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   まだまだ続く修行の日々


「おはようございます、ギード師匠」


 一足遅れてランクスが裏庭にやってくると、ギードは薪割りの手を休めずに「おお」と返事をした。


「さっきカシアが飛ばされてましたけど……また師匠に挑んできたんですか? まったく、本当に懲りないヤツだな」


 苦笑するランクスの話にギードはうなずかなかったが、無言でもひしひしとカシアの迷惑さが伝わってくる気がした。


「師匠、元気な娘さんでよかったですね」


「あんなバカ娘に育ちやがって……繭でおとなしくしていた時のほうがマシだったな」


 悪態ばかりついているが、本心では毎日カシアとやり取りできることを喜んでいるようだ。けれど筋金入りの頑固者だから、誰の前でも本心を口にすることはないだろう。


 ランクスが密かに二人を微笑ましく思っていると、ギードがさらに悪態を続けた。


「この調子だと、嫁の貰い手もつかんだろうな。一生アイツの面倒を見るなんて余生、俺は絶対にご免だぞ」


「じゃあ師匠が認めてくれるなら、オレが嫁に貰いますよ」


 急にギードが薪割りの手をとめ、おもむろに斧を足下に置いてランクスを横目で睨む。


「暇があれば町に行って女を口説き回っているお前に、カシアを嫁に認める訳ないだろうが。絶対に認めん」


 冗談で言ったのに、本気でギードに否定されてしまった。しかも最近はカシアの訓練につきっきりで、口説きにいく暇もないのに。


(何気に師匠、親バカなんだな。まあ待ちに待った我が子だから当然だろうけど……)


 内心複雑な思いをしながらランクスはその場から離れ、丘のほうへと足を運ぶ。

 そこでは朝の訓練を日課にしているカシアが、シャンドと一緒にランクスが来るのを待ち構えていた。


「遅いぞランクス、早く剣の相手をしてくれ」


 さっき師匠に飛ばされたばかりのヤツが……せっかくオレが呼びに行ってやったのに。飛ばされてたまたま丘に来ただけだろうが。


 ここまでくると、腹立たしさを通り越して呆れてしまう。ただ、一途に強くなりたいと訓練に手を抜かないところは気に入っていた。

 少しからかってやろうと、ランクスは剣を抜きながら「そういえば」と口を開く。


「さっきギード師匠が言ってたぞ。お前さんが一生嫁に行かなくて、自分が面倒を見る余生なんて絶対に嫌だって」


 こういう話は苦手らしく、カシアは少し顔を赤らめ、そっぽを向きながら憤慨した。


「マジかよ、あのクソジジィ……そこまで言うなら、さっさと嫁に行って見返してやる」


 初々しい反応が面白くて、ランクスはさらにたたみかけようと話を続ける。


「もしオレが嫁にもらってやるって言ったら?」


 予想に反し、あっさりカシアの顔から照れが消えた。


「それは嫌だ、絶対ランクスの嫁にはなりたくないな。なんか偉そうなだけだし」


 もっと恥ずかしがるかと思ったのに、さらりと断言されてしまい、心の中でランクスはがくりと肩を落とす。別に本気で娶る気はなかったが、ここまでバッサリ切り捨てられると流石に傷つく。


 その話を聞いて、シャンドが腕を組んで何度もうなずいた。


「そうだな。姐さんにこの男は相応しくない。悪い虫は稽古の相手だけをすればよい」


 いや、むしろ悪い虫はテメーのほうだろうが!

 ランクスはキッとシャンドを睨みつけ、心の中で叫ぶ。


 魔界へ行った一件でやけにカシアへ心酔するようになったシャンドは、がっつりカシアに鍛えられているらしく、以前よりも少し強さが増している。とは言っても下の下から下の中になった程度で、やはりまだまだザコ魔王だった。


 訓練中に手が滑ったフリでもして、シャンドを痛い目に合わせてやろうか。そんなことをランクスが考えている最中、丘へエミリオとリーンハルトがやってきた。


「ランクス、仕事が入りましたよ。さっさといきましょう」


 エミリオに急かされ、ランクスは肩をすくめながら二人に歩み寄る。


「今回の相手はどんな感じだ?」


「そうだな……中堅の魔王が一匹と、キマイラ数匹、その他の魔物は力の弱いものばかりだ」


 リーンハルトの答えを聞き、その内容なら……とランクスはカシアに振り向き、手招きする。


「カシア、お前も来い。実戦のほうが腕も上がるぞ」


「もちろんだ。今日こそはアタシに魔王をやらせてくれよ」


 カシアの表情が一気に明るくなり、三人の元へ駆けてくる。

 生意気なヤツだと、ランクスはカシアの額を指で弾いた。


「バカ野郎。まだお前さんは村で最弱なんだから、当分の間はザコの始末だけだ。悔しかったら強くなれ」


「言われなくても強くなってやるよ。まずはジジィの前に、アンタに勝ってみせる」


 そんなやり取りをしながら、各々にエミリオの腕や袖に掴まり、移動の魔法を発動する。



 新たな土地へ移動する瞬間。

 今日も変わることのないストラント村が眼下に広がり、無事を祈るようにカシアたちを見送ってくれた。


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