決意
どうやら私の血によって魔王を呼んでしまったらしいことが察せられ、私は顔を青ざめさせる。
どこの世界に擦り傷で魔王の封印を解く愚か者がいるのだろう。
けれど、元々魔王に会うことが目的なのだ。
「いえ、あの、確かにお呼びしたつもりはありませんでした。でも、私、魔王陛下にお会いしたかったんです!」
私はルナとソルを隠すように前に出ると、指を組み、魔王に訴えた。
私の言葉を聞いた途端、魔王の瞳に冷たさが宿る。
凍りつくような眼差し。
「何を欲して我に会うことを望んだ、欲深き人間よ。世界を征服するほどの力か? それとも永遠の命か? 尽きせぬほどの財宝か?」
闇黒の陽炎が魔王から立ち昇る。
震える身体。
生き延びるためにここに来たのに、このまま殺気で死んでしまいそう。
かつて魔王が行ったとされる残虐な行為の数々が脳裏を横切る。
それでも、私はままならない唇を何とか動かし、願いを紡いだ。
「力も永遠の命も財宝も望みません。私は、魔王陛下に聖乙女と会って頂きたくないだけです」
魔王から感じる絶対零度の圧が消える。
困惑したような気配。
おどおどと魔王の様子を伺うと、眉をひそめられた。
「ーー我に女神の愛し子と会う気はないが? 古の盟約に従い、そなたが呼ばねば、人の世に来る気もなかった」
「あ、あら? 魔王陛下は、聖乙女に興味がないのでしょうか?」
『聖乙女の祈り』では、1年後、魔王は聖乙女に会いに来ることになっている。
てっきりかつて自分を封印した聖乙女に興味があって、今代の聖乙女であるリディアの元へ現れたと思ったのだけれど……
そう戸惑っていた私は、ふと魔王の言葉に違和感を覚えて考え込んだ。
私が呼んだから人の世に来たのであれば、1年後は誰に呼ばれて来たのかしら?
「ない」
私の思考を断ち切る魔王の端的な答え。
ない、の一言に、聖乙女への興味関心が一切ないことが伺える。
「それではあの、世界を滅ぼすとか、そのような願いもお持ちではないのでしょうか?」
「ない」
即答する魔王。
もしかしたら、1年後、世界を滅ぼそうと気が変わって聖乙女に会いに行くのかもしれない……
めんどくさそうに私を見下ろしながら、それでも律儀に問いかけに答えた魔王を見て、私はひとつの決意を固めた。
「魔王陛下、お願いがあります」
すっと魔王の黄金色の瞳が細められる。
「私をおそばに置いて下さい!」
が、私の続く言葉に大きく目を見開いた。




