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婚約破棄からの死亡フラグを折るために  作者: 焔姫
第3章〜邂逅〜
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魔王

 寒い……

 ぶるっと身体を震わせ、私はぼんやりと意識を取り戻した。

 ゆっくりと目を開ける。

 しかし、目の前の光景は変わらない。

 暗いままだ。

 恐慌状態に陥りかけるが、ソルに何度も何度もくどいほど言われていたことを思い出す。


「まずは深呼吸。それから状況確認」


 ひんやりとして滑らかな床の上。

 横倒れていた私は、怯えながら上半身を起こすと大きく息を吸って吐く。

 気がつけば見知らぬ場所だったとき、慌ててはいけない。

 迷子になったとき然り、誘拐されたとき然り、そして恐らく転移させられたであろろう今の状況然り。

 それが家に帰るための最初の1歩だから、とソルに教わった。


「ルナ? ソル?」


 小さくふたりの名前を呼ぶが、返事はない。

 私は四つん這いになると、暗闇の中、床の上に手のひらを滑らせた。


「痛っ……ああ、さっき怪我をしたのだったわ」


 手のひらの痛みなどつい先程まで感じなかったのに……

 まだ私、冷静になれていなかったのね。


「あっ……」


 手のひらをついた辺りの床が、小さな紅い光を放ち始める。

 先程と同じ光景に、私は咄嗟に立ち上がった。

 瞬く間に紅の光が不思議な紋様を描きながら急激に広がる。

 そして、遂に床一面を輝かせた。


「ルナ! ソル!」


 紅の光に照らされ、すぐそばに浮かび上がるルナとソル。

 私は急いでふたりの元に走り寄ると、まずはルナを揺り動かそうとした、そのときーー


「何者だ?」


 深く静かに響く低い声に、私の動きが止まる。

 突然耳朶を打ったその声に惹きつけられ、私は恐る恐る顔を上げた。

 腰まで届く漆黒の艶やかな髪。

 側頭部からは天を貫くように金色の角が生えている。

 白皙の整った顔立ちの中で、黄金に輝く双眸。

 その不思議な光を放つ瞳に真っ直ぐに見つめられ、私の心臓がどくんと大きく高鳴った。


「っぁ……あ、アイリスと申します。魔王陛下であらせられますか?」


 家名は名乗らない。

 ウィステリア公爵家もエリューシオン聖王国も巻き込めない。

 だから、私は名前だけを名乗り、床の中央に立つ気品と威厳に満ちた男性に問いかける。


「おかしなことを聞く。お前が私を呼んだのだろう? ーーその血で」


「血……? これは、あの……うっかり転んでしまって……」


 その瞬間、確かに魔王が私に呆れたのが感じられた。

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