魔王城の鍵
「我のそばにいたいと申したな? だが、我は魔界へ帰るぞ? 人の世への道が出来たとは言え、我は人の世になど興味がない」
「では、私も共に魔界へ参ります!」
即決すると、魔王が露骨にため息をついた。
「魔界には、魔族や魔物がいるのだぞ?」
「でも、私は魔王陛下のおそばにいたいのです!」
黄金色の双眸が揺れる。
ここで魔王を逃すわけにはいかない!
命がかかっているため、私は魔王に必死ですがる。
「どうか私を魔王陛下のおそばに置いて下さい! それが私のただひとつの願いでございます!」
「ーーそなたの血が我を呼んだのは間違いない、か……では、これを」
魔王が手のひらを宙に向けると、そこにきらきらと輝く小さな光が現れた。
その光がふわふわと漂い、私の手元に来る。
それをそっと掴む。
「指輪ですか? 綺麗……」
血のように紅い石がはめ込まれた精緻な細工の金の指輪。
美しい輝きに魅せられて、感嘆の声を上げる。
「それは、魔王城と人の世を結ぶ鍵だ。人間は人の世で暮らすもの。だが、その指輪に願えば、どこにいても我が元へと来られよう。そなたが来たいときに来ればいい。帰りたいときもそう願えば、好きな場所へと戻れる」
魔王の言葉に息を呑む。
私は、指輪を握り締めると、泣きそうになるのをこらえながら魔王に礼を言った。
「ありがとうございます、魔王陛下」
魔王のそばにいられる。
常に、というわけではないが、いつでも来て良いと言われた。
これで魔王の変化を未然に防ぐことが出来るかもしれない。
魔王のそばにいると決めたとき、お父様やお母様やラルク、それにルナやソルと二度と会えないことも覚悟していた。
それでも、誰も死なないことが1番だと思ったのだ。
死ぬのが何より辛いと身に染みて知っていたから。
けれど、この指輪があれば、皆と一緒にいられる。
だから私は、魔王に対して深く頭を下げた。
山道や階段を登り、きっと私はぼろぼろでしょう。
カーテシーを披露することは男装では出来ないけれど、日本にはお辞儀という文化があった。
誠意を示す45度。
「ふっ。地上へ帰るがいい。そなたの従者たちを連れて」
魔王が笑ってそう言うと、私の身体が透け始める。
驚いて後ろを振り向けば、ルナとソルの身体も次第に薄くなっていく。
前を向き直り、魔王をもう1度見ようとしたのにーー
気がつけば、星空の下、私は王廟を眺めていた。
その手にしっかりと指輪を握り締めて。




