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   無駄になった涙


「そんな役目は俺に回せばよかったんだ。それが親の努めだ! ……四十年も待ったというのに、どうして目の前で自分の子供が消えていくのを見なけりゃいかんのだ」


 妙な話にカシアは首をかしげる。


「は……? ジジィ、なに言ってんだ?」


「今まで黙っていたが、お前は……俺の子だ」


 ギードの子供がアタシ?

 アタシの親がギード?


 まったく考えもしなかった告白に、カシアのまばたきが増える。

 沈痛な面持ちのランクスは、「すみません、師匠」とギードに頭を下げた。


「どんな状況になるか分からなかったから、オレがずっと様子を見てきたのに……こんな事態になるなんて」


 ランクスの反応もさっぱり理解できず、カシアが眉間にシワを寄せていると、


「驚いたわ、まさかこんなことになるなんて」


 ルカとオスワルドが部屋に足を踏み入れ、ギードの隣に並ぶ。


「な、なあ、アタシがギードの子供って、本当なのか!」


「そうだよ。本当はね、あたしの占いでカシアがギードの子供だってことは最初から分かっていたのよ。ただ、どうやって呪いを解いて、この村に現れるのかは分からなくてねえ……下手に村のみんなに伝えてしまえば時の流れが変わって、呪いが解けずにカシアが現れなかったり、現れても途中で消えちゃったりするかもしれないと思ったから、あたしたち三人とランクスの胸の中に、今まで隠していたんだよ」


 瞳を閉じて語るルカへ、オスワルドがうなずいた。 


「本当ならば、もっと詳しいことが分かってからお前に伝えようと思っていたのだがな。早とちりするところは、親によく似たな」


 信じられない話に、カシアは棒立ちになる。


(ずっとジジィや村の連中が誕生を待ちわびていたのが、アタシだったなんて……)


 捨てられた訳じゃなかったんだ。

 思わずカシアの目からも涙が溢れ出た。


 杖の光はカシアの体にも広がり、全身が光り輝いていく。

 溢れる涙すら光を帯びていく。


 光は強まり、カシアの体から光の粒が生まれ、繭に集まっていく。

 自分の体が、心が、崩れていく気がした。


「消えるな、カシア!」


 ギードがこちらへ手を伸ばしてくる。

 シワが刻まれた大きな手。


 幼い頃から憧れていた、父親の手。


「父さん!」


 カシアはギードの手を握る。

 せめて自分が消えるまで、ずっと求めていた温もりを感じていたかった。

 光はさらに輝きを増し、閃光となった。


 急激に光は弱まって、部屋の中が元の明るさに戻る。

 部屋には呪われた子供の繭はなく――ギードと手を繋いだままのカシアが、消えずに残っていた。


「あ、あれ……なんでアタシ、消えないんだ?」


 訳が分からず珍妙な面持ちになるカシアへ、オスワルドがため息をついた。


「他人に使えば、失った時を取り戻すために、解呪した人間は時を奪われて消滅する。が、自分に使ったところで、己に時間が戻ってくるだけで消えることはない……あくまで理論上の話で、この目で確かめたことはなかったがな」


「そうねえ。あたしもそう考えていたところだよ。この村じゃなく、他の地に赤子のカシアが飛ばされたのは、解呪の際に時空が歪んで移動しちゃったんだろうねえ」


 ルカの相槌にギードが苦虫を噛みつぶしたような顔を向けた。


「それを知っていたら、こんなにうろたえる真似はせん」


「言おうと思ったら、勝手にお前がカシアの手を握りに行ったんだ。さすがのお前でも、子供が消えるとなれば狼狽するもんだな」


 珍しく微笑を浮かべるオスワルドへ、ギードは「この野郎」と腹立たしげにうなった。

 しばらく頭が働かず、カシアはギードたちのやり取りを眺めていた。しかし次第に自分が消えなかった嬉しさがジワジワ込み上げてきた後、ふと我に返る。


(……つまり、アタシは泣く必要なんてなかったんだな。うわっ、恥ずかしい)


 気を紛らわせようと頬を掻こうとした時、ギードと繋ぎっぱなしの手に気づき、いよいよカシアの顔が火照ってきた。


「ジ、ジジィ、隙あり!」


 我慢できなくなり、カシアはつかんでいた手を引っ張る。不意の動きにギードの体がよろけたところを見計らい、顎を狙って拳を突き上げようとする。

 しかしそんな攻撃が効く訳もなく、ギードは無言でカシアの首に腕を巻き、頭を拳でグリグリしてきた。


 

 そんな親子のやり取りを呆然と見つめていたランクスは、「やっぱり似たもの親子だ」としみじみ言葉をこぼした。


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