陣
開かないかもしれないと懸念していたため、私はほっと胸を撫で下ろした。
吸い込まれそうな暗闇が広がっている。
中の様子を一瞥すると、ソルは荷物から幾つかの道具を取り出した。
扉を固定し、カンテラに火を灯す。
「お嬢様はここで少しお待ち下さい! 姉さんもひとつカンテラ持ってて!」
「ええ、気をつけてね」
「分かったわ〜」
そう言うと、ソルはカンテラを掲げて王廟の中に入る。
陽の光が届く範囲で考察する限り、王廟内の床には、扉の紋様を構成していた記号と同様のものが描かれていた。
「魔術陣みたいですね〜。このような図柄は初めて見ますけど〜」
ルナが私の横で小首を傾げる。
神聖術を使うためには4大神からの祝福が、精霊術を使うためには精霊との契約が、魔術を使うためには魔術陣が必要となる。
私はいずれも適性が無くて使えないけれど……
使えずとも理論は学ぶため私にも魔術陣の知識はあるが、床に描かれたもののような複雑で大きな陣は見たことがない。
「私も初めて見るわ。床一面に描かれているのかしら?」
「ーーお嬢様、ここに石版があります!」
扉から一直線に進んでいたソルが、突き当たった壁際で私に向かって叫んだ。
100mほどの距離があるだろうか。
カンテラの灯りに照らされたソルに向かってうなずく。
「今行くわ!」
1歩足を踏み入れる。
2歩、3歩。
進む足が震えるのは、酷使したせいか、恐怖のためか。
ソルが私を迎えるため引き返して来るのが見える。
ルナが私の横で足下を照らす。
そして私はーー
「きゃぁっ!」
空間の中程で自分の足に自分でつまずき、盛大に前に転んだ。
「「お嬢様!!」」
慌てて私の元に駆け寄るルナとソル。
手のひらを擦りむいたらしく、じんじんする。
痛いし、恥ずかしい。
「お怪我はありませんか⁉︎」
「お支え出来ず申し訳ございません〜」
「っぅ……大丈夫よ、気にしないで」
ふたりに支え起こされ、ほんのり涙目で傷口を確認する。
ソルがカンテラで私の手のひらを照らし、ルナが止血のため白い布を当てる。
そのとき、私が手をついた辺りの床の一部で小さな紅い光が明滅しているのが見えた。
「あれは、何かしら? さっきは無かったような……?」
私が訝しげに目を細めた瞬間、その紅い光が床の紋様に沿って急激に広がる。
浮かび上がる紅の魔術陣。
「ルナ、ソル!!」
「「お嬢様!!」」
何もかも放り出し、ルナとソルが私の腕を掴み、出口へと走り出す。
もうすぐ出られる、と思った瞬間、私たちは紅の光に包まれ崩れ落ちた。




