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   ようやく地上へ

 ついにカシアの体は地上に飛び出る。

 青い空に白い雲、緑豊かな森。いつもの見慣れた光景がカシアに力を与えていく。走り続けた疲れも嘘のように楽になり、身軽な体が戻ってきた。


「よし、早く繭のところへ行かないと……」


 両手でエナージュの杖を持ち、数歩カシアが走り出した後、洞窟から大きな影がヌッと現れた。


「待ちやがれ人間! よくもオレの杖を奪ってくれたな。許さんぞ!」


 洞窟から出てきた瞬間、ソルがカシアへ突進してくる。


 地上に出ればこっちのものだ。

 即座に魔法で高く浮き上がり、ソルの攻撃を避ける。


 勢いあまってソルが前に体勢を崩す。無防備な背中がカシアに向けられた。


(よし、今の内に!)


 カシアの手から火の玉が、五個、六個と続けざまに飛び出す。


 全弾、ソルの大きな背中を焼いた。

 しかしザコとは違う、魔界に領地を持つ魔王。焼けたのは服だけで、肌どころか体毛すら焦げていなかった。


 ソルがギロリと目を剥き出し、カシアを見上げる。


「その程度の力でこのオレを倒そうとは、笑えるな」


 ニッと牙を見せて笑い、ソルは地を蹴る。

 大きな体躯に似合わぬ速さでカシアへ迫ってきた。


 魔法が間に合わない。

 咄嗟に判断し、カシアはシルフィーの剣で応戦しようとする。


 キィン――ソルの鋭い爪が繰り出され、カシアの短剣をかする。

 その力に押され、カシアの体が地へ落ちた。


「くっ……!」


 地面に直撃する寸前、カシアは結界を張って衝撃を抑えた。

 だが結界ごと体が上へ弾み、仰向けになってしまった。


 すぐにカシアはその場から離れようと、体を回転させて横に退く。

 直後、 ソルの足が着地し、かろうじて踏み潰される事態を回避した。


 カシアは起き上がって距離を取ろうと、後ろへ跳ぶ。

 ソルに目を向けると――その手には、いつの間にかエナージュの杖が握られていた。


「この野郎、その杖を渡しやがれ!」


「誰が渡すか。オレの邪魔をした他の人間も、魔物もぶち殺してやりたいが、まずは手始めにお前を血祭りに上げてやる!」


 再び迫ってきたソルを、カシアは上に浮かんで避けようと試みる。

 しかし、その動きは読まれていた。


 カシアの動きに合わせて、ソルはその場を跳躍していた。

 ソルの巨体が、カシアを真っ直ぐにとらえて接近してくる。


(しまった、逃げられな――)


 カシアは身を守ろうと腕を交差し、覚悟を決めた。

 風圧がこちらへ届いた時、


「甘いな、この三流魔王」


 聞き慣れた声。

 カシアの襟首が後ろへ引っ張られる。


 そして鮮やかな一太刀が、杖を持つソルの腕を切り落とした。

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