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婚約破棄からの死亡フラグを折るために  作者: 焔姫
第3章〜邂逅〜
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治癒

「ーーもう1度言ってくれぬか?」


「私をおそばに置いて下さい!」


 魔王に問われ、再度私は願いを口にする。

 我ながら良いことを考えたと思うと、自然と口元が緩む。

 魔王のそばにいれば、魔王がリディアに会いに行くことを止められるだけではなく、国に仇なすことも止められるかもしれない。

 そう、『聖乙女の祈り』の第2部のオープニングを変えるのではなく、第2部そのものを始めさせなければいいのよ!

 素晴らしい思いつきに、ますます笑みがこぼれる。

 幸い現時点での魔王に、リディアと会うつもりも世界を滅ぼすつもりもないようだ。

 しかし、1年後は保証出来ない。

 私の死亡フラグを折るためには、このままの魔王でいて貰いましょう。

 そのためには、魔王のそばで見張っていなくては!


「そなた、人間よの?」


「ーー私、人間ではないのでしょうか?」


 まさかの確認事項に、自分のアイデンティティが揺らぐ。

 確かにこのアイリス・ウィステリアという存在は、前世でプレイした乙女ゲームのキャラクターだ。

 つまり、2次元である。

 私、自分のことを人間だと思っていたのですが、違ったのかしら?


「いや……我の目には人間に見える……」


「良かっーーっぅ!」


 安堵して手のひらを打ちつけると、傷口に響いて、思わず眉をしかめる。

 なぜ自分が怪我をしてることをすぐ忘れてしまうの……


「貸せ」


 唐突な言葉。


「きゃぁっ! ま、魔王陛下。びっくりしましたわ」


 ふっと空気が動いたかと思うと、すぐ目の前に魔王が現れ、悲鳴が漏れる。

 先程の血も凍えるような殺気を感じないせいか、恐怖はなく、ただ驚いた。

 見上げれば、怒ったような困ったような表情で魔王が私を見下ろしている。


「貸せ」


「えっと……? 何をお貸しすればよろしいのでしょうか?」


「手だ! 手を貸せ! 血を流しているのだろう。ーー転んで。ふっ」


 首を傾げる私に魔王が苛立ったように催促する、がなぜか最後に小さく笑われた。

 その笑顔に思わず目を奪われる。

 存外、可愛らしい……

 私がおずおずと手のひらを差し出すと、魔王が傷口の上に手をかざす。

 触れそうで触れないそのわずかな隙間に感じる熱。

 寒いこの空間で冷えた身体の一部に暖かさが戻る。

 魔王の手が離れ、残念だと思いながら手のひらを見ると、派手に擦りむいて血をにじませていた傷が綺麗に癒えていた。


「ありがとうございます! 魔王陛下!」


 微笑んで礼を言うと、魔王が瞬く間に先程の位置に戻る。

 ほんの一瞬魔王の顔が赤く見えたのは気のせいだったのでしょう。

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