魔界へ参ります!」
魔界と聞けば諦めると思ったが、ためらいの欠片さえ見せぬアイリスに、ため息をつく。
「魔界には、魔族や魔物がいるのだぞ?」
「でも、私は魔王陛下のおそばにいたいのです!」
どうしてそこまで……
何か裏があるかもしれない。
いや、ないはずがない。
それでも、紫水の輝きと甘やかな言葉に囚われる。
「どうか私を魔王陛下のおそばに置いて下さい! それが私のただひとつの願いでございます!」
「ーーそなたの血が我を呼んだのは間違いない、か……では、これを」
遂に我はアイリスの願いを断念させることを諦めた。
元より、血の盟約で拒否することは出来ない。
そう、拒否は出来ない。
したくても出来ないのだから、これは我が望んだことではない。
我は魔王城の鍵となる指輪をアイリスへと渡す。
「指輪ですか? 綺麗……」
ためつすがめつ指輪を見て、アイリスがうっとりと呟く。
はめ込まれた紅血玉は、我が血で精製したもの。
それを綺麗と言われ、口元がほころぶ。
「それは、魔王城と人の世を結ぶ鍵だ。人間は人の世で暮らすもの。だが、その指輪に願えば、どこにいても我が元へと来られよう。そなたが来たいときに来ればいい。帰りたいときもそう願えば、好きな場所へと戻れる」
人間など、自らの欲望のためなら他者を犠牲にすることをいとわず、それどころか更に犠牲を重ねても分不相応なものを際限なく求めるものだ。
そして、古の盟約を盾に都合良く我を呼び、挙句畏怖と嫌悪の眼差しを向ける。
召喚者との血の繋がりなど鎖に縛られるようなものだ。
召喚者が死ぬまで解けぬその枷に抱く憎悪。
何度となく隙をつき、魔王召喚の代償として破滅をもたらしたことか。
だが……アイリスはどこか違う。
我のそばにいたいと願い、我に微笑みかける。
恋ではないが、偽りでもない。
アイリスと接していて、なぜ、と思った分だけ知りたいと思う。
我が譲歩出来、召喚者の願いに反せず。
それが、魔王城の鍵を渡すことだった。
「ありがとうございます、魔王陛下」
優雅で気品にあふれた一礼。
その姿勢のなんと美しいことか。
外見はみすぼらしくとも、誇りと誠意は損なわれぬな。
「ふっ。地上へ帰るがいい。そなたの従者たちを連れて」
契約は結ばれた。
我も魔界へ帰るとしよう。
召喚者たるアイリスがいれば人の世に居続けることも出来るが、我は人間が嫌いだ。
アイリスは魔王城の鍵を使うだろうか?




