表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/79

   ジジイを見返すためなら

「グワァァァッッ!」


 絶叫しながらソルは地に落ち、その場をのたうち回る。

 遅れてカシアが着地すると、後ろから大きな手が頭をなでてきた。


 カシアが首をかたむけて後ろを見ると……そこには髪を乱し、肩で息をするランクスの姿があった。

 すぐにランクスは落ちてきた腕から杖を奪うと、その腕をソルのほうへ蹴り飛ばす。


「地上に出たらこっちのもんだ……ギード師匠たちが味わった四十年間の苦悩……オレがテメーに返してやる」


 斬られた腕から滴る血をそのままに、ソルは起き上がり、歪んだ笑みを浮かべた。


「ギードだと? フンッ、知っているぞ。オレのジジィが殺された時に、運よく魔界へ戻ってきた部下から話は聞いている。ジジィが誕生前の赤子にかけた呪いを解くために、杖を奪いに来たか」


 凍てついた視線を送りながら、ランクスが「知っていたのか」と短く答える。

 ソルの口から嘲笑がこぼれた。


「……クククク、使えるものなら使ってみろ。呪いを解くために命をかけるっていうならな」


「命をかける? ……どういう意味だ」


 息も絶え絶えにランクスが問うと、ソルはどこか愉快げに声を弾ませた。


「エナージュの杖を使えば呪いは解けるだろう。だが、我が祖父が施したのは遅延の呪い……杖を使った者が今まで生きてきた時間を、呪いを解く力へと変えるのだ。要は呪いを解こうとした人間は時間を奪われ、存在そのものが消滅するってことだ」


 すぐにソルの言葉が頭に入って来ず、カシアは目をまたたかせる。


(杖を使えば、使った者が消滅? まさか、死ぬってことか)


 村へ持っていけば、すぐにでも呪いを解くことができると思っていたのに……。

 死という言葉が胸に迫り、カシアの鼓動を大きく脈打たせる。


 悔しげに歯ぎしりするランクスを鼻で笑うと、ソルは洞窟へ足を向けた。


「今日はオレの負けだ、引き上げよう。だが、杖はいずれ奪い返させてもらうぞ。覚悟しておけ」


 そう言い残し、ソルは元来た道を戻っていく。

 二人はソルの気配が完全になくなるまで、洞窟を睨み続ける。しばらくして気配が感じられなくなり、ランクスが息をつき、苦々しい表情で手中の杖を見つめた。


「これをルカ師やオスワルド師の所に持って行けば、なにか分かるかもしれない。カシア、取りあえず村へ戻るぞ」


「あ、ああ」


 足をふらつかせながらも歩き出したランクスの背中を見て、カシアは思う。


(ギードのジジィなら、迷わずガキを救うために自分の命を犠牲にする)


 カシアは短剣を鞘に収めると、拳を強く握った。


(ジジィが死んだら見返せない。それだけは絶対に嫌だ。アタシは命をかけてジジィを見返したいのに……)


 ついてこないカシアに気づき、ランクスが歩みをとめて振り向く。

 その手にあるエナージュの杖だけが、鮮明にカシアの視界へ入ってきた。


(そうか。ジジィを見返すためには――)


 カシアは足に力を込めてランクスの元へ駆け寄ると――素早く杖を奪い取り、そのまま繭がある小屋へ疾走した。


「おい、カシア! いきなりなにを……」


 戸惑うランクスを無視し、カシアはそのまま突き進む。


「まさか……待て、早まるな!」


 いつになく思い詰めた顔を見てか、ランクスが事態を察知し、カシアを追いかけようとする。


 普段なら追いつかれてしまうが、酷い傷を負っているらしく、ランクスはその場に膝をつく。

 一瞬カシアの走りが遅くなる。


(ランクス……)


 初めて見たランクスの痛々しい姿に、胸が重くなる。

 しかし「ごめん」とつぶやき、カシアは足を早めてランクスから遠ざかって行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=755204208&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ